第159話 おそろしい子
「――以上だ。何か質問はあるか?」
翔太は雫石に稽古場にあるシステムについて、一通り説明をした。
稽古場にはシーン125と同等のシステムが構築されており、雫石が向かい合っている端末は攻撃側――神羅キャピタルのマシンだ。
稽古では雫石が翔太の行った攻撃を再現し、翔太は美園が行った防衛を再現する。
「ないわ」
雫石は即座に答えた。
彼女はタッチタイピングはできなかったものの、そこそこの速さでタイピングができた。
「では始めるぞ」
翔太の合図に室内がしんと静まり返った。
神代は二人の様子を固唾をのんで見守っている。
「……いいわ」
「「!!!」」
雫石の雰囲気がガラリと変わり、翔太と神代は驚きを隠せなかった。
ただ座っているだけにも関わらず、漂ってくるオーラは尋常ではない何かを感じさせた。
(ラスボス感がすげぇ)
「カタカタカタカタカタカタ」
雫石の攻撃が始まった。
直前に付け焼き刃の練習しかしていないため、攻撃そのものは緩慢で翔太は余裕で対応していたが――
「カタカタカタカタカタカタ」
(漂ってくるプレッシャーがすごい……本当に小学生か?)
「……」
神代は瞬きをしていないのではないかと思えるほど、雫石を観察していた。
その表情は普段は見せないような険しさを浮かべていた。
「ふん、なかなかやるわね……これならどうかしら?」
雫石はそう言って、口角を上げニヤリと微笑んだ。
(ひぇっ!)「……」
翔太は雫石のあまりの恐ろしさに内心で悲鳴を上げた。
神代は相変わらず雫石を見つめている。
翔太はシーン125のときと同様に、反撃に出た。
その攻撃は、雫石のペースに合わせて手加減をしている。
「カタカタカタカタカタカタ」
「ふん、時間切れね。次はこんなものじゃ済まさないわよ」
雫石はモニターの時計を一瞥し、最後のメッセージを投げつけ、キーボードから手を離した。
「「……」」
「どうだった?」
「はっ!」
翔太は稽古が終わったことに気づかないほど、雫石の演技に飲まれてしまった。
「雫石ひかり……おそろしい子」
「そんな月影先生みたいな感想いらないわよ!」
「これ以上ないくらい、このセリフが当てはまると思ったんだが……」
翔太は演技に関しては素人だが、技術の神様が新田に宿っているように、演技の神様が雫石に宿っているような気がした。
「お見事でした。雫石さん。あとはタイピングだけですね」
いつの間にか橘が稽古場に現れたようだ。
「そうね。神代さんに練習方法を教えてもらったから、すぐにマスターするわ」
「あっちの映画はいいのかよ」
「そんなの余裕よ」
雫石は当然といった表情で言い放った。
そして、雫石は「うーん……」少し考えた後に神代に向かって言った。
「神代さんが柊さんにこだわる訳がわかってきたかも……」
「ほぇ?」
終始、真剣な表情で無言だった神代は、炭酸の抜けたコーラのようになった。
「柊さんを私にちょうだい!」
「ダメよ!!!」
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