7 騒乱

第45話 人族がダンジョンに攻めてきた

「領主様。森のダンジョンで金が発見されたとの情報が」


「何?」


 ここはレンヌ街の領主の館である。


「王室から依頼のあった娘の探索に我が領からも応援を出していたのですが、一兵士が偶然ダンジョン内の川底で大きな砂金を発見したようで」


「なんと。その情報は秘匿されておるな?」


「無論です。そもそも、その兵士が宝飾店にこっそりと売りに来たところを、行動を怪しんだ部隊長が後をつけて発覚したようです」


「金の売買は個人レベルでは簡単ではないからの」


「ええ。作戦行動中の砂金発見であったようでして。そこで探索部隊を差し向けたところ、森のダンジョン3階層の未発見だった川で砂金が多数確認されました」


「でかしたぞ。鉱山があるということか?」


「鉱床はいまだ発見されておりません。ただ、砂金を採取してもしばらくすると自然と生じてくるようでして」


「ほお。さすが、ダンジョンの不思議ということか」


「はい」


「よし、森のダンジョンはまだ誰も領有宣言をしておらん。我が領で攻略していくぞ」


 この世界では、ダンジョンの領有を確定するには

  ①ダンジョン周囲のエリアを領有していること

  ②ある程度のダンジョン攻略実績があること

 この2点は最低でも必要とされている。


 攻略実績はダンジョンの難易度によるが、Sクラスダンジョンであれば最低でも5階層程度の攻略実績が必要だ。


 しかし、森のダンジョンに関しては、ダンジョン攻略どころか周囲のエリア領有にまで至っていない。領有したと言えるには、確実に占有している、例えば領民が村を作って農業活動に従事している、というようなことが必要である。


 単にそのエリアを発見したとか、うろついていたとかでは領有とは認められない。


 そこでレンヌ街としては、まず森のダンジョン周囲に拠点を作った。さらに、森のダンジョン2階層に拠点を作りはじめたのだ。


 ◇


「なんじゃと?2階層で人間どもが拠点を建設しておるじゃと?」


「ええ、そうなんですよ。ま、できあがったころにサクッと壊しにいこうかと」


 ダンジョン協会のリュージュさんが第1報をもたらしていた。


「しかし、なんでまた突然そんなことに?」


「部下に軽く探らせたのですが」


 きっかけは召喚者が逃げ込んだことだった。

 召喚者を探索することで街の領主がダンジョンの価値に改めて気付いた。


 かつて、領軍を投入しては全滅を繰り返してきた。そのために不可侵ダンジョンとして有名だったが、召喚者捜索のためダンジョンに入ったところ、確かに魔物は強いが、それ以上に落とす魔石が強大だった。魔石は高く売れるのだ。


 しかも、3階層に流れる小川で砂金が見つかった。

 つまり、金鉱山の可能性が出てきた。


 4階層以降は限られた人間しか行けない。だが、3階層までなら多くの人間が到達可能だ。そこで、領主は2階層に拠点を作り、3階層アタックを始めたい。


「まあ、そんなところらしいです」


「ふーん、向こうみずな領主らしいの」


「ええ、代替わりしたばかりのボンボンらしいですわ」


 ◇


 聖域と言われ不可侵と警戒されている森のダンジョン。


 浅い層でウロチョロしてる分には見逃されたが、領有を宣言し拠点を作り始めた。本格的な開発に乗り出すということだ。そのような領主にダンジョンは怒った。


 人間どもの建物建設は実にもたもたしている。メンドくさく思ったリュージュさんは建設途中の建物、そして、外のレンヌ街の拠点も破壊した。さらにそのまま街へのりこんでいったのである。


 突然街にやってきた、2mをらくらく越える身長の、筋骨隆々、牛の頭を持つ化け物。伝説のミノタウロスだ。


 門を破壊して街に入場すると、そのまま領主の館に直行し、あっという間に館を破壊しつくした。


 人間側はかろうじて攻撃したが、まるで刃も矢も通らない。死者は出なかった模様であるが、大量の負傷者を出した。


 領主の館が破壊されるのに時間はかからなかった。領主はリュージュさんにとっ捕まり、破壊しつくされた屋敷跡に空高くはりつけにされた。殺されはしなかったが。


「愚かな人族のくせに森のダンジョンを荒らすとは何事。天罰を受けよ」


 なる警告文を貼り付けられて。 

 領主の精神は破壊された。

 

 ◇


「陛下、お耳を」


「……なんと!レンヌ街でそのような騒ぎがあったとな?」


「はい。レンヌ街はパニックに陥り、多くのものが避難を始めております」


「うーむ。召喚者騒動は外部にもらしたくないが」


「森のダンジョンの脅威は拡散されておりますが、召喚者騒動は伏せられている模様です」


「であるならば、いい機会である。森のダンジョンとやらを攻略せよ。人に楯突く魔物など、あってはならん」


「はっ」


 この事態に動いたのは王室だ。そもそも召喚者騒動を周囲にもらしたくない。漏れる前に騒動を収めたい。レンヌ街の領主は王室の係累であるため、情報を共有していたが。



 ここで困ったのは、国軍だ。彼らは呑気な王族と違ってダンジョンの怖さを知っていた。ましてや、その頂点にある森のダンジョン。そこを気軽に攻略せよ、と言われても、軽く全滅する未来しか見えない。


「どうする?」


「あの濃い魔素に対応できる人間なんぞ、ほんの一握りの冒険者かいま修行を続けている召喚者様ぐらいのもんだぞ」


「冒険者はムリだろ。王命なぞ、屁のカッパぐらいにしか思っておらん」


「召喚者様に出向いてもらうか?」


「うーむ、太刀打ちできるとは思えんが」


「王の口から言わせればいい。召喚者様に出陣してもらえるよう」


「よし、とりあえず俺達でアタックをかけて、偽の敗退の報を王に届けよう。そして、召喚者様に出張ってもらうようにしむけよう」


 その作戦は的中した。

 王は召喚者の出陣を命じた。


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