第9話 友人
「梨花、今日は大丈夫だった?」
『梨花』は神代の本名である。
芸名は本名を少し変えただけだが、ありふれた名前のため、これで身バレすることはなかった。
「ありがとう由美、すごく楽しかったよ」
「うーん、私が行けなかった状況でソレを言われるとフクザツなんですケド」
「あはは」と二人は笑い合った。
田村は気軽に話せる貴重な友人だ。
「柊くん、私の言ったとおりだったでしょ?」
田村がドヤ顔(声だけで顔が想像できる)で聞いてきた。
事前に柊がどんな人柄であるかをあらかじめ伝えておいたのだ。
「そうね、聞いていた以上だったよ」
「えー!なにそれ!詳しく!」
(コイツ、仮病じゃないだろうな……)
元気そうな田村に挨拶の場面を話した。
「あはは、柊くんらしいや」
「ねぇ、柊さんってめちゃくちゃ仕事ができる人なんじゃないの?」
田村と柊は同期だ。入社三年目ということはわかったが、講師業の傍らに商品設計などができるだろうか?
「うーん、柊くんは私と違って講師が本業じゃないからねぇ……同期から逸話はいろいろ聞いてるけど」
「えええ!柊さん、先生じゃないの!?」
「ちょっとー、声が大きいよ」
「ごめんなさい、講師のエキスパートだと思ってたよ」
神代は田村に演技指導についてのあらましを語った。
「んー、なるほどねぇ、柊くんならそれくらいできても不思議ではないかもねー」
田村はわかっている範囲での柊の仕事を説明したが、神代には少し難しかったようだ。
「へえぇ、大規模なシステムの導入や運用に関わっているんだ」
「その道のプロであることをある程度示すために、ベンダー試験という認定制度があるんだけど、この試験対策のトレーニングの講師を柊くんがやったりするんだよ。
私はOSとかオフィスソフトの先生なんだけど、それより全然難しいレベルのやつ」
「やっぱできる人じゃん」
「そだね。その試験対策本は書店でも売られているんだけど、柊くんも書いてるんだよ」
「え!?すごくない!?」
「多分、私たちじゃわからないくらいすごいんだと思う……二人とも語彙力なくなってるよ?」
田村は笑いながら言った。
「どう考えても、入社三年で到達できるレベルじゃないよねぇ。
柊さん、入社前から色々やってたのかな?」
「あー、柊くんの個人的な事情があるので、直接本人に聞いてくれないかな……ごめん、プライベートなことだから、私からはちょっと話せない」
(由美が知っているのに、私が知らないのはなんかモヤモヤする……なんだろう、この感情は……?)
「ねぇ、由美。ちょっとお願いがあるんだけど――」
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