第7話

 私の家に馬車が到着してもバトラーは不機嫌そうに口を閉ざすだけだった。私の両親が出迎えても挨拶すらしない。

 その後バトラーの両親も交えて今日の夜会の打ち合わせが行われるはずだったが、バトラーは帰りたいと告げて馬車に乗って出て行った。彼の両親も心配して後を追っていった。


「イヴ、何かあったのか?」


 父親に心配そうに尋ねられた私。ユミアの事について言おうか言わまいかと悩んでいたらコーディ様がいきなり私の家にやって来た。


「イヴ……」

「コーディ様?! どうしてここに?!」


 両親も開いた口が塞がらないようだ。公爵家の人物がうちにアポ無しでやって来たのだ。そりゃあ勿論驚くに決まっている。


「イヴ、それとご両親へ話したい事がいくつかある。長くなるが大丈夫だろうか?」


 こうしてコーディ様の話が始まった。

 ……夜会が始まる。ドレスアップした私はコーディ様のエスコートを受けて会場に入る。真紅のつやつやしたドレスは着心地がとても良い。


「あれ、イヴはバトラーと一緒じゃないのね」

「コーディ様じゃない。何かあったの?」

「まさか……ねえ?」


 ひそひそ話は止む気配は無い。当然だろう。婚約者であるバトラーではなくコーディ様のエスコートを受けているのだから。


「イヴ、大丈夫?」

「はい……」

「おそらくバトラーはユミアと一緒だろう。哀れなものだ」

「そうでしょうね……」


 まさかコーディ様からユミアの出自について話を聞いた時は驚いたと共にバトラーが哀れに思えてならなかった。だが彼は私ではなくユミアを選んだ。……異母兄妹のユミアを。

 説明するとバトラーの父親が子爵家に嫁いでいたユミアの母親である男爵令嬢に誘惑されて生まれたのがユミアだ。この事はバトラーの母親は知らないが、公爵家であるコーディ様が王族から最近聞いたのだと言う。なんでもバトラーの父親は今もユミアの母親と密会しているのだとか。


(これをバトラーのお母様が知れば……)


 だが私はもう決心した。私はバトラーではなくコーディ様を選ぶと。


(だからユミア様はバトラー様とずっと一緒にいたかったのかしらね。無意識かつ本能的に)


 バトラーがユミアをエスコートしながら会場入りした。ユミアは黄色のふわふわしたフリルやレースだらけのドレスを着用している。

 ユミアはすぐに私とコーディ様を見つけるとにやりと口角を釣り上げて笑った。


「あら、コーディ様とイヴ様ぁ! こんばんは!」


 ユミアはコーディ様に駆け寄り、上目遣いで挨拶をする。


(良い男なら誰でもいいのか)


 ユミアに呆れつつも、私はこれからの予定を頭の中で再生しながら、作り笑いを浮かべたのだった。

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