第134話 買収計画

「ということは、アクシススタッフの持ち株を全部取得すればいいんだな?」

「あぁ、そうだ」


マンスリーマンションの一室では、エンプロビジョンの買収に向けたミーティングが行われていた。

翔動が保有するMoGeの株価は資本提携の発表や新作ゲームの発表など、相次ぐ好材料が奏功して度々ストップ高を付けていた。


MoGeの株式はロックアップという上場日から一定期間株式を売却できない規制がかかっていたが、現在はこれが解除されており、これを一部売却してエンプロビジョンの買収資金を捻出する狙いだ。


アクシススタッフはエンプロビジョンの筆頭株主であり、過半数以上を取得している。

アクシススタッフの持ち株をすべて取得すると、エンプロビジョンを子会社化できる。


「いずれは残りの株も買い取って、完全子会社化しよう」


完全子会社とは、子会社の資本の全てを保有している状態だ。


「過半数を取れば十分じゃないか?」

「理由は二つある」

「聞こう」

「少数株主を経営方針決定の場面から完全に排除することによって、意思決定のスピードを上げるんだ」

「どゆこと?」

「たとえば、株式の三分の一を取得していると特別決議を否決できる権利を持つ」

「特別決議?」

「企業の経営方針や重要な取決事項に関する決定だ。増資や減資、定款の変更などは株主総会で特別決議が必要なんだ」

「何か重要なことを決めたいときに、横槍が入ってしまうってことか」

「大体合っている」


石動は法務局から取得した登記情報や株主名簿とにらめっこして言った。


「でも、大株主のアクシススタッフを除けば、三割持っている会社はないぞ。少数株主は放置してもいいんじゃないか?」

「俺達に反発して、少数株主どうしで連合されるケースもある」

「あー! 国会の安定多数に似ているな!」


衆議院では三分の二の議席を持っていると、参議院で否決された法案を再可決できる。


「戦いは数だよ兄貴!」

「それ、死亡フラグ」

(妹に後ろから撃たれるわ!)


「で、もう一つは?」

「エンプロビジョンの経営状況はお世辞にもいいとは言えないが、俺達ならガッツリ利益を出せるようになると思う」

「なるほど、企業価値を高めたときに利益を総取りできるってことか!」

「そうだ、配当に還元したり、売却したときの取り分を最大化したい」

「なるほどなー。柊のことだから、きっと再生プランがあるんだろう」

「完全に組み上がっているわけではないけどな」


翔太の悪巧みは現在進行系で、いくつか足りないピースを埋めれば完成する。


「エンプロビジョンが儲かっていないのはわかったが、アクシススタッフはそれだけで株を手放すかなぁ」

「それなんだが、俺のほうで買収しやすくなるように動く予定だ。準備ができたら教えるよ」

「また柊は暗躍するのか……」

「表は石動、裏は俺で役割分担できてるだろ?」

「まぁ、そうなんだけどな」


表に出たくない翔太にとって、石動の存在はありがたかった。

この惑星のどこを探しても、石動以上に翔太の意思をくみ取れる人間はいないであろう。


「それで、買収交渉なんだが――」

「俺は参加できないぞ」

「そりゃそうか……社内の人間だもんな」

「エンプロビジョンの社長にも顔が割れているんだ」

「んー……となると、俺一人? なんだか心細いな」


石動のような若造が、単身でノコノコと企業買収に乗り出したら、相手に舐められることが容易に想像できる。


「それについては味方を付けようと思っている――」

「えええええっ!?」


石動は翔太の提案に驚くしかなかった。

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