第118話 家に帰るまでが大会です
「ふーっ……うまくいったか」
「やったね! 皇さん!」
翔太の攻撃が成功し、チーム内でハイタッチが交わされていた。
翔太の仕掛けたイタズラが奏功したためか、相手チームの対応は緩慢だった。
石動に皇の存在は知らせていないため、鷺沼から問い詰められてもボロが出ることはないであろう。
「ごめん、これで弾切れなんだ」
翔太弄した奇策が効くのは一度きりであろう。
(せめて、事前に鷺沼さんが出ることがわかっていれば何か対策とれたかもしれないけど)
***
「はあぁーっ、ダメだったかぁ」
神代はがっくりと肩を落とした。
決勝では神代と美園が奮闘したものの、チーム『ユニコーン』は地力で圧倒された形で敗北した。
鷺沼の手口を知っている翔太であったが、他の二人も同様に優秀なエンジニアであり、総合力で及ばなかった。
***
「優勝おめでとうございます。完敗でした」
「神代さんもお見事でした」
鷺沼は相手チームを讃えつつ、神代とがっちりと握手を交わした。
「あなたが皇さん、ですよね?」
「は、はい……」
鷺沼は興味津々な表情で翔太を見つめていた。
チームメイトの五色と半田が神代と美園を気にしているのを他所に、鷺沼は翔太に声をかけてきた。
翔太はかつての憧れだった存在が、その記憶と変わらぬ姿で目の前にあることに不思議な感覚を覚えた。
鷺沼の容姿は相変わらず整っており、服装に頓着していないことも変わらずであった。
報道陣の要請でこの後に記者会見が控えており、この様子はテレビでも放映されると思われるが、彼女にとっては些事であるようだ。
「神代さんと美園さんはIT関連のお仕事をしていないですよね? どうやってお二人をここまで成長させたんですか?」
鷺沼は神代と美園のスキルが、翔太によるものだと確信しているようだ。
「え、えっと……」
(しまった、この質問を想定していなかった)
「本番と同じようなシステムを作ってくれて、一緒に付き合ってくれたんですよ」
神代が助け舟を出した。
鷺沼は「ふーん」と言いながら何かを見定めているようだ。
「皇さん、どこかでお会いしたことがあるような気がするのですか?」
「ふえっ!?」
ナンパの常套句のようなことを言われて、神代と美園は一瞬不機嫌になったが、表情から恋愛的な要素は感じ取れなかった。
「お会いしたのは初めてですよ」
「そうですか? あなたは私を知っているように見えたのですが?」
翔太は対戦中、鷺沼にちょっかいを出したことを少し後悔した。
***
「皇さん、一言だけお願いします」
「神代さんと美園さんとはどのようなご関係ですか?」
翔太はマスコミから逃げ回っていた。
イベント会場では閉会式が終わり、優勝と準優勝のチームに対する記者会見が行われていた。
翔太は報道陣が会見の場に集中している間に、離脱する算段であったが一部のマスコミ関係者に目をつけられた。
「皇さん、こっちです」
翔太は橘によって出場者の控室に誘導された。
「ふぅ、助かりました」
「梨々花と美園さんには、皇さんとの関係を問われたときの対応を伝えています」
「助かります」
翔太が想定していた以上に、皇の存在が注目を集めてしまっていた。
このまま出待ちされてしまったら、帰る手段がなくなってしまう。
「柊さんに戻る準備をしておきました」
橘は何もかもお見通しだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます