第17話 おすすめ狩場 3選
「わ~お、ずいぶんと面白いことになってたんだねえ。地底魔界も」
「レイががんばってくれましたから。頭をなでてあげましょう」
……なんか、フィオナ様が俺に甘い。
どうやら、人としての意識と魔族としての意識がこんがらがって、不安定なところを見せてしまったようだ。
だけどもう大丈夫。俺は魔族だ。人と、いや他の種族との和解は諦めるべきだったんだ。
「フィオナ様。俺の頭で火でも起こそうとしているんですか?」
「それなら、ボクなら一発だよ」
なんかなでるというか、摩擦熱で俺を火種にしたいのかというほどの動きだ。
あと、ピルカヤがやったら一発で火はつくだろうけど、死ぬから勘弁してほしい。
「変なことを考えていたので、なでる力を強めました」
「つまり、罰ということですか?」
「え……褒美だったのですが、気に入りませんでしたか?」
難しいところだ。
とにかく、次からは余計なことを考えないようにしておこう。
「大量のモンスターに容赦のない罠かあ。魔力だけでここまでできるなら、魔王様が重宝するのもわかるよ」
やっぱりそこが強みになるか。
他の魔族でも部屋や罠も作れるだろうし、モンスターを手なづけて配置することもできる。
ただ、そのためには時間や労力がかかるので、それを一瞬で行える俺のスキルは、今後もダンジョン作りに役立てることができそうだ。
「ピルカヤ様が報告した侵入者はあれですべてですか?」
「そうだねえ。だから言ったでしょ? 大した事ない弱っちいやつらだって」
「では、次は小規模な簡易ダンジョンの作成でしょうか」
プリミラに言われてようやく思い出した。
そういえば、もともと侵入者を増やすために、ダンジョンを改築するって話をしていたっけ。
なんだ。もうとっくに、人類の敵として行動することを決めていたんじゃないか。
「レイたちに任せます。私は手持ち無沙汰なので、他の部下を蘇生させる準備をしましょう」
「良いように言っていますが、つまりレイ様に宝箱を作成してほしいということですね?」
「……次も当たると思うんです」
まあ、自分の魔力だけでやるのであれば、断る理由もないか。
新しい宝箱を作成すると、フィオナ様はこころなしか目をキラキラさせていた気がする。
そして、プリミラがジト目で甘やかさないでくださいと言ってくる。
「ええと……まずは入口を決めるところからか」
「そうだねえ。さっきも言ったようにここらへんがいいよ。それぞれ、人間と獣人とエルフの村が近くにあるね」
なるほど……てんでばらばらな場所だとは思っていたが、近くに住む種族までばらばらなのか。
「となると、ここがいいかな」
「へえ、エルフか。なんでまた?」
「新しい入口を作るのは、ダンジョンの魔力を確保するためだから、魔力が多そうなエルフのほうがいいと思って」
「レイ様。ダンジョンが吸収するのは魔力というよりは力です。なので、侵入者の魔力は関係ありません」
「それにエルフは慎重なやつらも多いしね~。年食ってるだけあって、他の種族みたいに欲丸出しでがっつかないことが多いよ」
そうだったのか……。
だとしたら、わざわざエルフを選ぶ必要もなさそうだ。
というか、エルフは最初のダンジョン作りの相手には向いてないとさえ言える。
「そうなると、やっぱり人間の村の近くがいいか」
「そうですね。エルフほど欲がないわけでもなく、獣人ほど慎重さがないわけでもない。ちょうどいい人数が侵入してくれるはずです」
プリミラからお墨付きをもらい、ピルカヤも頷いている。
じゃあ、入口は人間の村の近くにしよう。
もっとも、入口を作るのはダンジョンがすべて完成してからになる。
まずは、ちょうどいい簡易的なダンジョン作りを考えないとな。
改めてメニューを確認してみよう。
壁作成:消費魔力 1
床作成:消費魔力 1
天井作成:消費魔力 1
扉作成:消費魔力 1
部屋作成:消費魔力 5
広間作成:消費魔力 10
迷路作成:消費魔力 20
看板作成:消費魔力 1
松明作成:消費魔力 1
一本道作成:消費魔力 3
分かれ道作成:消費魔力 5
油まみれの道:消費魔力 5
宝箱作成:消費魔力 5
罠作成:消費魔力 5
転がる岩:消費魔力 5
火の球:消費魔力5
モンスター作成:消費魔力 5
中位モンスター作成:消費魔力 10
「松明はともかく、看板作成とかなんの意味があるんだか……」
「え、松明作れるの? いいねえ。ダンジョン中を松明だらけにすれば、ボクの目はすべてを見張れるじゃないか」
「いずれはそれもありかもなあ。ただ、このダンジョン現時点で広いから、すべての道や部屋ってなると、俺の魔力がもたない」
だけど、ピルカヤの能力との親和性は非常に高い。
彼一人で監視カメラみたいな役割をできるのは、こちらにとってもかなり有利だ。
「看板ですか……あえて入口に危険である旨を記載することで、一定の侵入者は追い返せるかもしれませんね」
「追い返しちゃうの? 侵入させたほうが、ダンジョンのためでしょ」
「ええ、今はそうですが、いずれ侵入者が増えてきたときは必要かもしれません。興味本位で侵入したあげく被害にあった。それが大人数なので、国が動くとなってしまったら、割に合いませんから」
なるほど……たしかに、被害者が多すぎると国の兵士や騎士を呼ぶことになりそうだ。
無事に帰還させたほうがいい場合もあるってことだな。
「部屋をいくつか作って、分かれ道も作って、部屋には罠かモンスターを二つか三つってところかな」
「はい、それくらい小規模なダンジョンであれば、仮に王国の兵士たちが派遣されても騒ぎにはならないと思います」
「あとは……宝とボスも忘れないでね~」
「宝とボスか……やっぱり、そういうのもあったほうがいいんだ?」
「そりゃあもう。だって、宝があるから欲をかいてダンジョンなんて危険な場所に訪れるんだよ? せっかく奥まできたのに、なにもありませんでした~とか、二度とこないだろうね」
それもそうか……。それじゃあ、もう慣れてしまった宝箱も作成しておくとするか。
ただし、魔力は込めないようにしよう。どうせ、ダンジョン自体の魔力をわずかに吸収するし、時間が経てば中身の質も上がるだろう。
俺が自由に使えるダンジョンの魔力と、ダンジョンが修復したり、ダンジョン中に漂う魔力は別らしい。
宝箱が吸収するのが後者の魔力で助かった。そうでなければ、ピルカヤが言ったとおりの宝一つないダンジョンを作ることも辞さなかったかもしれない。
「ボスは、そうだな……そういえば、ゴブリン系のモンスターがやたらと作成できたことだし、いっそゴブリンだけのダンジョンにしてしまうか」
「コンセプトは大事だよね~。今のところは強すぎるゴブリンもいないし、ちょうどいいんじゃないかな」
「やっぱり強いゴブリンもいるのか」
「そりゃあもう。彼らは群れるほどに強いし、上位種は仲間と強化し合って手が付けられないなんてこともよくある話だよ」
薄々は気付いていたけど、群れているモンスターってそのあたりが強みだよなあ。
ゴブリンキングとか、いるだけで周りのゴブリンの強さも明らかに変わってくるみたいだし。
「大体決まったな。それじゃあ、魔力を回復しながら実際に作ってみるか」
小規模とはいえ、さすがに一度にダンジョンを作れるほどの魔力はない。
なので、道を作っては休み、部屋を作っては休みつつ、いよいよ本格的にダンジョンの作成を行うことにした。
「うわ~……君って、
「お見事です。レイ様」
「俺は二人と違って戦えないからね。こういうときには役立っておかないと」
「ボクが手柄を立てるためにも、松明も頼んだよ」
道や部屋を作れば、勝手に最低限の灯りとして松明も作られるし、今回はそれだけでも十分だろう。
「あの岩や槍の罠は……殺傷能力が高すぎる気もします。数は少なめのほうがいいかもしれませんね」
「ああ、あれってやっぱりけっこうすごい罠だったんだ。起動しているのを直接見てないから、効果はいまいちわからなかった」
「すごいっていうか、えぐいからね? プリミラさんの言うとおり、辺境の村には荷が重いよ」
そうか、罠ってすごかったんだな。
案外あの転生者たちを倒したときも、罠が役だってくれたのかもしれない。
今後は、罠の種類も増やしていきたいものだ。
◇
そんな風に、プリミラやピルカヤから助言をもらいつつ、ようやくダンジョンが完成した。
部屋は10にも満たない。道はそれらをつなぐだけ。
分かれ道こそあるものの、行き止まりはなく、最終的にはどのルートでもボス部屋へとたどり着く。
ボスはゴブリンキングで、お供として何種類ものゴブリンを配置した。
そして、ボス部屋の奥には宝箱。序盤の部屋にもいくつか最低限の品質のアイテムが出るような宝箱を、都度適当に補充しておくつもりだ。
うん。まあそこそこのダンジョンにはなっただろう。
当然ながら、今いる地底魔界とつながる隠し道なんてものもないし、完全に独立したダンジョンだ。
「おや、完成しましたか。さすがはレイですね」
「フィオナ様」
「魔王様~。ボクらも助言しましたよ~」
「ええ、ピルカヤとプリミラもよくやってくれました」
ダンジョンが完成したため、フィオナ様がわざわざねぎらいにきてくれたらしい。
相変わらず部下想いの魔王様だ。
「……魔王様。今後もダンジョンはレイ様にすべて任せるつもりでしょうか?」
「え? ええ、まあ……いやあ、だってあれだけがんばって作ったのに、勇者たちに壊されてしまうじゃないですか」
プリミラの質問にフィオナ様はしどろもどろになって答えた。
「……気持ちはわかりますし、魔王様を残して死んだ私たちが悪いのですが、いずれはやる気を出していただけないと困ります」
「ぜ、善処します……そうですね。一万年後くらいには……」
プリミラはその言葉を聞いて、意外にも怒ることなく頷くだけだった。
魔族の時間間隔ってよくわからないな……。
「ところで、この簡易ダンジョン。宝箱をこんなに設置してはもったいなくないですか?」
「え、でも、そういうものがないと侵入しなくなるってピルカヤが」
「むう……いくつか私に融通しませんか? 次こそは、三人目の四天王を蘇生させられると思うんです」
……まだやっていたのか、いや魔王軍全員を復活となると、もっとやらないといけないんだろうけど。
魔王様がわけのわからない宝箱ガシャにはまってしまった。
その原因が俺と知られたら、俺は魔王軍にこっぴどく叱られるんじゃないだろうかと不安になってきた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます