★1★ アルフレッドという女好き
所属していたパーティーを後見人である貴族による理不尽な命令により追い出された俺は、ギルドに置かれていた不思議な本と出会いなぜかパーティーを組むことになりました。
一体何を言っているのかわからないだろうが落ちつけ。
俺も何を言っているのか全くわからないから。
ホントどうしてこんなことになったんだ?
この喋る本いわく、賢者というあらゆる叡智を網羅した存在らしいがなんだか疑わしい。
まあ、いざとなったらこいつを囮にしてモンスターと戦うことにしよう。
「はい、アルフレッドさん。冒険者ライセンスができましたよー」
〈お、思っていたよりも出来上がりが早いもんじゃな〉
「こう見えても仕事は早いので。あ、一応このライセンスについて説明させていただきますね」
〈よろしく頼む、レディ〉
「まず、ライセンスにはランクがあります。これは星の数で表示されまして、多ければ多いほど様々な権限が与えられていきます」
〈ほぉ。例えばどんな権限じゃ?〉
「そうですね、直接役に立つものでいえば【貴族御用達の武具を買えるようになる】ですね。通常の商店では並ばない武器や防具を手に入れてダンジョンに挑めるようになります」
〈なるほど、それはなかなかにいい権限じゃな〉
「あとはそうですね。ランクを上げれば貴族から声をかけられたり、場合によっては取引が行えたり専属契約を結べたりします。中にはその繋がりを利用して富を築く人や結婚して貴族の仲間入りする冒険者もいますよ」
〈それは夢があふれるもんじゃな〉
「ま、それも全部ランクを上げたらの話ですね。アルフレッドさんはまだランク0なので、頑張って上げてください」
〈ふむ。してどうやってランクを上げるんじゃ?〉
「ダンジョンを突き進んでください。そうすればランクは上がります」
〈それだけか?〉
「それだけです」
アルフレッドが首を傾げている。
いや、首はないがそんな様子を見せていた。
まあ、理解できるようで理解できないよな。
でもこのダンジョンはそういう仕組みだ。
実際にダンジョンへ入ればわかることだが、一応補足してやろう。
「まあ、ランクを上げるだけなら誰でもできるさ。ただ、それだけだと俺達は食っていけない。だから倒したモンスターの素材や採取した植物、あとは鉱石やらいろんなところから手に入れたアイテムを売って換金するって項目がある」
〈そうしないと金は手に入らんからな〉
「ここにあるダンジョン【ステラの星架塔】は階層を進めばアイテムのレア度が上がるんだ。まあ、極稀にとんでもないアイテムが序盤で手に入ったりすることもあるけど、そんなの奇跡に等しい確率だ。だから俺達は裕福になるためにさらに階層を上げて踏み入れていく」
〈ほうほう。つまり、しっかりとした実力を測るためにも換金額などでなく進んだ階層でランクが上がるということか〉
「そういうこと。ま、これでも偶然要素は消えないけど、大体は実力として見られるんだよ。進めば進んだだけモンスターは強くなるし、理不尽なトラップが増えるしな」
〈サラッと嫌な情報を言ってくれるもんじゃ〉
さて、補足はこのくらいにしておこう。
アルフレッドのライセンスができたし、そろそろダンジョンへ向かうための準備を進めたいな。
さすがに俺とアルフレッドだけじゃ万が一のことが起きた時に不安だ。
〈大体のことはわかった。よし、それじゃあさっそくダンジョンへ行こう〉
「いや待て、まだ準備が――」
〈何を言っておる! 善は急げという言葉を知らんのか!? そら、すぐに行くぞ!〉
アルフレッドが俺の制止を聞かずにどこかへ行こうとする。
俺は思わずアルフレッドを止めようとするが、ものすごい力で身体ごと引っ張られていく。
「待てって言ってるだろ! ダンジョンの場所を知ってるのか? つーか、その身体のどこからそんな力が出てくるんだよ!」
〈ええい、臆病風に吹かれている場合じゃないぞシキよ! もしかしたらかわいい女の子が助けを求めて泣いているかもしれないじゃろ!〉
「んなことあるか! とにかく俺の言うことを聞け!!!」
〈ワシの邪魔をするな! ええい、こうなったらフルパワーじゃ!!!〉
アルフレッドを抑えていた俺の身体が浮く。
そして一気に加速し、ギルドから俺達は飛び出した。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
それはもうとんでもないスピードだ。
もうどんな景色が広がっているのかわからないほどのスピードである。
表現するならカジノで回転するスロット画面が目の前で広がっている感じだよ。
〈ハッハッハッ! 驚いたか。こう見えてもワシはスピードキングと恐れられた男なのじゃ!〉
「わかった! わかったから止まってくれぇぇぇぇぇ!!!」
俺がそう願うとアルフレッドは急ブレーキをかけた。
当然、俺の身体は対応できず放り出され転がると何かの壁に背中を打ち付け、ようやく止まると目の前にダンジョンがあった。
「いってぇー」
ダンジョンに入る前からひどい目にあったんだけど。
いや、それよりもアルフレッドはどこに行ったんだ?
あいつどうして急ブレーキをかけたんだよ。
あいつのせいで背中がメチャクチャ痛い。
〈どうしたんだい、レディ? そんなに泣いては美しい顔が台無しじゃぞ〉
「ほ、本? いえ、この際なんでもいいわ。その、実は、うぅっ」
〈涙が抑えられないか。なら仕方ない。さあ、ワシの胸に飛び込むがよい! その悲しみを全て受け止めてやろう!!!〉
何、口説いているんだあいつは!
というかダンジョンの前に女性が本当にいたよ。
とんでもない直感だよ、あいつ。逆に怖いんだけど!
「その、私の子どもが間違ってダンジョンの中に入ってしまって。助けにいきたいんですが冒険者じゃないから入れなくて。頼みたくてもお金がなくて、どうしたらいいかわからなくて――」
〈なんと! それは大変なことじゃ! じゃが安心しろ。その問題、ワシらが解決してやろう!〉
「ほ、ホントですか!? あ、でもお金が」
〈いらん! そうじゃな、もらうとしたらあなたの笑顔をもらおう。ついでに迷い込んだ子の笑顔もいただこうか〉
おいおいおーい!
何勝手に話を進めているんだよ!
というか、報酬なしで勝手にクエスト引き受けるなよ!
「あ、ありがとうございます……! あ、あの、神様」
〈ワシは神ではない。アルフレッドという名前だ。そうじゃな、ここだと冷えるじゃろう。ワシらがあなたの子を見つけたら連れていくから家で待っててくれ〉
「あ、あ、あ、ありがとうございます!!!」
あ、ちょっと待ってくれ。
俺は引き受けるって一言も言ってないから!
ちょっと帰らないで!
ああ、待ってどこかの誰かのお母さーん!
〈いいことをした。よし、ではさっそくダンジョンに入るぞ、シキよ!〉
「お前なぁ……」
俺はため息を吐く。
まさか思いもしないクエストをやらなきゃいけなくなるとは。
ま、渋っても仕方ないか。
どのみち、アルフレッドがいなくても引き受けていただろうし。
こうして俺はアルフレッドと共にダンジョンでどこかの誰かの子を探すことになる。
とうにか無事でいて欲しい、とその子が生きていることを願いつつ俺達はダンジョンへ突入したのだった。
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