第39話 ダンジョン協会で登録すると
「では帰るかの」
「あのさ、俺、ダンジョン協会で登録したいんだけど」
10階層のダンジョン教会はまだ建築途中だ。
内装でもめているらしい。
「では、向かうのは5階層の協会本部じゃの」
◇
協会本部は警部補交番とか小さな銀行支店程度の大きさだ。
防御結界と隠蔽魔法がかかっており、通常は周りの景色に溶け込んでいる。
「こんにちは~」
通常の人間には建物が見えない。
5階層で楽々呼吸ができる程度にまで体質が魔人よりに変化していくと、気配探査スキルが向上し建物が判別できるようになる。
建物は2階建てで白塗りの壁。
特徴的な窓ガラスが並んでいる。10cm角程度のガラスが格子に収まっているのだ。しかもガラスは分厚くて中が歪んで見える。
建物の中は別段混雑しているわけではない。
何人かの魔物が屯しているだけだった。
受付はあるが、数名の職人も奥の方でお茶を飲んで談笑してるだけだった。
「おや、ダンジ様ではありませんか。ようこそ」
出迎えてくれたのは、リュージュさんだ。
俺の店に協会支部建設の挨拶に来た人だ。
「登録に伺いました」
「ああ、それはそれは。ではこちらへ」
綺麗なおねーさんが窓口に座り、登録してもらう。フェアリー系の魔物らしい。登録自体は時間のかかるものではなかった。
その後、簡単に活動内容を説明してもらった。この協会の最大の目的は魔物の間引き。スタンピード対策のためだ。
低位魔物は数が増えて密度が増えると、突然、狂乱状態になる。力も5割増しから2倍前後になり、数も多いから、高位魔物にとっては脅威である。だから、日頃から魔物の数を減らす必要がある。
「ダンジ様は日頃から大量の魔物を討伐しておられますから助かります」
「店の周囲には低位魔物は出現しないんですが、少し離れるとわんさか襲ってきますからね」
リュージュさんと世間話をしていると、入口のほうが騒がしくなった。
「おーい、回復薬もってきてくれよ」
どうやら、けが人が運ばれてきたようだ。そちらに目をやると、かなり重傷っぽい。20代前半の女性か?意識はなくなっているようだ。どうやら、5階層の入口付近で倒れていたらしい。
「こりゃ、回復薬では完全には治らんかもしれんね。誰か回復魔法のできるやつ呼んでこい」
「妾が治してやろうか?」
「おお、フレイヤ様、助かります」
フレイヤは回復魔法をかけてけが人を直していく。いままで俺達には危険な場面がなかった。だから、フレイヤが回復魔法を使う場面どころか、その魔法を持っていることさえ知らなかった。みるみるうちに傷口が塞がっていくのは地球出身の俺には奇跡としか見えなかった。
「この女は人間じゃの。よく5階層までたどりついたのじゃ」
人間レベルだとせいぜい3階層が限度らしい。他のダンジョンならば10階層ぐらいがこのダンジョンの3階層にあたるそうだ。魔物も強いが、魔素濃度が特別濃いらしい。
「ううーん」
「お、意識が戻ったのじゃ」
「……ここは?」
横たわりつつキョロキョロとあたりを見渡す。
「5階層の入口で倒れていたのじゃ」
「……ああ、思い出した。5階層に入った瞬間に魔物に襲われたんだ。なんとかその場を逃げ出せたんだけど、途中で意識がなくなって……」
「偶然発見したから良かったものの、あのままだと魔物にくわれていたか、そのまま命を落としたかもしれんの」
「ここにいる皆様方が私を助けてくれたのですか?」
「そうじゃ」
「ありがとうございます!なんて御礼を言えば。ああ、私は人族のミヤと申します」
「ミヤか」
俺達も自己紹介をしつつ
「そういや、お主、黒目黒髪じゃの。ダンジと同じではないか」
彼女は綺麗な顔立ちをしてはいるが明らかに極東の東洋人だった。
「まさかとは思うけど、転移してきたりして」
「ああ、そのまさかです!というか、貴方もこの世界では珍しい日本人顔」
「ああ、俺も転移してきたんだよ。じゃあ、ミヤは美也?」
「そうです。相馬美也。22歳です。あっちでは大学生でした」
「そうか、俺は森野弾児35歳だ。ダンジと呼んでくれ。レストラン開店当日にこっちに転移してきたんだ」
「ああ、私は就職が決まっていろいろ準備していたら突然この世界へ」
「そうかー、同郷かー。ま、とにかく怪我がなおったばかりだ。リュージュさん、この娘しばらくここで静養できる?」
「勿論ですよ。ああ、お代とかは不要ですからね」
「ああ!本当にありがとうございます。見ず知らずの私を助けて頂いて!」
「僕たちは敵対しないならば、基本的に優しいからね。それに金銭的に困っているわけじゃないから、どうぞ気になさらず」
「また明日来るよ。ゆっくり休めよ。君さ、日本の食い物とか食いたいだろ?いろいろ持ってきてやるよ」
「え、そうなんですか?物凄く嬉しいです!王国の食事水準あれなんで……」
まあ、あんなだと日本人にはキツイよな。
俺だったら、暴れてるよ。
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