寝すぎ36 会長、熱く熱く熱く語る。……信じて、いいよね?

 かつては未踏と、いまは人類の最前線と呼ばれる地。

 

 その冒険者協会本部最上階の会議室で行われている幹部会議。


 最高権力者である見ため愛らしい(少女)の冒険者協会会長ニオーム・スーシェは、壇上で威風堂々と熱く熱く熱く語っていた。……最推しについて。


 喜色満面でオーバーアクション気味に身振り手振りを交えながら、丸しっぽをふりふりと振った白バニー姿で。


 会長の話を聞きながら皆が観る大画面モニターでは、ピンク髪の魔法少女がフリルでふんだんに装飾された、およそ冒険には似つかわしくなさそうなふりふりの衣装と魔法のステッキで巨大な魔物と懸命に戦っている。


「わしが推すのは、とうっぜん! とうぅっぜんっ! いま最推しのスキル〈変身〉を保有する魔法少女のプリマミちゃんじゃ! 見よ! この勇姿! そして、それと相反するシマリスかジャンガリアンハムスターかとでもいうような、あの随所に見える幼気いたいけな小動物的愛らしさ……! ああ……! い……! 実に、実に愛いのう……! じゅるる……!」


 語るにつれてヒートアップしすぎたのか、どんどんとろ〜んと蕩けた目になり、自分の世界に入トリップっていってしまうニオーム。


 そのだらしなく垂れかけたよだれをサッと拭いて、クイッと強化眼鏡を上げた横のデキる副官からすかさず合いの手が入る。


「かの冒険者について、ニオ会長のやや人物に偏った主観的発言に補足しますと、特筆すべきはやはりそのスキル〈変身〉です」


 ――スキル〈変身〉。文字どおり、一定の魔力を消費することで使用者の姿を本人が魔法少女と呼ぶ強化形態へと一時的に変身させる。


 それにより、身体能力や魔力量、魔力操作等の多岐に渡る能力を飛躍的に向上、さらにA級相当と目される専用武器と戦闘衣装までも発現させる、まさに破格の性能のスキルだった。


「ニオ会長の言うとおり、まだ幼いですが注目すべき一人であることに間違いはないでしょう」


「おおぅ! そうじゃろ、そうじゃろっ! くろぷーもそう思うじゃろ! ああ! 早く本人に逢ってみたいのう! 早くここまでたどり着かないかのう! もし本人に逢った暁にはぁ、手とり足とりわしがいろいろと教えて仲よくなってぇ、いっしょに食事、お風呂、添い寝……! でゅふふふ……!」


 さらに妄想がいきすぎてより深いトリップ状態となったニオーム。垂れたよだれをふたたびサッととなりのくろぷーことデキる世話役クロップがわざわざさっきとは別のハンカチで拭き取る。


 ――ちなみにいまのは、かなりやっべー犯罪者的発言では? 


 とみんな思ったが、あらためて想像してみると、このミニマムな会長と同じくミニマムな魔法少女ではどう想像しても絵面がきゃっきゃうふふしてて微笑ましいだけだったので、いまはとりあえず全員全力でスルーすることに決めていた。 


「では、ニオ会長の次は副官の私、クロップ・アークが続けさせていただきましょう」


 そして、粛々とデキる副官がキラリと強化眼鏡を上げながら話しだす。


「緊張して恥じらうあの子をぉ、わしが優しくリードし、そして二人はぁ……でゅひ、でゅふふふふ……!」


 ――いまだにかなりヤバめで深刻なトリップから戻って来ない会長は、全員見てみないふりをした。


 それに、なんだかんだ言ってみんな信じているのだ。


 こんな姿形なりでも良識ある立派なBABA……大人である会長は、ちゃんと節度を守ってくれると、信じてま……信じて、いいよね……? と。

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