寝すぎ39 炎上寸前! 転じて……たぶんこれが一番早いと思います。

 ピコン。


 ピースフル姉妹の配信画面を流れるリスナーの予期せぬスペシャルゲスト、ネルトに関するコメントはさらに続いていく。


『え? つーか、スペシャルゲストって男かよ』

『しかもなんかちょっとチャラい。見ため25歳くらいか? けっこう年上だし』

『これ、どういうこと? 姉妹どっちかの彼氏?』

『え? マジ? おいおい。なら、これ今日炎上しちゃうんじゃねえの?』


 ――あああ! やっぱりこうなった! いや、そりゃそうだよな……! 自分たちが楽しみにしてる可愛い美少女姉妹の配信に突然俺みたいな男が乱入したら、いやに決まってるよな……! 逆の立場なら俺だって普通にいやだし……!


 つーか、これマジでどうするんだ!? 俺が原因でパフとスピーの配信が炎上なんてしたら、目もあてられねえぞ!? ふたりにはもちろん、ハワードやフィーリアにだって申し訳が立たねえし……!


 パフとスピーは「「だいじょうぶ。(オジサマ)(ネルおじ)なら、みんなぜったい受け入れてくれる」」って、はじまる前に自信たっぷりに言ってくれたけど……!


 〈超睡眠学習〉で炎上の怖さをある程度知っているネルトがドキドキハラハラと見守る中。


 ピコン。


『……んん? あ、あれ? ちょっと待てよ? こいつさっき、ネルト・グローアップって言ったか?』


 ついに、配信画面にある種の転機となるコメントが表示された。


『言ったな。ん? あれ? その名前、なんかどっかで聞いたことが……?』

『あれ? 言われてみれば、私もどこかで……?』

『え? マジ? 有名人なの?』

『そう言えば、顔……というかこの雰囲気もどこかで……?』

『配信冒険者か? でもデビュー前ってさっき言ってたし?』

『なら、俳優? いや、でも、うーん?』


 ああでもないこうでもないと続き、そしてついに答えとなるコメントが表示されて――同時に、ネルトはその思いもよらなさに戦慄、驚愕することとなる。


『あ!? あああ!? わかった! 映画だっ!』


 ……は? えーが? ……映画? 誰が? 俺……が?


『あ、そうかっ!? あの10年前の世界的超有名超ヒット作! その年の興行収入、配信ともに第一位で、リバイバル上映も何度もされてる! 〈英雄冒険者たち、いま世界の果てへ〉の第一部!』

『え! もしかして、あの無料配信されてそのクオリティを保証した伝説の冒頭五分の、英雄冒険者ハワードとフィーリアを助けた、あの!?』

『じゃあ、こいつが、いやこの人がネルト・グローアップ……あの親指立てサムズアップのネルトっ!?』

『え!? 本人!? ちょっと待って……!? まさか、まさか20年昏睡してたのが目覚めたってこと!?』

『え、マジ!? じゃあ炎上どころか、これ伝説の神回確定だろっ!?』


「ちょ、ちょっと待ってくれ!? な、なあ、パフとスピーのリスナーでファンのあんたたち、映画って何のことなんだ? それに、親指立てサムズアップのネルトって……?」


『え!? 知らないの!? 本人なのに?』

『いや、20年寝てたんだから無理もないだろ』


「あ、あの……オジサマ?」


「ぱ、パフ……? どうしたんだ? そんなあらたまって」


 くるりとネルトが振り返ると、パフィールはぱふぷるぷむにゅんと胸を震わせながらも、ゆるく巻いた金髪ツインテールを指先でいじいじとしながら、やたらともじもじしていた。


「あ、あのね? べ、別に……わざと黙ってたわけじゃないのよ? ただ、その……言うタイミングがなかったというか、その……ご、ごめんなさいっ!」


 ピコン。


『チャリン』


『結局謝ってて草』

『照れ顔ごめんなさいたすかる』

『しおらしいパフィールちゃんはあはあ』

『やべえ。なんかネルトと絡んでると五割り増しで可愛く見える』


 そんな五割り増しで可愛く見えるかもな姉パフィールが一生懸命に頭を下げる中。


「ん。準備できた。ネルおじ。いまから再生するから、観て。たぶんこれが一番早い」


 妹のスピーリアは まるでRTA走者のようなことを淡々と言いながら、すぴっとスマホをポチっとする。


 ピコン。


『チャリン』


『超マイペースで草』

『ネルおじって呼んでるの可愛い』

『超同意』

『お。どうやらはじまるぞ……!』


『志半ばで倒れた親友の想いを胸に――』


「え、あ……!?」


 ――そして、壮大なBGMとともにそれははじまった。


 ある意味では、20年前の昏睡の原因となった因縁の魔物との遭遇以上にネルトにとっていままで生きてきて一番の衝撃をもたらす――壮大なるの時間が。

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