第73話 和解
「そういえば、川奈さんも映画に出るみたいだね」
翔太と神代は施設内の庭園を散策している。
神代は翔太がナンパされて以来、翔太の手をずっと離さないでいる。
「私は何もしてないよ。役を取れたのは川奈さんの実力だよ」
映画『ユニコーン』の配役はすべてオーディションで決められたらしい。
「そうなんだ? 梨花さんにセクハラする役だから、知ってる相手でよかったね」
「演技の場だったら大丈夫だよ。ちょっと過保護じゃない?」
「そうだね――ごめん」翔太は反省した。
こと演技となると、神代は自分の感情を度外視して演技を最優先にするのだ。
「まあ、柊さんが心配するのもわかるし」
「例えばだけど、川奈さんの役が狭山でも問題なかった?」
「う……大丈夫だよ。それに――」
神代は、オーディションが終わった後の狭山との経緯を話した。
***
オーディションが終わり、神代はタクシーでグレイスビルへ移動するつもりだったが、狭山と遭遇した。
「あ、狭山さん、今日はおつかれさまでした」
以前にあんなことがあったとはいえ、最低限の礼節は守って挨拶をした。
(あのときは少し、感情的になってたかも……少しだよね?)
「梨々花ちゃん、おつかれさま――その……」
狭山は口ごもりながら切り出した。
「この間はごめん!」
狭山は、がばっと神代に頭を下げた。
「あの、私は気にしていないです」
神代としては、本当は翔太に謝らせたかった。
しかし、翔太の事情を鑑みると狭山と接触することは控えるべきだろう。
「今回のオーディションはかなり自信があったんだ。
船井さんがアドバイザーに付いてくれて、俺も資金調達方法を色々教わることができたし――万全の状態で臨んだつもりだった」
狭山の口調から、オーディションにかける意気込みが伝わってくる。
「はい、狭山さんのプレゼン、よかったです。
私では思いつかないアイデアですし、大規模なプロジェクトで映画向きだと思います」
神代は正直な感想を言った。
「でも……今回は完全に俺の負けだよ。
資金調達以外にも、技術力や営業力など、俺の内容を完全に圧倒してたと思う。
それに、すごくリアリティがあったし」
「リアリティがあるのは当然ですよ、だって現実にやっていることですから♪」
神代はいたずらっぽく言った。
「ええーっ!」
狭山は、オーディションのために、神代がそこまでやることに驚愕した。
自分がその引き金の一端だったことに狭山は気づいていない。
「俺の場合は船井さんという強力なアドバイザーがいたんだけど、梨々花ちゃんにも誰かいたんだよね?」
狭山はそうであってほしいと願いながら言った。
さすがに、神代だけでここまでできるとは思えない。
「ふっふっふーん、知らなかったんですね?
私のアドバイザーは柊さんですよ!」
神代はこれ以上ないくらいのドヤ顔で言った。
「えええええええええーっ!」
オーディション会場に、狭山の絶叫が響き渡った。
***
「なるほど、俺の事情で対立させてしまって申し訳ないと思ってたんだけど、和解はできたってことかな?」
「そうだね、少なくとも私は気にしてないよ?」
「ありがとう、あのときは本当に助かったよ」
「ふっふっふー、惚れ直しちゃった?」
「そうだね、かっこよかったよ」
「へあぁっ!!!」
神代は奇声を上げた。
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全国1億2396万人の橘ファンのみなさんへ
「第73.5話 橘とデート」はこちらです
https://kakuyomu.jp/users/kurumi-pan/news/16818093081667218943
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