男子高校生を集団TS異世界転生させた話。

あるふぁせんとーり

第1話 こんにちは、女神です。

 こんにちは、女神です。人間で言うとアラサーくらいです。一応それなりに好き放題出来る立場ではあるんですけど、なんだか最近マンネリ気味です。いや、そろそろ新作ゲームも発表されますし、今季のアニメもかなり楽しみなんですけど、そういうことじゃないんです。なんというか、神らしさに欠けるというか。一昔前は人間ももっと生贄とか捧げてくれたりでお互いに干渉しやすかったんですが、今となってはそういうのも一苦労。無神論者の斜に構えた生意気な子供とかをさらってきて神パワーを見せてわからせるのも精々週に1、2回といったところで、人間の信仰心自体がここしばらくでだいぶ薄まってきてる感じです。

 しかし、そんな中でも人間に干渉したくなっちゃうのが神の性。「なんか面白そうなのないかな〜」と探してみると、丁度いいのを見つけました。下校中の男子高校生。それも9人くらいの結構な団体です。しかもお誂え向きに近くには配送センターがあり、良い感じのトラックが並んでました。完璧って感じです。

 私は「えい」と神パワーでトラックを動かし、彼らのもとに突っ込ませました。どーん、と派手に吹っ飛びました。


◇◇◇


「……ん……?」


 私立深山学園高等部3年、生徒会長音無おとなし日名人ひなとは真っ白な会議室で目を覚ました。いつものようにいつものメンバーで下校していた時、唐突に突っ込んできた無人のトラック。意識はそこで止まっていた。辺りを見回すと、デカ女、人形娘、機械娘とそれなりに性癖の多様性に配慮されたラインナップの美少女、大体8人が床に倒れている。さては、と彼が手元を見ると、細く白い指。なるほど、とさらに音無が視線を下ろすと目に入る真っ白なTシャツの中のたわわ。もにゅんもにゅんと手のひらに余るほどのやわらかい感覚を味わった後、彼はペシペシと倒れている少女たちを叩き起こした。それと同時に、がちゃっ、と会議室の扉が開いた。


「あ、おはようございます!」


 入ってきたのは、一般的なスーツを纏った20代半ばに見える黒髪ロングの女性。プリントの束を抱えた彼女は会議室の前のホワイトボードの前に立つと、音無達に席に着くように促した。そして9人が席に着くと、彼女はプリントを回し、そして口を開いた。


「皆さん初めまして、女神です!」

「……?」


 「何いってんだこいつ」と言わんばかりに注がれる視線。彼女は何も言ってないのに「まあまあ、そんなこと言わなくてもいいじゃないですか」と宥めにかかった。


「そんなことより本題ですよ本題」

「本題?」


 眼鏡を掛けた少女が聞き返すと、自称女神は「そうです!」とぴしっと指差した。


「突然ですが、皆さんには異世界転生してもらうことになりました!」

「?!」

「いいですねえ、その何も分かってない感じの顔。理想の反応です」

「待ってくれ」


 「経緯を聞かせてほしい」と手を挙げて立ち上がったのは、180は優に越しているであろうデカ女。胸も太ももも身長も筋肉もヘビー級といったところ。自称女神はそれに気が付くと「あ、一応名前とか、所属とか名乗ってからお願いします。私神なので」とお役所仕事的仕草で言う。彼女は少し躊躇った後に口を開いた。


引野ひきの紫音しおん。深山高校3年」

「待てお前引野か?!」


 彼女の、引野の発言に皆が目を見張る中、がたっ、と音を立てて立ち上がったのは艶のある、いわゆる濡羽色の髪をポニーテールにまとめた凛々しい美人。


「まさかお前……」

「男野!男野だんの桜汰おうただ私は!」

「ってことは……!」


 9人が互いの顔を見合わせる。ボクっ娘、和風美人、ダウナーギャル、アンドロイド娘、デカ女、ロリ、球体関節人形、メガネっ娘、モンスター娘。その誰もが唖然として、その目を見張っていた。

 ダウナーギャルが「オレ時雨しぐれ事助ことすけー」と手を挙げて答え、アンドロイド娘が「軍畑いくさばた朝海あさみです」と控えめに言い、ロリが「藁井わらいかい……」と少し申し訳無さそうに、球体関節人形が「私舞空まいそららいー!」とでかい声で、メガネっ娘が「沙上さじょう雨葉あめは」と頬杖を突きながら、モンスター娘が「芳賀はが教太朗きょうたろうです!」と元気よく、そして最後に音無はボクっ娘美人の姿で「音無おとなし日名人ひなとだ」と微笑む。


「これって……」

「そういうことだろうね」

「皆最後の記憶は?」

「突っ込んできたトラックー!」

「右に同じく」

「左に同じく」

「正面に」

「そろそろやかましいな」


 そして音無はため息を吐くと目の前の自称女神に尋ねた。


「要は全員まとめて異世界転生?」

「そういうこと!」

「……」


 生徒会副会長を務める沙上は頭を抱えた。これだから神は身勝手なんだと先人が記してきた数々の前例を思い出しながら眼鏡を外す彼、いや彼女。その隣でふと思い立った生徒会会計時雨は女神に向けて口を開いた。


「ちなみに女神様神話体系は?」

「神話体系?えーっとね、人間のやつで言うと……」


 「ちょっと恥ずかしいからこっち来て」と時雨に向けて手招きする彼女。そして席を立ち上がってのこのこと近寄ってきた彼女に女神は「ゴニョゴニョ」と耳打ちした。「嘘だろお前?!」と時雨は飛び退いた。


「どうした時雨?!」

「おいこいつ名状し難いやつだぞ?!」

「マジ?!」

「いあいあ?!」

「おいサイコロ持って来い!」

「1D61D6!」

「取り敢えずSAN値チェックしなくていいですから」


 「ちゃんと説明するので席着いて下さい」と女神は手をひらひらさせながら少女達を座らせる。そして彼女はホワイトボードをスクリーン代わりにして「異世界転生のご案内」と書かれたスライドを映した。


「取り敢えず、皆さんには異世界転生してもらいます」

「状況的には集団TS異世界転生か」

「盛りすぎだろ」

「世界設定とかは配ったプリントを参考にして下さい」


 そう言われてプリントを見ると、確かに世界の情報的なものがそこにまとめられていた。約19世紀で蒸気機関は開発されたばかり、奴隷制なし、冒険者ギルドあり、魔法ありなどなど……。「テンプレだね」と音無が呟くと「そんな感じです!」と女神が指を差した。


「ところでこの「インシデント確率:特大」というのは何だ?」

「いい質問ですね!簡単に言えば「事件に巻き込まれる確率アップ」です。色々起こりやすくなります。そっちの方が色々と楽しいですし!」

「かなり邪神だなこれ」

「そりゃ名状し難いご出身にもなるわ」


 そして次のプリントを見るように促す女神。その指示に従って彼女達が次のページを開くと、そこには異世界転生のお決まり、「容姿と固有スキル」と書かれていた。


「容姿の決め方……?」

「はい!今回は皆さんの趣味に合わせてみました」


 「皆さんTSそういうの好きですよね?」と女神は尋ねる。「確かに好きだが……!」と彼女達は頭を抱えた。ボクっ娘やらギャル、アンドロイド娘や機械娘という癖が流出した彼女らは「ほら、これ」と女神が持って来た姿見鏡で現在の自分の、女神が神パワーで作り上げた各人のドストライクの容姿を把握すると、かあっと顔を赤くした。ただ一人、音無を除いて。


「おい音無、随分と余裕だな?」

「ああ。なんてったって今は勃つ物が無いからな」

「その見た目でそれを言うな」

「これは音無」


 「いやあ、いい反応〜」と彼女らを眺めていた女神だったが、「あ、そうだそうだった」とまた何枚かのプリントを取り出すと音無達へ配り始めた。


「なにこれ?」

「固有スキルの説明書です。強いので気をつけて下さい」


 そして彼女らが自分の能力について読み込む中、ふと時計を見た女神は「あ、そろそろじゃん」と小さく呟き、そして「皆さんそろそろ準備をー!」と声を掛けた。


「もう、転生の時間ですから!」


 その瞬間、会議室の床が抜け、音無達(女神も含む)はフリーフォールへ投げ出された。

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