6
そりゃしないよ。しませんけどね……。
ぼやくそうに言いながら、諒ちゃんは厄介者を見るような半目で私のことを見た。私は、そんな目で見られることが不本意だったので、じっと諒ちゃんを見返した。
先に根を上げたのは、諒ちゃんだった。
「俺と真希がキスしないのは、時も相手も正しくないからだよ。真希はまだ中学生だし、俺は真希の叔父さんだろ。」
そうね、と頷いて、私は更にその先の言葉を待った。でも、諒ちゃんはなにも言わずに、オムライスをスプーンですくって口に放り込んだ。まだ私が納得していないことくらい、百も承知のくせに。
「待ってよ。それだけ? 私が社会人で、諒ちゃんが私の叔父さんじゃなかったら、キスするの? 時と相手って、そういうこと?」
諒ちゃんは、はあ、と、肩で息をついた。疲れた、と、全身で表すみたいに。それでも私は、納得しなかった。諒ちゃんが答えてくれたことだけでは、私の正しい時が明日で、正しい相手が船井くんなのか、ちっとも分からない。
「たらればには意味がないだろ。」
諒ちゃんは、なんだか不機嫌そうだった。いつもなら、私がいくら質問を重ねたって、反対に面白がるような顔しかしないのに。
「だって、分からないんだもん。私は明日、船井くんとキスするのが正しいの?」
「正しいとか正しくないとか、考えるようならやめとけ。」
「諒ちゃんはいつも、考えてないの?」
「考えてないよ、全然考えてない。」
また、不機嫌そうに。
全然考えてないって……、と、私はちょっと考え込んでしまった。それは、考えようもないくらいに相手とキスがしたいってことだろうか。それとも、考えようとも思わないくらい、自分のことも相手のこともどうでもいいってことだろうか。
後者のような気がした。諒ちゃんの女の人が、ころころ変わるからかもしれない。諒ちゃんは、長続きしたい、なんて言って髪を切ったけれど。
諒ちゃんは、むしゃむしゃとオムライスを平らげていく。私は冷めていくオムライスを見つめて、じっと動けないでいいる。諒ちゃんが、こんなふうに私の質問を遮るような雰囲気を出したのは、はじめてのことだった。
「……諒ちゃん。」
「なに。」
やっぱり、声がぴしゃりと私を拒絶している。
「……私、船井くんとキスしてきていいの。」
諒ちゃんは、答えない。私も、それ以上言葉が見つからない。
無言の間がしばらく続いた後、折れたのは諒ちゃんの方だった。
「……ごめん。」
短い、謝罪。
「いいも悪いもないよ。真希が決めることだから。」
諒ちゃんの声は、静かだった。正しい大人の物言い、という感じがした。私は、聞きたいのはそんなことじゃない、と思ったのだけれど、口を閉じていた。これ以上、諒ちゃんと険悪になりたくはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます