第32話 罠に落ち、そして"堕"ちるか憐れ疾斗よ………
───ただただ僕は嬉しかった。この気持ちを言い表す
「………と、処で確かに遅い時間となりましたが、それ程家が遠い訳でもなく、これから帰宅することに何の問題もないのですが………」
僕は外を見ながら思う。自転車もあるし何しろ僕はただ男だ。まだ22時頃、男子高校生が街へ繰り出した処で職務質問すら受けないだろう。
「うーん………確かに
「………そういう事だ、
どこから聞いていたのだろう? 部屋の扉を開き、その枠に肘を付いて立っていた
超ベテラン声優の誰かに似ていると感じた程だ。こんな声で自分に取って決して悪くない提案をされているのだ。これは無下に断れないと思わせる妙な説得力がある。
「わ、判りました。では親に確認してみます」
「…………無論だ。私とて同じく人の親だからな」
スマホを取り出しNELNを母へと送ってみる。まあ結果は見えている。高校生の息子が友達の家に泊まるなんてありふれた行為だ。
───ただ女子………増してや初めて訪れた家という
ピッ………ピピピッピピピッ………。
「うぉっ?」
送信した途端に向こうから通話が飛んで来た。まるで待ち構えていたかの様な
『…………おやおやぁ? 随分と帰りが遅いと思いきや、まさかの初回お泊りとは………。嗚呼………私の知っている
「ま、
やたらとデカく甲高い声で煽りを入れられた。スマホのスピーカー越しでも爵藍家皆が振り向く程だ。
『いやいやぁ、ママがね『ちょっと大変大変。疾斗ったら颯希さんの
「ね、ねとッ!?」
同級生の女の子の部屋、増してや御両親の前で何とも不適切な発言である。僕は勢い任せに返すのを即座に止めて、周囲の様子を
幸い、気取られてはいない様だ。声のトーンを下げて続ける。
「か、勝手に話を
声こそ小さめだが、僕も負けじと気合の返答をした。ビデオ通話じゃなくても、さも楽し気に……しかも少し
『………………チィッ』
「舌打ちしないでサッサと替われ! このお節介焼きと称した動乱の
後は母さんとトントン拍子で話は進んだ。途中一点だけ『本当に颯希さんと同じ御部屋じゃないのよね?』と念押しされた以外はだ。
ピッ。
「た、大変お騒がわせしました………。で、では今夜、
「では早速一汗流して来ると良い。私の方で準備はしてある」
「あ、ありがとうございます!」
これはこれは想像通りというべきか。大変広い脱衣所に、西洋のバスタブを思わせる豪勢なもの。あの洋画で良く見る風呂に脚が生えてるアレだ。
恐らく
「ではゆっくり入りたまえ。着替えは後から持って
そう
僕はこの家庭の家族構成を良く考えるべきであった。自転車を
~~~
「………本当にこれで良かったのか二人共?」
とても
「流石貴方、完璧な
此処でママの目がギラリッと輝き、瞬時にして悪役な
因みにパパ、サッカーにはまるで縁がないので、この台詞は全く以って意味不明なのだ。
そしてもっと輪を掛けた白々しいママの如何にも御上品な声が廊下に響き渡るのだ。きっと浴室の彼にも届いている。
「………あらあら、どうしましょう。確かに御部屋は余っているのよぉぉ………。でも御布団は在っても御着替えがないわ」
「マッマ……………疾斗ってぇ………実は割と身長低めなのよ」
此処で大変不可思議なことが起こり得る。何故か私の手には、丁度疾斗のサイズに合いそうな服が載せられいるのだ。
───…………って当然私が
「あの細身の可愛げな身体………………」
「ね、判るでしょママ。私がもうどうしようなく
先程ママは、如何にもお涙
「ええ颯希ちゃん、グッジョブよ。大変素晴らしい
「………じゃ、じゃあ僕はこれにて……………」
不穏な空気を感じ取ったパパが後退る様にこの場を後にしようとした矢先。
グイッ。
「ヒィッ!?」
「一体何を言っているの貴方。そのやたら大きな身体を今活かさなくどうするおつもりぃ!? 私はね貴方が大き過ぎる事が最大の悩みだったのよ」
ママに襟首を掴まれたパパ。大きなドーベルマンの様な犬が、子猫みたいに震え始めた。何処からともなくゴゴゴゴッ……てSEすら聞こえる気がした。
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