第83話 制作発表会

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87話と79話の間の話です


第87話 難題

第83話 制作発表会 <-イマココ

第79話 LMS


全体の時系列情報は下記を参照してください

https://kakuyomu.jp/users/kurumi-pan/news/16818093086120520701

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「うわー、すごい人だ……」

石動は会場の華やかさに口を半開きにして驚いていた。


サイバーフュージョン内のセミナールームでは、映画『ユニコーン』の制作発表会が行われていた。

壇上では監督の風間が挨拶をしている。


「柊くん、傷は大丈夫かい?」

メインスポンサーであるサイバーフュージョン社長の上村が声をかけてきた。


「はい、その節はお世話になりました。あの、このことは――」

「ははは、大丈夫だよ。僕のほかには中谷くんと佃くんしか知らないよ。口止めもしてある」

「ありがとうございます、大変助かります」


傷害事件 ※1 は橘によって報道規制がされている。

翔太の事情は明かしていないため、上村は霧島プロダクションに配慮してくれているのだろう。


「それと、野田くんは君の言ったとおり優秀な人材なので、ぜひうちに来てほしい」

「本当ですか! 喜ぶと思います」


野田の進路は安泰のようだ。 ※2


「それで、柊くんも欲しいんだけど」

上村はまだ諦めていなかったようだ。 ※3


「上村さん、実はここにいる石動と会社を立ち上げまして――」

「ほう?」


翔太は石動を紹介した。上村が興味深そうに石動を見つめた。


「株式会社翔動の石動と申します」

石動は新しく作ったばかりの名刺を差し出した。


「石動くんが代表なんだね」

「はい、今の会社を辞めたら翔動に入る予定です」

「そっかー、僕を振って石動くんを選んだのかぁ」

「そんな言い方やめてくださいよ」


翔太は苦笑するしかなかった。


「柊さん、おつかれさまです」

「あ、佃さん、その節はありがとうございました」


翔太は佃に声をかけられた。

翔太は佃は神代の大ファンであることを、一緒に仕事をしている中で知っていた。

この場にいるのは上村の配慮なのかもしれない。


「あ、そうだ。佃さん、制作発表会の後に少しだけ時間が取れますか?」

翔太は佃にをすることにした。


「はい、少しだけなら」


佃は怪訝な顔をしながら頷いた。

この後、彼にとっての大事件が訪れるとは夢にも思っていなかったようだ。



「翔太、もう大丈夫なの?」

「はい、もう大丈夫です。石動、俺の姉だ」

「ええっ!?」

石動は突然、家族を紹介されて驚いていた。


「石動と申します」

景隆は名刺を差し出して挨拶した。

「株式会社クオリアの柊あおです」


「今の会社を辞めて、石動の会社に転職することにしました」

「え? 聞いてないわよ!」

「今言いました」

「こらー!」


「……」

石動はなにやら複雑な表情をしていたが、同じ人生を歩んできた翔太は石動の考えていることが手に取るようにわかった。


***


「主演の神代です。この映画は私の役者人生にとって最も力を入れている作品です!」


壇上では神代と助演の美園が挨拶をしていた。

二人の登場に観客の歓声が沸き起こる。

会場の熱気は最高潮に達し、カメラのフラッシュが一斉に光を放った。

美園は神代と並んでも見劣りしない美しさで、二人が並んだ様子は天上の世界から舞い降りたような光景が繰り広げられていた。


「柊くん、撮影スタッフや出演者の管理なんだけど――」


きらびやかな舞台を眺めている石動とは裏腹に、翔太は関係者との打ち合わせに奔走していた。

脚本の雪代との話を終え、今はプロデューサーの山本と話をしている。


「――なるほど、ではIDカードの情報を使って撮影現場の入出記録を取るようにしましょう」


山本はハラスメント事件をきっかけに、ガバナンスやセキュリティの強化を進めていた。

後にこれが大きな成果を上げることになる。



「石動、プロデューサーの山本さんだ」

なにやら興奮した表情をして合流した石動に、翔太は山本を紹介した。


「いやぁ、柊くんにはすごくお世話になったんだよ」

石動は山本と名刺交換をして挨拶を交わし、次に放った一言が翔太を仰天させた。


「山本さん、弊社をこの映画のスポンサーに加えてください!」


「ちょ……まっ……!」

翔太はあまりのことに言葉がでなかった。


「スポンサー契約の期限はいつまでですか?」

石動は止めようとする翔太を無視して、話を進めた。


「うーん、クランクアップまでが目安かな?」

意外にも山本は乗り気だった。


「わかりました、クランクアップまでに資金を用意します!」

「お、おいっ! 石動!?」


翔太は戸惑っていた。

石動とは無意識にコンセンサスが取れていたと思っていたが、今の彼の言動は完全に想定外だった。


「まぁ、いいじゃないか、柊くん。うちにとってはリスクがある訳じゃない話だし」

「それはそうですが……」


映画製作側としては、現状では予算が足りているため、追加でスポンサーが入るなら広告宣伝費に回されるだろう。

これは、山本がクランクアップまでを期限としたことからも想定できる。

つまり、山本にとっては追加でスポンサーが付かなくても影響はない。


(とりあえず、石動を問い詰めるのは後だ……) ※4

今日の翔太はやたら忙しかった。


***


制作発表会が終わり、佃は神代の艶やかな姿を脳内で反芻していた。

上司の森川からは制作発表会後、すぐに仕事に戻るように厳命されているが、今の浮ついた状態で仕事が手に付くかどうかは甚だ疑問だ。


「佃さん、こっちです」

翔太に案内されたのは、社内の会議室だった。

今日は映画関係者の控室のために確保されている。


(まいったなー、森川さんからは早く戻れと言われているんだけど……)

佃は翔太の用件が煩わしかったが、これから会う人物によって、今日の仕事は完全に吹き飛んでしまうことになる。


「コンコンコン」「はーい」

ノックの返事の声は、どこかで聞いたことのある声だった。


「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」

中にいる人物を見て、佃は思わず奇声を上げてしまった。



⚠─────

※1 第64話 https://kakuyomu.jp/my/works/16818093077567479739/episodes/16818093080771193728

※2 第74話 https://kakuyomu.jp/my/works/16818093077567479739/episodes/16818093081593659533

※3 第42話https://kakuyomu.jp/my/works/16818093077567479739/episodes/16818093079648357946

※4 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」第13 https://kakuyomu.jp/works/16818093081647355813/episodes/16818093082386174363

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