第153話 産まれを違えたパワーバカ
「……なにがいるというの?」
「以前話したソウルイーターかと……」
「それじゃあ、なに? 翠光の弓がたかだかソウルイーターの一匹程度に全滅させられたと?」
「それは……」
ロマーナと俺の飼い主たちの話をただ聞くしかできなかった。
一見責められているロマーナも、八つ当たりをするかのような俺の飼い主たちも、当然俺自身も信じられなかったからだ。
翠光の弓が敗北した。指揮官はおろか副官たちも、その部下たちも含めた全滅だ。
俺と同じような首輪をつけられていたため、その魔力反応が一斉に途絶えたことから間違いないらしい。
翠光の弓が……エルフたちの戦力の一つが削がれた……。
「……潮時ね」
「ええ、すぐにダンジョンを崩落させないと。入り口だけでも埋めておけばいいでしょ」
「翠光の弓を失ったこと、他種族にばれるわけにはいかないわね。当然ながら口外なんて許さないわ。ジノ、あなたもね」
「はい……」
飼い主たちも、翠光の弓の喪失を重くとらえているようだ。
聖光の刃と翠光の弓であれば、彼女たちの命令はすべて叶えられる。そう思っていたのだろう。
ソウルイーターに殺されるなど、俺だって予想だにしなかった。
せいぜいが、討伐に失敗して敗走する程度だと思っていた。
彼らは遠距離部隊だ。
だからこそ、周囲の状況は誰よりも感知能力が高い。
そして敵を倒せるか、自分たちがやられるほどの相手か、しっかりと観察して挑むはず。
最低でも逃走経路の確保くらいはしていただろう。
それが、一人残らず帰らぬものとなったのだ。
翠光の弓の索敵能力を潜り抜けるほど、隠遁能力に長けたモンスターがいた?
あるいは、より遠方からこちらを観察できる者が、これまたより遠方から一方的に攻撃して蹂躙した?
馬鹿な。翠光の弓はそんな簡単にやられる相手ではない。
ならば、相当の強敵があそこに潜んでいることになる。
やはり、魔王軍のボスクラスの敵でもいるのか?
だが、たとえイピレティスが相手だったとしても、逃げるまでならできるはずだ。
あの暗殺ウサギでさえ、接近を完全に隠せるものではない。
それ以上の敵……ピルカヤのように四天王が生きている?
それも違うか……。四天王にそんな隠密性の高い者はいなかった。
…………もしかして、転生者でもいるのか?
それなら、多少なりとも納得できる。
この世界で転生者が女神から渡された力は、レベルやステータスを超えた効果を発揮することがある。
俺や
もっとも、気配を消せないだろうから、その転生者が犯人というつもりはないが。
だめだ。ここで考えていてもなにもわからない……。
「それにしても、厄介なことね。本当なら翠光の弓の集中砲火でダンジョンの入り口を破壊するつもりだったのに」
「あの子たちがてこずるほどのダンジョンなら、崩落といったってそう簡単じゃないわ」
俺には一人だけ、それができるやつに心当たりがある。
開錠。ロペスが女神から渡された能力だ。
あいつはしょぼい能力だなんて言っていたが、鍵だけでなく生物以外を開くことができるとんでもない力だ。
俺が強化すれば、ダンジョンの入り口だろうと崩壊させることもできただろう。
「ジノ。なにか考えでもあるのかしら?」
悟らせずに表情を変えていなかったはずだが……。
俺の飼い主たちは、こういうところが恐ろしい。
長年生きぬいてきた経験値が段違いなんだ。
俺みたいな若造が出し抜ける相手出ないことは、ほとほと痛感させられる。
「いえ、ロペスのやつがいればと思っただけです。もっとも、今となってはその手段は不可能ですが」
「ああ、あの鍵屋ね」
「あなたのおともだちだったかしら? 残念ね。行方不明になったなんて」
行方不明には違いないが、死体が見つかっていないというだけだ。
残念ながらあいつはもう……。
この世界で無理せず暮らすなんて言っておきながら、ハーフリングたちから聞いた最期は相当無茶をしたようだ。
根気よく勧誘を続けるべきだったとも思うが、それももうかなわない。
「仕方ないわね。あの単細胞を使いましょう」
「嫌ねえ。あんなのまで使わないとならないなんて」
「壊すだけなら、さすがにできるんじゃないかしら?」
これだけで、誰だかわかった。
ダンテか……。たしかに、あいつなら火力だけは俺の飼い主に匹敵するだろう。
ゲーム中もはた迷惑なやつだったからな……。
ダンテは、おおよそエルフらしくないエルフだ。
どちらかというと獣人っぽい。というか、イドに近い。
エルフのくせに魔力操作の技術は非常に拙く、そのくせ魔力量だけは非常に高い。
さらに、肉弾戦も得意で耐久力もある。
俺の飼い主たちが、エルフらしくないと嫌うのもなんとなくわかる。
「ただ、あの子馬鹿だから、ダンジョンまでたどり着けないかもしれないわね」
「まったく……ロマーナ。入り口まで連れて行ってくれるかしら」
「はい。最高評議会の命令であれば」
「命令よ。ダンテをダークエルフたちのダンジョンまで連れていき、入り口を破壊させなさい」
さすがにこれ以上の無茶はしないか。
翠光の弓を失ったからそれを取り戻すためにと、無謀な命令を下されなくてほっとする。
なにも得られていないが、ここで意固地になって聖光の刃まで失うことが最悪なのだから。
◇
「それで俺のところにきたってわけか。調子のいいババアどもだ」
相変わらず恐れを知らない男だ。
粗暴なのは口調だけでなく、見た目も性格も魔法の使い方も、なにもかもがエルフらしからぬ男、それがダンテだ。
しかし、この口の悪さもエルフらしくない生き方も許されている。
最高評議会も、今回のようなもしものときのためにと生かす程度には、この男の力を認めているのだろう。
「お前の力が必要だ。素直に協力してもらえると助かるのだが」
「つってもなあ……敵と戦うとかじゃねえんだろ?」
「今回はダンジョンの入り口の破壊が最優先だ」
「興味ねえ。動かない岩を相手にしたってなにが面白えんだよ」
最高評議会の命令だなんて、この男には関係ないのだろう。
しかし、いつまでもわがままが許され続けると思ってはいけない。
「いい加減、このあたりで役に立つところを見せておくといい。そうしなければ、本当に処分されるぞ」
「それはそれで面白そうかもな。ババアどもかお前かは知らねえけど、本気の魔法勝負なんて楽しそうだ」
私はなにも楽しくない。
そもそもだ。前提からして間違っている。
「戦いになんてなるものか」
「はあ? それは、お前が俺より圧倒的に強いとでもいいたいのかよ」
「馬鹿かお前は。そのときは、お前の魔力の封印はそのままに処分されるに決まっているだろう」
「あ~……忘れてた」
魔力はエルフにとっては命綱のようなもの。
それを封印され、制限されているというのに、こいつはそれすら忘れている。
まったく……とことんおかしなエルフだ。
「仕方ねえなあ……いいよ。やってやる。そのダンジョンの入り口とかいうの、俺の土魔法で壊せばいいんだろ」
「ああ。それだけがお前に与えられた役割だ」
「そのソウルイーターとかいうやつ。見つけたら戦っていいんだよな?」
「……それを禁止するとは言われていない。だが、ダンジョンの入り口の破壊だけは必ず行ってもらう」
「へえへえ……最悪、中から壊せばいいだろ」
それは、お前も生き埋めになるということだぞ。
わかっていない……わけではなさそうだな。
こいつ、本当に敵と戦うためだけに、ダンジョンの内から入り口を崩すかもしれないな。
◆
『エルフだからって舐めんじゃねえぞ。糞猫』
『てめえがエルフだと? エルフってのは、枯れ枝みたいな貧相な体だろうが』
『そう。あいつら魔力が魔法がってそればっかりで、筋肉足んねえんだよ』
『へえ……てめえは別らしいな』
『当たり前だ。あんなおりこうなやつらと一緒にすんな』
『面白え。てめえが口だけじゃないっていうのなら認めてやるよ!』
ただ出会っただけだった。
獣人の勇者を操作していて、エルフの国で明らかに他と違う体格のエルフに遭遇しただけだった。
その筋骨隆々なエルフと操作キャラのイドが勝手に会話を初め、あろうことかこれまた勝手に戦闘が始まる。
「聞いてない! なに、このバーサーカーエルフ!」
「イドと渡り合ってるな」
「まあ、さすがに勇者よりは弱いっぽいけど」
不意打ちのような戦闘だったが、なんとか敵の攻撃をさばいて対応する。
ステータスの差か。終始こちらのほうが優位に戦闘を進めることができたが、油断しているとそのまま敗北していただろう。
『いいだろう。てめえを認めてやるよダンテ』
『お前もな。イド』
そして、ダンテ相手に一定時間生き延びたことで、画面に映る二人は矛先を収めたらしい。
「なんか仲良くなってるし……」
「どっちもバカだからじゃね?」
「パーティがどんどん脳筋になっていく……」
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