電子の海の彼方で、わたし達は永遠の愛を誓う~もう絶対に貴方を孤独にはさせない~
GameOnlyMan
電子の海の彼方で、わたし達は永遠の愛を誓う~もう絶対に貴方を孤独にはさせない~
「うーん。今日も仕事がキツかったぁ。でも、これで明日。週末は二連休。あの人とゆっくり遊べるわね」
何処にでもいる二十代OL。
それがわたし、
今日、金曜日も通勤電車に揺られて帰宅後、ご飯食べてお風呂入って一休み中。
明日からの連休を前に、ベットの上で伸びをして時計を見つつ時間待ちをしている。
「そろそろかしら。じゃあ、ログインしなきゃ」
わたしはVRMMO用のゴーグルを装備し、ベットに横たわる。
とても「遠い場所」にいるカレシに逢うために。
「リンク・スタート!」
目の前に虹色の光が溢れだした。
そしてわたしの意識はVRMMO世界へと転送された。
◆ ◇ ◆ ◇
「よう。今日も時間厳守だな、アオイ」
「もう! ここでは本名じゃ呼ばないでよね、グランド」
西洋中世風な宿屋の一室。
そこに、わたしは女魔術師の恰好で出現する。
既に先に来ていたカレシ、軽戦士姿のグランドこと
「すまん、すまん。だって、姿はリアルのままだからな。イヤ、少しは美化されてるかな?」
「もー、リク君の馬鹿ぁ。貴方だって現実よりはオトコマエだぞ? うふふ」
遠く離れてしまい、今ではVRMMO世界でしか逢えないわたし達。
毎日、二人でミッションをこなし、そして終わったら長期宿泊契約している宿屋の部屋に帰って、眠るまで逢瀬を楽しむ。
日々の暮らしに追われているわたしにとって、最大の楽しみだ。
「ありがと、アオイ。いや、マルヴェ。じゃあ、今日もミッションをこなそうか」
「そうね、グランド。出来ればダンジョンとかゴブリン退治は遠慮したいかな。花畑でのミッションとか、あったら良いなぁ」
わたしはグランドと手を恋人繋ぎしながら、宿屋の部屋を出た。
◆ ◇ ◆ ◇
「それにしても、アオイは凄く上手くなったな。一年前まで
「それはね、リク君の指導が良かったからよ。ここでリク君と一緒にいられるのが、楽しかったんだもん」
冒険ミッションを終え、宿屋に帰った二人。
備え付けの風呂に混浴した後。
今は二人。
ベットで「一戦」を終えて、けだるい雰囲気の中。
裸で抱き合い、
「ごめんな、アオイ。一年前に俺があんな事にならなきゃ……」
「いいの、リク君。こういう形でも貴方に逢えるのは幸せよ、わたし」
リク君が「遠い場所」にいってしまった時、わたしはもう逢えないと酷く悲しんだ。
しかし、彼が事前に保険会社と契約していた保険内容が実行され、今もわたしはVRMMO世界でリク君と逢って愛し合えている。
「それでも! それでも、ずっとこんな形じゃダメだよ。だって……だって、俺は『死人』なんだよ!」
「それでもなの! わたしにとってリク君がいない世界なんて、もう嫌なの。ずっと、この世界で一緒に居たいわ!」
一年前。
リク君が交通事故で瀕死の重体になったとき。
保険会社の人が病院に来て名刺を渡しつつ、リク君の家族とわたしにこう語った。
「リクさんですが、我が社の治験保険に加入なさっていました。不幸中の幸いで頭部損傷は軽微です。このまま彼が自然に亡くなるのを待ちますか、それとも電子的な存在、
リク君が生前に契約していた特殊な治験保険。
それは、死亡直後に脳を高レベル電磁スキャンし、電子的に脳の量子コピーとやらを作りエンタグリアンとなる実験に参加するというもの。
「こんな時、ご家族に厳しい決断をお願いするのは酷だとは思いますが、死亡直後で無くては脳組織が破壊されてしまい、綺麗なコピーが取れません。今後、彼がエンタグリアンとして電子世界で生きる経費は、全てご家族に支払われます以外の保険金で賄われます。どうなさるのかは、ご家族次第。よくお考えを」
わたしとは中学時代から同級生のリク君。
昔からSFに興味があって脳の量子コピーの話を聞いた時、すごく興奮をしていた。
「凄いと思わない、アオイ? 今までSFやアニメの世界だった電脳化、量子化ってのが出来るようになったんだよ? 脳スキャンしたら電子レンジでチンになるから、今は生きている間には出来ないのは残念だけど」
「あのね、今から死んだ後の事を考えるのはイヤよ。だって、リク君とわたしは、ずっと一緒にお爺ちゃん、お祖母ちゃんになるんでしょ?」
テレビニュースで、小児がんで幼くして亡くなった子供ともう一度一緒に暮らしたいと脳量子コピーをした事例を見たことがある。
そこでは画面越しに、にこやかにご両親と談笑する子供がいた。
他にも老衰で亡くなったお爺ちゃんをコピーしたけれども、生前時に痴呆状態だったので、痴呆なコピーが出来てしまったとも聞いたことがある。
「もう俺が死んで一年。ここにいる俺は
「嘘! 貴方は、リク君はここにいるじゃない! さっきまで私を抱いて愛してくれたじゃないの? もう、わたし。リク君と一緒じゃなきゃ、生きていけないの!」
わたしは、裸の胸をぎゅっとリク君に押し付ける。
そして、リク君の体温と鼓動を肌で感じた。
「……実はな、脳コピーはまだまだ完全な技術じゃないんだ。俺と同時期にコピーされた子供だけれども、あっという間に壊れちまった。親御さんと毎日会話をしていたけれど、触れ合えないって暴れだして……。最後は、ここから出せって言って消えちまった。老人の場合も痴呆がどんどん進んでいて、今やまともに会話もできやしない」
「じゃあ、わたし達の今みたいに抱き合っていたら大丈夫よね?」
……VRMMOの中なら話して触れ合えるから、問題無いよね?
「それでも、いつまで俺が『俺』で居られるかなんて保証も自信もないよ。いつ何度期、壊れて俺がアオイを傷つけるかもしれない。いつまで俺がこのVRMMOに接続できるかも分からないし、化け物になりさがって事件を起こすかもしれない。実際、壊れてネットテロを起こしそうになった奴もいたんだ」
リク君が語るには、ガンで若くして亡くなったウイザード級のハッカー。
彼も遺言通りに脳量子コピーをして、エンタグリアンとして電子世界に生まれ変わった。
しかし、誰とも触れ合えないし、現実世界に殆ど干渉できない孤独から自我が崩壊。
オフレコではあるが、原発のシステムに入り込んでメルトダウンを画策し阻止されたそうだ。
「そんな……。でも、リク君は絶対にそんな事をしないわ! 優しいし、賢いし。それに、わたしが今感じている鼓動と体温は何? この世界には、リク君はちゃんと生きて、存在しているの!」
「……お、俺だって怖いよ。自分がいつまで『自分』だなんて分からないし、もう自分で死ぬこともできやしない。永遠に孤独のままで存在するなんて嫌だ! ずっとアオイと一緒に居たい。アオイを抱きしめたいよ。でも、でも……。これで終わりにしよう」
わたしの言葉に涙を見せるリク君。
わたしが初めて見る泣き顔で本心を語ってくれる。
「だから、ずっとわたしは一緒だよ。もう仕事をやめて一緒にここに居よう。毎日、エッチして話して美味しいごはん食べて、ずっと一緒なの!」
「そ、それはダメだよ。アオイにはアオイの人生があるんだ。もう『終わった』俺とは違うんだよ。俺以外の誰かを早く見つけて、一緒になってお祖母ちゃんになるんだ。俺は遠くに一人で行くよ」
「でも、でもぉ。それじゃ。それじゃ、リク君が可哀そうすぎるの!」
「悲しいけど、これは運命だったんだ。俺が事故で死んでしまうのは。今は、あくまで延長戦。本来、無かった時間。いつ無くなってもおかしくない時間なんだよ。だから……」
恐怖に震え、泣きながらわたしをぎゅっと抱きしめるリク君。
わたしは顔を上げ、リク君の唇に自らの唇を重ねた。
「アオイ」
「リク君」
そして、わたし達の物理的距離は再びマイナスとなった。
◆ ◇ ◆ ◇
その後、リク君がVRMMOにログインしてくることは無かった。
わたしが何回メールを送っても反応がない日々が続いた。
そして半年後。
テレビニュースでリク君の姿を、わたしは見た。
「この度、世界宇宙開発機構による人類初、バーナード星への核パルス亜光速宇宙船ダイダロス号に
亜光速時の強大な加速度、そして大量の銀河放射線に対し生身の人類は脆い。
また人工冬眠も開発中で食料問題もあると、ニュースキャスターは語る。
「放射線や食糧問題。そして加速度対策ですが生身ではなくエンタグリアンを搭乗させることで全て解決を見たのです」
残酷な事に一方通行、永久に地球へ帰ってこれない冒険。
生身、生きているヒトでは無いからこそ、この計画が立案されたと後にわたしは聞いた。
ダイダロス号へ登場するエンタグリアンの名簿。
そこにリク君の名前があった。
「俺は人類初のエンタグリアン宇宙飛行士として、未知の宇宙探検に行きます! 宇宙で地球人は孤独じゃないって証明したいんです」
モニター上には、自信満々のリク君が居た。
「リク君、絶対に貴方をひとりにさせない!」
わたしは、ニュースの最後に語られた宇宙飛行士の二次募集に飛びついた。
◆ ◇ ◆ ◇
「アオイ。まったくキミには困ったよ」
「しょうがないじゃないの。貴方言ってたよね。触れ合わなければ人は壊れるって。だから、わたしはこういう行動に出たのよ」
画面越しに久しぶりに語り合うわたし達。
向こう側には、可愛い彼女といちゃつくリク君が居た。
「もう一人のわたし、マルヴェ。リク君の事を頼むわね」
「うん、わたし。絶対にもうリク君を離さないから。貴方は貴方で幸せになって……」
ニュースを見たわたしは、世界宇宙開発機構へ即時連絡を取った。
エンタグリアン宇宙飛行士の二次募集に参加する為に。
「エンタグリアンになるのに、今なら生きてても脳スキャンは大丈夫ですよね? でしたら、わたしが二次募集に立候補します。人格崩壊ですが、お互いに触れ合えれば壊れないのは、わたしが実体験で立証済みです。是非、わたしを実験台にしてください」
そしてわたしの脳構造は量子コピーされ、エンタグリアン「マルヴェ」としてリク君と行動を共にすることになった。
「俺たちの実例が研究されて、VRMMO的な仮想世界を構築して人同士で触れ合えば、エンタグリアンの人格崩壊が起きない事が立証されたんだ。これで俺たち人類は、どこまでも遠くにいけるよ」
「それでも、時々は連絡を頂戴ね。映像メールくらいは観測データのついでに送ってこられるでしょ」
「ああ。俺達のラブラブ冒険談を送るぞ」
そして、トシ君とわたしのコピー、マルヴェは光の速さで宇宙へと旅立って行った。
◆ ◇ ◆ ◇
「おばーちゃん、何見ているの?」
「これはね、昔のカレシからのラブレターなの」
膝の上の幼い孫娘が見上げながら、わたしに問いかける。
わたしが持つ情報端末には、まだ若い青年と娘、そして彼らの幼い赤子の姿がある。
「この男の人がおばーちゃんのカレシ? 随分と若いよね? それに、この女の人。どこか、おばーちゃんに似ているよ?」
「そりゃ、わたしのコピーだものね、この
5.9光年先のバーナード星に向かったダイダロス号。
一時は光速の7%程度まで加速して、最近目的地に到着した。
そこで星系にあった複数の
次なる目標地に向かう事に決定した。
おそらく、わたしが生きている間に連絡が出来なくなるということで、現状報告をしてきた形だ。
「まったく電子生命が子供を作るんだから、不思議な話よね」
地球との通信によって絶えずアップデートされるシステム。
そしてバーナード星系の惑星で多くの金属資源を得て、宇宙船自体を最新の反物質推進型にアップデートさせた。
また仮想世界にて触れ合う事で自我を保つエンタグリアンが、己たちの子孫を望むのも自然な形。
お互いの量子データを混ぜ合わせて、子供を作る事になったそうだ。
「今度は反物質推進で光速の90%まで加速するから、ウラシマ効果でもっと時間差が出るわ。星の海へ大冒険ね」
もし、わたしが寿命で死んでしまうなら、死亡時にもう一度脳スキャンしてもらい量子データをダイダロス号に送ってもらおうか。
そして、若い自分自身とリク君を奪い合って冒険をするのも面白いかもしれない。
「うふふ。楽しみだわ」
わたしは孫娘を抱きしめ、心を星の海原に向かわせた。
(完)
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