終章 白と黒の永遠(2)
風が吹いていた。
薄青の空の下、荒れた大地に、春の訪れを告げる、暖かな風だ。
「今日もいい天気だねえ、カナメさん」
「洗濯物がよく乾くのう、ミズノ」
ミズノは地面に立てられた木柵へと身体を預け、空を見上げる。
隣、柵の上へ腰かけた、カナメと共に。
交易都市トロイメライから遠く、中央大陸の辺境、未だ前大戦の傷跡を多く残す地に、二人は居た。見渡す限りの荒野へ、とりあえずの一軒家、とは名ばかりの掘っ立て小屋を作り、のんびりと。特段、何をするでもなく。
そう。時折強く吹きつけては大地を揺らす、少々熱いぐらいの風が、運んでくる、
「オラァさっさと地べた這いつくばれ古くせえ旧人類共!」
「うるせえ新参が! 偉大な祖先に頭下げて道を譲りやがれ!」
「というか私ら目覚めたばかりなんですけど! 年寄り扱いしないで欲しいんですけど!?」
「……全員ロリババアショタジジイと思えば蜚廉こいつら相当なネタ種族なのでは?」
「「「黙れ殺すぞクソロリショタコン!」」」
馬鹿共の、喧騒に。
ミズノとカナメは、それはもう穏やかな笑顔を、向ける。
もはや見慣れた、見飽きた、見尽くした。
黒の者共、蜚廉たちは各々が白の羽を背負い、地を空を飛び交う。対する本日のお相手は飛竜種、空の支配に特化した大翼を広げ、牙並ぶ大口からありったけの炎弾をぶちまける。
「なあミズノよ。さすがに今回、飛び道具無しの蜚廉にはキツくないか?」
「懐に潜れば何もできないよアイツら。弾幕抜けて腹殴れば、上位種も名ばかりだ」
「「「オイ助言してんじゃねえぞ監督者!」」」
「「「教えられてもんな曲芸できるかあ――!」」」
馬鹿共が騒いでいるが、気にも留めず腕組みして鼻を鳴らす。出来なければ敗北するのみ、蜚廉種たちの新代番付、怒涛の快進撃もここで終わるだけである。
結論から言えば、ミズノとカナメの戦争は、公的に無効試合となった。
もはや人間と蜚廉、どころかこの世のモノの闘争ですらない、との提言による。
「困ったことに、何も言い返せなかったよね」
「残当じゃな。まあ最終的に面倒は無かったが」
互いに徳利から清酒を直飲みしつつ、頷く。
そういうわけで、新代旧代の親交は深めたものの、宙ぶらりんになってしまった蜚廉種の格付けを定めるべく、ミズノとカナメは日々戦争の監督役と相成った。本来は当事者たちよりも上位種の代表者、あるいは当代魔王などが任される役職にて。
体のいい殿堂入り、すなわち出禁である。
「ヒマだねえカナメさん。飲み終わったらちょっとちょっかい出してこようか」
「それもいいのう。端の方とか陰に隠れたつもりで手抜いてないか?」
「「「うわあああ馬鹿がこっち見てる! てめえら真面目にやれ――!」」」
真剣に取り組まねばケガをする。何だってそうである。
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