第97話 ビー玉と黒曜石の二人
「それじゃあみんな、今日も一日がんばろうね~」
「はい!」
マギレマさんのレストランは順調だ。
やっぱり彼女の料理は、魔族だけでなく様々な種族にとってもすばらしいものなのだろう。
あのジェルミの野郎も褒めてたからな! 王族で傲慢でフィオナ様と俺のダンジョンを壊すようなやつでさえ褒めるのだから、マギレマさんの料理の腕は疑いようのない一級品だ。
「はい、カザマくん」
「はい、セラちゃん」
「はい、ハラちゃん」
次々と注文された料理を仕上げ、ジェルミのやつが壊したかつてのドワーフダンジョンの従業員へと手渡されていく。
やっぱり
そつなくこなしてくれるので、頼りになる人材といえる。
「さてと、邪魔しちゃ悪いし戻るか」
レストランの様子を見にきたけれど、特に問題なく回っている。
マギレマさん一人で料理を作れるみたいだし、転生者やドワーフ、ハーフリングたちもしっかりと働いてくれているので、人手不足ではなさそうだ。
なんでも、ドワーフの一人が酒を飲もうとしてマギレマさんにものすごく怒られたらしいのだが、今はそんな様子もない。
たぶん、マギレマさんに怯えながら仕事をしているあのドワーフだろうけど、それほど怖かったんだろうか。
「あ、レイさん! すみません。あとでちょっといいですか!」
「ああ、わかった。落ち着いたころにまたくる」
立ち去ろうとすると、風間に声をかけられる。
作業中なので忙しそうだから、とりあえず了承の旨だけを伝えておくと、風間は頭を下げてから再び給仕へと戻っていった。
◇
「どうした? やっぱり、急な仕事の変更はまずかったか?」
「いえ、僕たちは全然いいんですけど」
「むしろ、元の世界のバイトの経験がまたまた活かせる職場ですし……」
「私はこっちのほうが性に合っている気さえします」
ならよかった。無理をさせていたため、仕事に対する意見があったのかと思ったが、そういうわけではないらしい。
しかし、そうなるとなんだろう。また休暇の連絡か?
「ただ……カールさんが」
「カール? あのドワーフも、わりとそつなく仕事をこなしてくれていたみたいだけど」
接客とか苦手そうなのに、彼は彼でがんばってくれているし、案外優秀に仕事をしてくれる。
風間たちが来る前は、一人で商店の番をしていたくらいだしな。
「はい。カールさんは、口はあんなですけど接客もできる方なので」
「となると、他に問題が?」
「ええ! カールさんを石細工に使わないのはもったいないと思うんです! 師匠はやっぱり石の加工でこそ輝く方なんです!」
「あ~……たしかにな」
やけに熱心に直訴されるが、それは俺も思っていた。
カールは接客もできるが、それ以上に石の加工の技術力が秀でていて、しかも今のところ替えが効かない。
風間という弟子こそいるものの、さすがに一朝一夕でカールほどの働きを望むのは酷というものだろう。
「今までであれば、僕たちが接客をして師匠には石の加工をしてもらっていたのですが、採掘場がなくなってそもそも鉱石や魔石そのものが入ってこないため、師匠は給仕に励むように……」
そこで腐らずに給仕の仕事をしてくれるのはいいことだが、たしかに人材の無駄遣いをしている気がする。
そうだな……。フィオナ様の魔力供給にもなるし、魔石の加工は復活しておいたほうがいい。
「カールとそれと元々採掘を担当していたドワーフたちに伝えておいてくれるか? 採掘場を復旧させて、元の作業に戻ってもらうかもしれないって」
「ありがとうございます!」
「ああ、でも……あんまり人手を減らしすぎると、ここの要員が不足するか」
「私たちがその分がんばります!」
「ええ、
「
あ、三人の世界に入ったな。
だけど、その前にこれだけは言っておかねば。
「無茶な作業量を続けられても困るから、人手が足りないようならすぐ言ってくれ」
伝わったな。伝わったようだな。よし、あとは三人の世界で好きにしてくれ。
俺は、とりあえずフィオナ様に報告してから、適当な場所に採掘場を作り直すとするか。
「相変わらず、なんで魔王軍のほうが待遇がいいのかしら」
「もっと働けじゃなくて、働きすぎるなだもんね」
「種族だけで判断するのはよくないってことだろうね。カールさんだけでなく、ハーフリングのロペスも、獣人である
「後半ほとんど元々は人間よ?」
「……カールさんは良い人じゃないか」
「人じゃなくてドワーフだよ」
「……種族だけで判断するのはよくないってことさ」
◇
数日後、適当な従業員を他のダンジョンでひっとらえて、マギレマさんのところの従業員を増員した。
そして、採掘場は作り終えたし、そこではすでに何人ものドワーフたちが作業をしている。
なので、ようやくカールのところに、鉱石や宝石を受け渡すことができるようになったというわけだ。
「すみません……俺なんかのために」
「カールの技術は優秀だからな。余らせておくのはもったいない。と風間が言っていたし、俺もそう思う」
「タケミお前……」
「師匠は優秀な石の加工師ですから!」
なんか師弟として絆のようなものが芽生えている気がしなくもない。
「まったく、弟子がここまでやる気なのに、早々に諦めちまうとは俺も
「とりあえず、これまでどおり魔石の加工を優先的に、あとは宝石や鉱石も渡しておく。ついでに、加工しても見込みがないって言っていた石も預かってきた。風間の練習にでも使ってくれ」
「レイさん……」
風間が優秀な弟子になれば、こちらとしても助かるしな。
捨てるくらいなら、有効活用してしまおう。
「それと、カールって鉱石の加工もしていたんだよな?」
「え、ええ、はい。魔石や宝石がここまで手に入るなんてことはなかったので、もっぱらそっちが主流の仕事でした」
「それって、装備の作成や強化に使ってたのか?」
「そうなりますね。うちは腕に覚えのあるやつらがよく訪ねてきたので、気に入ったやつの装備は鍛えてやっていました」
認めた者の装備だけを強化していたってことか。
なんか、いかにも主人公にかかわりがありそうな、NPCキャラのような立ち位置だな。
ならば、魔王軍の装備品とかもなんとかできないだろうか。
「リピアネムの装備を鍛えることってできるか?」
「ええ、もちろん。しっかりと切れ味を上げさせてもらいますが」
「ああ、やっぱりそういう感じか」
「ふ、不満でしたでしょうか?」
「いや、なんというか、破壊力を全体的に下げる加工ってできない?」
「あ~……そういうことでしたか」
カールも俺が言わんとしていることを理解してくれたらしい。
彼もまた、リピアネムという台風のようなやつの破壊の痕跡を目の当たりにしているからな。
「すみませんが……あの力を剣の加工だけで制御することは……」
「だよなあ」
「より頑丈にして、より重量を上げてみますか? 動きが鈍るかもしれません」
「試しにそうしてもらえるか?」
駄目で元々だ。やるだけやってみよう。
カールは普段の仏頂面を崩す程度には苦笑をした。つまり、それだけ意味不明な依頼をしたってことだ。
なんか悪いな。せっかくのカールの技術をそんなことに使ってしまって。
◇
「レイ殿! 重みは増したが、おかげで破壊力が上がったぞ!」
「そっか、よかったな……」
ああ、俺の馬鹿。カールも馬鹿。
重量増やしたら、今度はその重量による破壊性能が上がるだけじゃないか……。
後日それを知ったためか、カールの提案でリピアネムの武器は元に戻されることとなった。
◆
『…………』
「…………」
『…………はあ、いつまでそこにいるつもりだ』
「まじだった! こんなに長時間放置して待たなきゃいけないとか、どんだけ偏屈なんだよ、このドワーフ!」
現実の時間にして20分。
店を訪ねた主人公たちが、カールに会話をしてもらうまでに要した時間である。
『言っておくが、誰にでも装備を融通するつもりはねえし、お前らみたいな若造をそう簡単に認めるつもりもない』
「いい御身分だな! 殿様商売しやがって!」
「それだけ腕が立つってことなら、やっぱり装備強化には役立ちそうだよな~」
『帰れ。お前らの装備を鍛える気はない』
「頑固おやじ!」
「なんかフラグ……単純にレベルか?」
「シナリオの進行度かもな」
これ以上はどうあがいても相手にされず、彼らは仕方なく先に進む。
別の場所で購入した武器を鍛え、レベルを上げ、魔王軍相手に活躍を続けると、ようやくその時がきた。
『またお前らか、物好きなことだ。いいだろう。俺でよければお前らの装備見てやるさ』
「デレた~!!」
「結局どれがフラグかわからなかったな」
「こうして攻略サイトには、何が本当で何が嘘かわからない情報が集まっていくんだろうなあ……」
なんなら、自分たちでさえ再現できるかは怪しい。
しかし、ようやく認めてくれたドワーフの腕は本物だった。
試しにこれまで使用していた武器を鍛えてもらうと、その数値の上昇値に彼らは驚愕することになる。
「なにこれ! カールさんチート持ちだろ!」
「これ、いよいよ四天王討伐も見えてくるな……」
「カールさんいなかったら、レベルめちゃくちゃ上げることになってただろうな」
「でもいいのか? レベルは上げすぎないようにしてるのに、武器はいくらでも強化しちゃって」
「馬鹿お前! カールさんが認めてくれたんだぞ!」
「まあ、お前がそれでいいならいいけどさ……」
彼らは急上昇したステータスで、魔王軍を薙ぎ払っていく。
その快進撃は、四天王の一人プリミラに叩き潰されるまで続くのだった。
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