第158話 仲良し?
「雫石ひかりです。よろしくおねがいします」
雫石は深々とお辞儀をした。
その仕草は、完璧と言っていいほど様になっており、翔太はあいさつ一つでこれほどの好印象を与えられることに驚きを隠せなかった。
雫石には、映画『ユニコーン』の上岡の娘である上岡
小学生ながらも、上岡の英才教育を受け、天才ハッカーとして上岡の仕事を手伝っているという設定だ。
上岡は自分の事業領域に的場が参入することを警戒し、警告の意味を込めてサイバー攻撃を仕掛けたという設定が追加されている。
翔太は原作者の大鳥がいい顔をしないのではないかと危惧したが、意外なことに歓迎された。
その理由として、原作の続編が企画されているとのことだ。
雫石の存在は原作小説にまで影響を与える結果となった。
そして、翔太の嫌な予感は見事に的中し、雫石の演技指導を請け負うことになった。
雫石の出番はほんの僅かだが、それでも出費を惜しまない山本の本気がうかがえた。
これから演技指導がグレイスビルの稽古場で行われるところだ。
「それでは、柊さん、よろしくお願いいたします」
雫石のマネージャー、小岩井は丁寧なお辞儀をして稽古場を辞した。
彼がほかの子役を担当している間に、霧島プロダクションが雫石を預かる形になった。
「ひかりちゃん、よろしくね」
「はい!」
神代に対して、雫石は小鳥のさえずりのように美しい声色で返事した。
「雫石、もう演技しなくていいぞ。神代さんはもう気づいている」
人間観察スキルという点では、神代に一日の長がある。
彼女は雫石が演技をしていることを看破していた。
「敬語も使わなくていいよ」
「あら? そう?」
雫石はあっさりと、よそ行きの営業スマイルの仮面を外した。
(コイツ……)
「それじゃ、稽古を始めるぞ。雫石、タッチタイピングはできるか?」
「なにそれ?」
「手元を見ないでキーボードを打つことだよ」
「ブラインドタッチ?」
「それは和製英語だ。あと、差別用語として扱われるらしいから気をつけろよ」
「なんで?」
「視覚障害者を連想させるそうだ」
「なにそれ、バカバカしい」
「気持ちはわかるが、お前なら取り繕えるだろ?」
「まぁね」
神代は二人の会話をぽかんとした表情で眺めていた。
「柊さんとひかりちゃん、仲いいね」
「え゙……」
翔太は露骨に嫌な表情を浮かべた。
「私は柊さんに興味があるんだ」
「なんで?」
「私は神代さんの大ファンだからね」
「ストーカーの間違いじゃないのか」
「余計なことを言うつもりなら、こっちも余計なことを言うかもしれないよ?」
「はいはい」
翔太は雫石に弱みを握られている身なので、おとなしく引き下がった。
「それが何で柊さんに興味があることになるの?」
「神代さんなら、わかるんじゃないかな?」
「はにゃあっ!」
挑戦的な目で神代を見つめた雫石に対し、神代の顔は真っ赤に染め上がっていた。
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