第6話

 それからユミアはずっとバトラーにべったりとくっつき片時も離れようとはしなかった。しかもその日で終わりかと思いきや次の日以降も続いた。

 そのせいで私はバトラーといるのは気まずいので1人で過ごすか2人のいない場所でコーディ様と過ごすかの2択だった。その様子を遠くからクラスメイトの令嬢どもがひそひそと陰口を叩くのがこれまた辛かった。


「ねえ、しばらくしたら婚約破棄されるんじゃない?」

「そうかもね。バトラー様はユミア様にお熱だもの」

「イヴかわいそう。コーディ様に色目使っても無駄なのに」


 ある日。テスト期間が終わり夜会がこれから行われる。


(両親からは結婚の日取りについての説明があると聞いているけど……)


 しかし、いつものようにバトラーはユミアを引き連れて帰ろうとしていた。私はもう2人に絡む元気も無かったので2人が教室を出るよりも早くに教室を出て正門に向かう。


「イヴ!」

「コーディ様……」


 コーディ様が私を追いかけて来てくれたようだ。


「うちでパーティーの準備する? ドレス用意するよ」

「でも……」

「バトラーとの結婚式の日取りの発表をするんだね。聞いているよ」

「……はい。コーディ様には気に掛けてくれて感謝しています。しかし……」

「あら、イヴ様とコーディ様ぁ!」


 コーディ様と話をしている場面にユミアとバトラーが現れた。ユミアはにやにやと口角を釣り上げて悪辣に笑う。


「随分とコーディ様と仲良しなのね、イヴ様。最近コーディ様と仲が良いとか」

「ああ、クラスメイトは放ってはおけないよ。イヴもバトラーもね」

「コーディ様はお優しいのですわね……ねえ、イヴ様。私にバトラー様を譲って頂け無いかしらぁ?」

「え?」


 ユミアが言っている事は私とバトラーの婚約を解消しろという事だ。私とバトラー、互いの両親も絡む事だ。そんな簡単には出来ない。


「ユミア。それは横暴過ぎるよ。婚約破棄しろと言っているようなものだ。立場を考えても発言撤回した方が良い」

「コーディ様……あなたはイヴ様をかばっているのですぅ?」

「貴族として当然の振る舞いをしているだけだ」


 コーディ様の目つきと声色が厳しく低いものに変わる。ユミアも察したのか口を一旦閉ざした。


「撤回しますわ。行きましょ、バトラー様」

「ああ、ユミア」

「バトラー。君は情けないな。婚約者はユミアではなくイヴだろう?」

「……っ!」


 バトラーは無言で私に近寄り、右手を乱暴に取り馬車へと誘導したのだった。

 

「バトラー様」

「なんだ? イヴ」

「私よりユミア様の方がよろしいのですか?」

「……」


 返事は無かった。

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