寝すぎ18 退院祝いと20年ぶりのご馳走!……ドォンっ! え? さっき終わったんじゃ……?

「さあ! じゃあ用意もできたことだし、みんなで食べましょ! 特にオジサマ? これは、あたしとスピーで用意したオジサマの退院祝いでもあるんだから、たっくさん食べてね!」


「ネルおじ。いっぱい食べて。どれもすごく美味しい。わたしが保証する」


「おう! ありがとな! パフ! スピー!」


 娘姉妹の姉パフィールと妹スピーリア、そして姉妹の両親の親友にして、今日からふたりとここに住むことになった20年ぶりに目覚めた男ネルト。


 そんな三人が囲む広々としたテーブルの上には、埋めつくすようにご馳走が並んでいた。レストランのシェフがその技術の粋をつくした肉料理や魚、野菜に麺料理、米、パン。どれも等しく温かな湯気を上げ、食欲を誘ってくる。瑞々しいサラダや果物も彩りを添えていた。


 ごくり……! と喉を鳴らしたネルトは、まずはとグツグツと煮込まれたゴロゴロと大きな魔物肉の入ったシチューをスプーンで口に運ぶ。


「〜っ!?」


 そして、そこから先は止まらなかった。スプーン、フォーク、ナイフ。たまに箸と素手。次々と持ち替えては料理を一心不乱に平らげていく。


「ふふ。どう? オジサマ?」


「ネルおじ。美味しい?」


「ああ……! ああっ! 美味えっ……! めっちゃくちゃ美味えよっ……!」


「ふふ。そう。よかったわ……!」


 そう言って満足そうにうなずくと、主催である姉パフィールもフォークに手を伸ばした。


「もむもむ……ごくん。うん。よかった」


 もうひとりの主催のはずの妹スピーリアは、ネルトの直後にはすでにすぴすぴと食べはじめていたが、やはりその返答に満足そうにうなずいて微笑んだ。


「ああ……! 食ったぁ……!」


 気づけば、あれほどあった料理の皿はすべて空になって、テーブルはきれいに片づいていた。


 ネルト以外は、ぱふすぴぷるんと出るとこ出てる以外は細身の女の子ふたりだが、そこはやはり学校では体を資本とする冒険者コース出のふたり。


 送迎の黒塗りの高級車の中での〈ピースフル姉妹が接待してくれるお店?〉のことをのぞけば20年ぶりとなる、しかも絶品の食事に感涙して咽び泣くネルトにはやや負けるものの一般的な男顔負けの量をふたりそろって食していた。


 いまは空になった皿を下のレストランへと転送装置で送り返すべく、玄関へとふたり仲よく行っている。


 ――ああ……! 美味かったぁ……! 寝る20年前にどんなもの食ってたとか、正直まったく覚えてねえけど、それ含めてまちがいなくいままで生きてきて一番美味かったぁ……!


 そうして、マンションの住人以外にも開放されていてすごく美味しいと評判のレストランの食事の余韻にネルトが浸っていると、姉妹ふたりがかしましい声とともに戻ってくる。いや……?


 ガチャ。


「はあ……。スピーったら、ホントにそれ好きね。そんなにいつも食べてて飽きないの?」


「ん。飽きない。それに、今日は特別。ネルおじにも、この〈天下一三郎〉のコッテリツヤツヤ野菜テラマウントマシマシギガントマックスの良さを知ってもらう」


 ドォンッ!


「はいはい。というわけでオジサマ? 悪いけど、スピーにつきあってコレいっしょに食べてあげて。今日は遠慮するけど、パパやあたしも食べたことあって美味しいのはまちがいないから! ね、お願い!」


「え、あ…………?」


 そうして、困惑するネルトの前に姉パフィールがぱふどぉんっ! と置いたのは麺料理。この20年で大衆人気を不動のものにした、いわゆるラーメンと呼ばれるもの。


 ただし、その熱々の超特大丼は置いたときのその轟音がしめすとおり、ネルトを困惑させる圧倒的なボリュームとうず高く積まれた野菜炒めで中身が見えないラー……メン……? と言いたくなるような異様な姿をしていた。


 ――え? あれ? さっき俺の退院祝いを兼ねた食事って終わったんじゃ?

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