寝すぎ35 冒険者協会幹部会議。……うん。全力でスルーしますね?

「ニオ会長。では」


「うむ」


 天高くそびえる塔のような冒険者協会本部のその最上階会議室。


 そこで4人の錚々そうそうたる面々。英雄冒険者たちが顔をそろえていた。


 壇上に立つ、見ため愛らしい(少女)な冒険者協会会長ニオーム・スーシェが厳かに口を開く。


「よう帰ってきてくれたのう。ハワードにフィーリアや。家族団欒の折、誠に申し訳なかったが、同時に何よりもうれしく、頼もしく思うぞ」


 部下へのねぎらいと深い感謝を思わせるその言葉は、上に立つものとしての信頼を感じさせるもの。


「「…………」」


 だが、正面の席に座り、それを聞くハワードとフィーリアのピースフル夫妻は、いまひとつ集中できていなかった。


 ぴょこん。


 なぜなら、それを語る会長の格好が――だったからだ。


 ぴこぴこ。


 それも、白バニーだったからだ。うさ耳を途中で片方曲げた芸コマで、ちっぱいスレンダーな白ハイレグに白タイツ、可愛らしいふりふり丸しっぽもきっちりつけた、完全無欠の白バニーガールで着飾コスプレっていたからだ。


 ハワードとフィーリアの視線がつつつとニオームのとなりに控える副官であり会長世話役のクロップへと向かう。


「……………っ」


 あらゆる感情を押しこめたように、ビキィっと強化眼鏡を押し上げる姿は、何よりも雄弁に語っていた。


(まさか……止めなかったとでもお思いでも?)


 それを見たハワードとフィーリアは夫婦そろって全力でスルーして気にしないことに決めた。


 あと、会長が感想を求めてきたら、「似合っててとっても可愛いですよ」と言ってあげようとも。



「ニオ会長。では、これが僕たちを呼び戻した理由である、例の……?」


「うむ。ハワード。詳細はわしのスキル〈全知〉で得たデータをもとに、各国から派遣された実務担当の事務局側でいまだ解析中じゃが、ほぼ間違いないじゃろう。おそらくは、ダンジョン――つまり〈果ての塔〉じゃ。〈第二の果て〉のな。ちなみにこれ以上向こう側には、わしのスキル〈全知〉の魔力粒子すらとどかぬ」


 会長ニオームの格好がなぜか白バニーであることを除いて、会議は滞りなく進行していた。


 大画面モニターに映し出されているのは、会長ニオームのスキル〈全知〉で得た情報をもとに事務局で再現された仮装地図データ。


 そこには、あの黒い魔力嵐の中に塔のような高い建物が存在することがしめされていた。


 それも、この人類の最前線を起点として北東と東、南東の方角別に3か所。


「いまここにはいない方も含め、かつて私たちがみんなで攻略した〈第一の果て〉の際と状況が非常に似ていますね。あのときは5つで、今回は3つと、数は異なっていますが」


「ええ。そのとおりです。フィーリアさん。ですが、数の減少をもって楽観視はできません。おそらくは――」


「うむ。おそらく数が減ったぶんだけ、超古代文明からのより苛烈な試練が用意されていると見るべきであろう。油断はできぬ」


「……………」


 ナチュラルに会長に台詞を取られて強化眼鏡をミシィッと押し上げるクロップをちらりと夫妻が見る。


 それから、話を先に進めようとハワードが口を開いた。


「ニオ会長。では、やはり?」


「うむ。来たるべき攻略に備えて、戦力の増強が不可欠じゃ。新たな英雄となりうる冒険者が。ということで、本日の会議の後半は――」


 ヴンッ。


「その有力候補となる、それぞれのいま注目する最推し配信冒険者について、さあ! さあっ! さあぁっ! 存分にっ! 語り合おうぞっっ!」


 そうして、個人収納空間ロッカーから武器ではなく、フィギュア、おもちゃのステッキ、ペンライト、うちわといった最推し冒険者のピンク髪の魔法少女グッズを喜色満面の笑みで取りだした白バニー姿の最高権力者。


 ――それを見たハワードとフィーリアは顔を見合わせ。


 副官くろぷーことクロップは、こめかみを震わせながら強化眼鏡をバキバキと押し上げ、すべての感情を飲みこんだように、「はぁぁぁぁぁ…………………………」とそれはそれは、深く深く息を吐いたのだった。

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