鞘と颯真〜悠久の時を超えて〜
ゆうき里見
第1話「棺に眠る少女」
はるか昔からこの日本を邪悪な存在や魔物の類から守り続けてきた戦士と一門がいた。その者たちは
しかし、その栄華も17年前に終わりを告げた。その時に起きた事件により一門の者たちは死亡、やがて滅亡したのだ。
......と世間ではそのように認知されていた。
それから......17年後。
東京西部の1番端っこにある
この話の主人公のひとりである2年生、17歳の
彼は「颯真」と男子クラスメイトに呼び止められた。
「なぁなぁ、これからヒマ?よかったらまたウチの助っ人に入ってほしいんだけどさ」
手を合わせて懇願してくるクラスメイトに颯真は「ごめんな。今日は用事があってさ」とすまなそうに返した。
「そうか......それなら仕方ないよな」
「ホントごめん......」
「そんな気にするなよ。お前にはたびたび頼んでは出てもらってるんだから。でも、もったいないよな。颯真、運動神経バツグンなのにどこの部にも入ってないなんて」
クラスメイトの言葉に颯真は苦笑いを 浮かべた。
決して言葉には出来ないが、今の颯真には部活よりも優先したいものがあるのだ。
「じゃ、ごめん。また誘ってくれよ」
「おお!また明日な颯真!」
学校から家に向かう足取りは軽い。交通手段は徒歩。時間は20分。なるべく公共交通機関を使わずに家から徒歩か自転車で通える高校を選んだのは少しでも家に近い方がよかったから。
その帰り道の事だ。颯真が何かの視線に気づき、そちらを見ると「人間ではない何か」が今にも襲いかかりそうな形相で彼を見ていた。
《オマエ。ウマそうな力を持ってるじゃないか。喰いたいなぁ、オレ、オマエを喰いたいんだよ。なぁ喰わせてくれよ〜》
「......」
この恐ろしい声は颯真にしか聞こえない。だが、聞こえている颯真は怖がる事なく顔色も変えずに「それ」いわゆるバケモノを見つめ返す。
そのうち突然「......ヒィ!!」とバケモノが悲鳴をあげた。自分を見つめ返してくる颯真の目にチリっとある色が現れたからだ。
《お、オマエ......その色...!バカな!アイツらは昔に滅んだハズ......》
それを最後に、バケモノの声は途絶え、跡形もなく消え去った。彼には普通の人間には見えない「人ならざるモノ」が見えており、今のように襲われる事も多々あるワケだ。
そして颯真は何事もなかったかのように再び歩き出した。
20分で家に到着。そこはかなり広い敷地で建物には「
まず、医院の裏手に回り、診察室の窓が開いているので診察中でないのを確認してから、そこから「ただいま、
「あ、颯真くん。おかえりなさい」と返したのは白衣を着た若い女性だった。長い髪を一つに結んでおり、颯真が誕生日にプレゼントした髪飾りをつけてくれていた。
彼女は
次に向かったのは併設されているカフェ。ドアを開けるとカランカランという来客お知らせの音が店内に響き渡る。中に入った颯真はお客たちに「いらっしゃいませ」と挨拶していく。皆、病院での診察待ちの患者だったり一般の人だったりと様々。それにほとんどが颯真の事を知ってるので挨拶すれば「あら、颯真くん」や「おかえりなさい」と返してくれる。それから皿洗いをしている青年の元に向かった。
「ただいま叔父さん」
「おかえり颯真」
青年は
「おかえり颯真」
「裏山から帰ってきたら手伝うね」
「ああ。行っておいで」
春空から見送られた颯真はスタッフルームにリュックを置くと再び外に出た。
裏山というのは医院やカフェの裏側奥にある低山の事。颯真はそこをせっせと登り始める。頂上へ向かう中、季節が春なのであらゆる花々が咲き誇り颯真の目を楽しませる。桜はすっかり葉桜になっていた。
頂上にたどり着くと小さな部屋が姿を現す。そこは全体がガラスに覆われており、中の様子は見えない仕組みになっている。
部屋のドアのカギを開け中に入ると、キレイな花たちに囲まれた中心部にガラスで出来た棺が置かれていた。
しかも、この棺触るとヒンヤリと氷のように冷たいのだ。
そんな棺の中には、黒いワンピースを纏ったひとりの少女が横たわって眠っていた。
見た目からして10代後半......颯真と同じくらいか。黒い髪は長く、腕の半分くらいまであった。
颯真は迷わず棺に近寄ると中の少女に話しかけた。
「ただいま。母さん」と。
そう。棺の少女は正真正銘、颯真の母親だ。名は
彼女はまだ17歳という身空で颯真を生んだのだが、とある理由で出産から数日後に昏睡状態に陥った。
そして、17年経つ現在も冷凍保存され、棺の中で変わらぬ姿のまま眠り続けているのだ。
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