家族になった日、娘姉妹の誓い 編

寝すぎ11 黒塗りの高級車。……はやく来て? おじサマ? だいじょうぶ。ぜんぶ、あたし(わたし)たちにまかせて?

「あ! ちょっと待って。オジサマ。いま迎えを呼ぶから。……もしもし、あたし。そう、そこの最上階の入居者のパフィール・ピースフルよ。送迎車一台、すぐに頼めるかしら? 場所はいつもの病院前。ええ。急で悪いけど、なるべく早くお願いね」


 照りつける太陽の下の、ハワードとフィーリアを見送った病院の屋上。


 ひと言ネルトと妹スピーリアにそう断ると、スイスイと慣れた様子でスマホを操作して何やら迎えを呼んだらしい娘姉妹の姉パフィール。


 その後、病院前で3人で待つことしばし。現れたその迎えに、ぼーっと立っていたネルトは度肝を抜かれることになる。


 ガチャ。


「…………へ?」


「お待たせいたしました。パフィールお嬢さま。スピーリアお嬢さま。どうぞお連れさまもご一緒に、こちらへお乗りください。冷たいジュースや軽くつまめる果物、菓子などもご用意しておりますので、到着までの間しばし、ごゆるりとおくつろぎいただければ」


 現れたのは、魔導車。それも見るからに高級とわかる、黒塗りのやけに車体の長い、いわゆるリムジンタイプと呼ばれるもの。


 そのリムジンの運転席から降りてきたのは、見ためハワードと同じくらい、つまりネルトとも同じくらいの年頃の、身のこなしに隙のない執事服に身をかためた男。


 その執事服の男は手を胸に置き、うやうやしく頭を下げると後部座席の扉を開ける――


「……ふぇっ!?」


 そこに広がる光景に、思わずネルトは素っ頓狂な声を上げた。


 ――煌びやかな内装。入口とは逆の窓際に設置された大きくふかふかのソファに、さらにはしっかりと固定されたローテーブル。その近くには、執事服の男の言葉の示すとおり、固定された小型の魔導冷蔵庫も。


 〈超睡眠学習〉の付け焼き刃の知識で仕入れたばかりの一般に流通する手狭な魔導車の内装とはまったく違う、まるで高級ホテルのリビングルームばりの内装。


「ええ。じゃあ、家までお願いね」


「ん。よろしく」


 そんな高級ホテルばりの内装にまったく臆することなく、慣れた様子で入っていくパフィールとスピーリア。


 ――それどころか。


「どうしたの? オジサマ? はやくここに来て、あたしたちとゆっくりしましょう?」


「ネルおじ。だいじょうぶ。こわくない。ぜんぶわたしたちに、まかせて?」


 ネルトのためにソファの真ん中を開け、パフィールとスピーリアが甘く、とろけるような声でささやく。


 ゆるく巻いた金のツインテールと肩までの銀の髪をなびかせ、潤んだ赤い瞳と青い瞳で見つめ、右手と左手、左右から対称に、手招くように、それぞれの手を広げる。


「は、はい…………!」


 まるで恋すら知らない純真無垢で初心うぶな乙女のように、恥じらうように頬を赤く赤く染めると、ネルト・グローアップ(実年齢35歳)はようやく娘姉妹の待つ黒塗りの高級車に乗りこんだのだった。

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