第41話 相馬美也2 黒い王室

「美也はなんで、このダンジョンに来たわけ?」


「実は、私、王国の醜さに気づいて城を抜け出して来たんです。でも見つかっちゃって隠れるとこ探してたら、このダンジョンの噂を聞いて」


「王国の醜さ?」


「ええ。大体、私達を勝手に転移させること自体が許せませんよね」


「ああ、立派な誘拐事件、犯罪だよな」


「最初に転移したときは涙ながらにこう言われました。王国は死に瀕している。悪辣な魔族の攻撃を受けて。是非とも貴方様のお力をおかしください!てね」


「実際は、違ったと」


「ええ。あとで分かったんですが、魔族の国は平和な国だそうです。魔王も穏やかで賢王という評判なんです。勿論、王国に攻撃を仕掛けているなんて事実は微塵もありません」


「なるほど。それを聞くと余計に金鉱山目当てだっていう傲慢な人物像が思い浮かぶな」


「王からしていやらしいんですよ。私の体を舐め回すように見てくるし。女王は金銀宝石にしか興味がないようだし、王女は冷酷残忍な性格に見えましたね」


「でも、最初は逃げなかったんだろ?」


「ええ。この腕輪をはめろと言われて。この世界でやっていくには必要な腕輪だと」


「ああ、ちょっと見た感じじゃと、拘束の腕輪じゃの。奴隷にすることの多い腕輪じゃ。今は機能が停止しとるがの」


「ある日の訓練で私は誤って仮死状態になったことがあるんです。この腕輪は対象が死亡すると機能が停止するみたいで、私が目を覚ましたら、自由になったことに気づきました」


「ちょっと見せてみるのじゃ……ふむ。デンジ、機能を復活させた。ちょっとはめてみよ」


「お、大丈夫なのか?……なんだか軽くピリピリするな」


「ああ、危ないですよ!」


「いや、全然だよ。これが拘束の腕輪?壊れているのか?」


「ダンジのレベルではこの腕輪は役にたたんのじゃ。初歩的な魔道具じゃの」


「初歩的……」


「じゃあ、はずすぞ」


「えー、簡単につけたりはずしたりはできな……あ、はずしちゃった」



「で、奴らの醜さに気づいたと」


「ええ。私、認識阻害スキルを得たのでこっそり城の会議室みたいなところで潜伏してたんです。盗聴目的です」


「黒い会話を聞いたと」


「はい。彼らによると、私はまるっきり使い捨て。失敗すればそれまでだし、成功しても葬りさるつもりでした」


「なんでだよ」


「国民に人気者になるからじゃろ。そういうのは不要じゃ」


「そのとおりなんです。この腕輪に爆破の魔法がこめられているらしくて」


「うむ。確かに」


「なんだよ。フレイヤ、そんな危ないものを俺にはめたのか」


「問題ないのじゃ。お主にはこの腕輪は通用せんよ。それに、仮に爆発してもおまえはかすり傷程度じゃろ」


「まあ、いいや。それで城を抜け出したと。でも、逃げるためとは言え、ここは難しいダンジョンだって言われてたろ?」


「ええ。でも大丈夫かなって。私達召喚者は魔素耐性を持っていると言われていて、実際そうでした。で、私は他のダンジョンだと10階以上に到達してたんで、ここが難しいとしても5階ぐらいならなんとかなるかな、と」


「ああ。全く通用しなかったんだ」


「はい。3階層を過ぎたあたりから苦しくなりだしたんですが、そこでやめればよかったのに、3階層だと結構人間が来たりするらしいのでムリしました」


「確かに助かったのはラッキーの一言だな」


「ほんとに。私の認識阻害スキルもここでは役にたちませんでしたし。あの、ここで修行したら私も10階層とか行けたりしますか?」


「可能性はあるの。10階層に来る人間はおるのじゃ。魔素慣れして魔人になっておるがの」


「そうなんですか!私、3階層あたりで修行を積んで10階層のダンジさんの食堂に行きたいです」


「ああ、料理美味かったろ?」


「美味しいなんてもんじゃありませんでした。日本でだって、行列のできるお店とか予約のとれないお店とか行ったことありますけど、ダンジさんには全然かないません」


「おや、褒めてくれて嬉しいぞ。まあ、同郷の誼で助けてやりたいが、そうだな、とりあえず5階層にでも拠点を作るか?」


「でも、魔物が強くて……」


「魔猫を派遣してやるよ。結界を張って防御してくれるんだ」


「ああ、猫ちゃん?ぜひ!私、猫ちゃん大好きなんです!」


「よっしゃ。それで魔素慣れしていけば、自然と強くなるよ。それに俺の料理には体を健康にし、壮健にさせる効果があるみたいだしな」


「料理もいただけるのですか!」


「問題ないぜ。魔猫の飯も必要だしな。ああ、魔人に進化したら、もれなくマジックバッグも発現するって話だ。そしたら、数日分を詰め込めるな」


「ホントですか?そんな伝説級なものも?」


「ああ、このダンジョンの高位魔物はみんな持ってるってさ。魔猫ももってるしな。そこに料理をまとめて放り込んでおけば、好きなタイミングで飯食えるだろ」


「うわっ、嬉しすぎる」


「あとな、お風呂とかトイレとかの魔道具も用意してやる。王国では苦労したろ?」


「ああ、料理並みに嬉しいお話です。本当に困ってました。とっても嬉しいです!」


「じゃあさ、この建物のそばに拠点を作らしてもらおうか」


「許可とか大丈夫ですか?」


「高位魔物は数がいないんだよ。だから、好き放題さ」


「本当に、何から何までありがとうございます!」


「まあ、いいって。数少ない同郷出身者だしな」


「ああ、それなんですが……」


 美也はさらに黒いことを話し始めた。


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