寝すぎたオッサン、無双する〜親友カップルをかばって昏睡から20年、目覚めたら俺のハズレスキル〈睡眠〉が万能究極化してて最強でした。超人気配信冒険者の親友の娘姉妹が、おじサマと慕って離してくれません〜
寝過ぎ2 数えてみる、20年。失ったものと得たもの……いまここにあるものを。
寝過ぎ2 数えてみる、20年。失ったものと得たもの……いまここにあるものを。
「いくつか必要のなさそうなものは省略したけど、諸々の検査結果はすべて良好。おめでとう。栄養補給の点滴も外したし、明日にでも退院していいそうだ。とりあえずは僕の家で……うん。いままでもちょくちょく身だしなみは整えてたから、ひとまず髭を剃って軽く君の茶色の、ふふ。20年前と変わらないくせっ毛を整えてもらっただけだけど、それでもだいぶ見違えたね。じゃあ、ネルト。親友の君が眠っているこの20年でできた僕ハワードの家族、ピースフル一家をあらためて紹介させてくれ」
そうひと息に言い切って、ベッドに背を起こした20年ぶりに目覚めた男ネルトの前で、一家の長ハワードはその横に立つ面々を手でしめした。
「妻のフィーリアです。20年前のあのとき、ネルトさんに助けていただいたおかげで、夫と娘ふたり、こんなにとっても素敵で幸せな家族を築くことができました……! ネルトさんには、心から感謝しています……!」
「娘で姉のパフィール! 16よ! 家族や、親しい人たち、応援してくれる人たちといっしょで、オジサマにはパフって呼ばせてあげる! それと、わからないことがあったら、あたしが何でも教えてあげるから! これからよろしくね! オジサマ!」
「妹のスピーリア。15歳。スピーって呼んでほしい。ネルおじと起きてるときに話すのは、これが初めて。すっごく楽しみにしてたから、いっぱいお話ししたい。これからよろしく。ネルおじ」
「あ、ああ。よろしく。パフ。スピー」
――親友のハワードに、同じく親友でかつ好きだった女の子フィーリア、そのふたりの結婚。薄ら思いあたることがなくもないけど、なぜか名前を知っているその娘姉妹パフにスピー。で、俺が昏睡して20年、20年ん!?
混乱しきった内心をなんとか表には出さず、ベッドの上でややぎこちない笑顔でそう返すネルト。
そのかたく握られた震えるこぶしにちらりと目を向けてから、ハワードはこう切りだした。
「さあ、みんな。ひとまず今日はこれでお暇しよう。なんせネルトはまだ目覚めたばかりだ。まだ体力も戻ってないだろうし、無理はさせられない。じゃあ、ネルト。また明日来るよ。あと何かあったら、何時でもかまわない。これで連絡してくれ。僕の番号だけ入れておいた魔導携帯端末だから。……くり返しになるけど、ネルトが目覚めてくれて、僕は本当に、本当にうれしい」
「はい。ハワード。ネルトさん。それでは、また明日」
「オジサマ! ゆっくり休んでね! また明日!」
「ネルおじ。なるべく早く来るから。じゃ、明日」
「ああ。ありがとう。みんな」
そして、ネルトは笑顔で一家を見送り、病室の扉が閉まったのを確認すると――
「はああああ〜〜!」
――ベッドの上に突っ伏し、おもいきりため息を吐く。
「はは、そうか……! 俺は、20年も寝てたのか……! どうりで……!」
スキル〈睡眠〉詳細と念じながら、自分にしか見えない光の板と、同時に頭の中には解説の声も呼びだす。
「睡眠時精神安定……? いきなり20年経ってるって聞いたのにいま思ったより落ちついてるのは、これの効果か……? 安眠系派生ってやつの一つか……。あとは、成長系に、特殊系……?」
丹念に、さっき頭の中の通知が鳴り止まなかった自分のスキル〈睡眠〉の現在の詳細を確認していくネルト。
その結果、わかったのは――
「はああっ!? スキル継続使用ボーナスで実質200年寝てたのと同じ熟練度に!? っていうか、おい、おいこれ!?」
震える指でスクロールし頭の中の解説を聞き、スキルの確認を終えると、ネルトは半信半疑ながらこうつぶやいた。
「え? いまの俺……もしかして、すっげえ強え……?」
睡眠時肉体強化(永続)と魔力増加(永続)、さらに耐性強化に諸々の成長系派生。さらに、普通に20年寝るときにちまちま使ってただけじゃ本来あり得ない連続使用ボーナスによる圧倒的なスキル熟練度と種々の有用そうな睡眠時特殊系技能の習得。
おまけに。
ベッドの上から降り、ぺたぺたと部屋備え付けのトイレの扉をガチャリと開け、鏡をのぞきこむ。
「やっぱ、若い……!? 今日目覚めてから会った同い年のハワードのやつと比べても……!? これが成長系、睡眠時老化減衰の効果か……!?」
いまの俺の実年齢は、15歳から20年寝てたから35歳。たぶんこの効果が発現したのは相当後だと思うけど、それでもこの見た目なら20代後半……ギリ25って言いはれなくはない気がした。
「は、はは……!?」
――俺が失ったのは、20年。それも一般に青春時代と称されるかけがえのない宝物のような時間……けど。
辺りを見まわす。20年経って様式や雰囲気も俺の知ってるのとはずいぶん違ってるけど、この広さは間違いなく病院内では高級個室……ひょっとしたら、最高級かも。
「ハワード、フィーリア……。いくら命の恩人だからって、20年ただ寝てただけの俺をずっと助けて、守ってくれてたんだな……」
それに、ふたりの娘姉妹パフとスピー。直接は今日初めて話したはずのふたりがあんなに俺を慕ってくれたのは、ハワードたちがきっと何度も何度も、ここに連れてきてくれてたからじゃないだろうか。
――この人は、僕たち家族の恩人で親友なんだよ。って。
こんな、望んでも望めないような最高の親友が、絆が、俺にはいまでもあって、そして、普通に20年生きてたんじゃ絶対に手に入らなかったとんでもなくすげえ〈力〉がいまこの手にある。
なら、俺が、俺がこれからすべきことは、したいことは――!
ピッ、ピッ。
「ハワードか? 遅くに悪ぃ。大急ぎで用意してほしいものが――え? いまそんなのあるのか? ……ああ。助かる。なら、それで、できるだけ多く頼めるか? なんせもう俺は、これから一日たりとも無駄にしたくないんだ」
――そう。それはたとえ
病室の窓から仰ぎ見る夜空にそう誓う。浮かぶ月は、20年前と変わらず、そこでただ綺麗で静かに輝いていた。
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