はじめての仲間(2)

「…………!」


 オレは異世界の第一村人……いや第一スライムに出会った。

 だが、ここからどうしよう。体が硬直して何も言えない。


 危ないやつだったらどうしよう……。

 いや、まてよ?


 オレは黒衣の神に「調教」というチートスキルをもらってる。

 眼の前のスライムは……多分モンスターだ。


 たぶんだけど、モンスターなら調教の効果があるんじゃないか?

 ここは神からもらった「調教」スキルに賭けてみよう。


「えーっと、スライム君……で、いいのかな? ちょっとお茶でもしない?」


 何言ってるんだオレは。ナンパか?。

 いや。実際モンスター相手の調教ってナンパみたいなもんか?


 ちなみにこれが俺の人生初めてのナンパだ。   

 初ナンパの相手がスライムって、ちょっと悲しすぎん?

 あ、ちょっと泣けてきた。


「………」


 スライムはじっとしている。こちらの様子をうかがっているのか?

 ふむ……敵意があるようには見えない。もうすこし続けてみよう。


「キミの力を貸してくれないか? えっと……もちろんゴハンは出すよ!」


 オレはスライムに向かって優しく語りかけ、ギブ&テイクを提案する。

 そうだ、スライムの前に食いかけのカロリー◯イトを置いてみよう。

 今出せる対価はこれだけだ。さて、どうだ……?


「……お、食べた」


 すこしの間をおき、スライムは体にパサパサのクッキーを取り込んだ。

 カロリー◯イトはスライムの体の中でほどけ、すっと消えていく。

 ずいぶん勢いよく食べたけど、スライムのお気に召したのだろうか?


「どうかな? ウチで働いてみない?」


<ぷるんっ!>


 コーヒーゼリーの身じろぎはうなずきにも見える。


「YESってこと?」


<ぷるん!>


 オレがスライムに聞き直すと、さっきとまったく同じジェスチャーをした。

 ひょっとするとコイツ、オレの言葉が理解できるのか?


「えーっと……ウチで働く、おっけー?」


<はーたーたーくーるー?>


「えっ、しゃべれるの?!」


<しゃーべーるるー!>


 体の一部をフイゴのように動かして、コーヒーゼリーが喋りだした。

 いやマジか。マジなのか。

 どうやらこのスライム、発声器官をつくることが出来るらしい。


 異世界のスライムは性能高ぇな。

 いや、元の世界にスライムなんかいないんだけどさ。


「働く、キミ、はたらく」


<はーたーらーくー!>


 喋り方にちょっと舌っ足らずな感じがある。

 だが、オレの言葉に対する反応は速い。

 このスライム、かなり頭が良いな? 人間の子供くらいあるかも。


「えっと、オレ家がほしいんだよね。だから家を作るのを手伝ってほしいんだ」


<いえ、つくるるー?>


「そうそう。石を積んだり、木を組んだり。わかる?」


<いっぱい、やった、つくたー>


「マジ? あ、スライムのお家じゃなくて、人間のおうち、わかる?」


<わかるる? かも? おおきさー・てけり・り・ちいさい>


 うーむ、マジか。

 このスライムの話を信じると、こいつは家を作ったことがあるらしい。


「……ふむ」


 スライムの会話の内容で、すこしひらめいたことがある。

 こいつの言う「てけり・り」だが、これは異世界の種族のことではないか?

 家という文脈で出てきて、それと比べるとオレは小さい。

 となると、異世界に存在するなんらかの種族と考えるのが妥当だ。


 恐らく「てけり・り」は前の主人じゃないかな?

 それならこのスライムが人馴れしているのにも納得がいく。

 以前は誰かに飼われてたんだろう。


「じゃあ、オレの家を作って欲しいんだけど、できる?」


<できるるー! やるるー!>


 コーヒーゼリーは草の上を走る。

 どこまで行くのかと思いきや、草原にある石の前でピタッと止まった。


<いし、わるるー!>


「お、おぉぉぉぉ?!」


 スライムは体の一部を伸ばすと、それをさらに薄くカミソリのようにした。

 そしてその黒刃を、草原に転がっていた石に振り下ろす。

 すると石塊は、ケーキでも切り分けるようにスパスパと割断されていった。


「すげぇ……」


 人類の使う機械でもここまでスパスパ切れるだろうか。

 いったいどうやってるんだ?


「……なるほど、そういう仕組みか」


 オレはスライムが振るう刃の表面を見て、その原理を把握した。

 スライムがカミソリ状にした刃。その上では光が前から後ろに流れている。

 光はスライムの粘液が反射したもの。

 つまり、スライムがつくった刃は、チェンソーのように動いているのだ。


 スライムの体はプルプルしてて柔らかい。

 だから硬いものを切るには、ウォータージェットのように圧力がいる。


 しかし、吹き出してしまえばスライムの体がすぐになくなってしまう。

 だから「循環」させる必要がある。その仕組がチェンソーなのだ。

 

 ウォーターカッターとチェンソー。

 それぞれの特性をあわせてスライムは石を切り出しているのだ。


 あのー、この異世界、スライムの性能高すぎない?

 あきらかに雑魚モンスターの挙動じゃないぞ……。


<できた、たー!>


「おー、おつかれさま! パチパチ!!」


 スライムはあっという間にレンガ状に石を切り出して、家の土台を組み上げた。

 あまりの手際にオレは拍手せずにはいられなかった。


<え、へん!>


 称賛を浴びるコーヒーゼリーは、体を反らし、どことなく誇らしげだ。

 ちょっと可愛く見えてきた。


「次は家の壁をつくろう。えーっと……」


 そういえばスライムの名前をまだ決めてなかった。

 うーん……。黒、クロ、そのまますぎて犬っぽいな。


 ドイツ語だとシュバルツ。かっこよすぎる。

 フランス語だとノワールだっけ? ふむ……。


「ノワ、よろしくなノワ。」


<のわー?>


「うん、お前の名前だ」


<なまえ、わかった――ノワ!>


「俺の名前は九東。くとう、わかる?」


<くとう! ノワ、はたらく!>


 スライムは即座にオレと自分の名前を認識した。

 このスライム、知能だけでなく高度な自我もあるようだ。


 たしかにすごい、すごいんだけど……。

 オレに「調教」スキルが無かったらと思うと、ちょっと怖いな。

 雑に扱ったら、フツーに反逆とかされるんじゃ?

 うん、心に留めておこう。


「よし、つぎは木を切りに行こう。家の素材にもなるし、まきにもつかうからなー」


<わかた、きーきるるー!>


 オレはそういって森に向かって歩みを進める。

 するとノワはプルンプルンと飛び跳ね、機嫌よさそうについてきた。


 うむ、いい感じだ。

 人と犬の絆は、その9割が散歩によって作られる。

 ま、散歩してるのはスライムなんだけど。





※作者コメント※

ショなんとかさんを目撃してるのにSANチェック回避とか

これ「ナニカサレタ」してないですかねぇ…


次回、異世界側の勢力視点です。

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