はじめての仲間(1)

「これって……夢じゃないのか?」


 モノリスが発した実体のある音。

 それが俺の体を通り過ぎ、苦痛が全身を貫いた時にわかった。

 これは夢なんかじゃない。

 どうやらオレはマジで異世界に転生したらしい。


「いや、マジかよ……」


 異世界に転生。ラノベやアニメで腐るほど見た展開だ。

 しかし、現実に自分の身に起きるとホラーでしかない。


 異世界に一人放り出されてどうしろと?

 砂漠のど真ん中に置き去りにされたのと対して変わらない。


 こうなると話が変わってくる。

 サバイバルに頭を切り変えないと……。


 ひとまず……このモノリスのことは置いておこう。

 さっきの怪音にもう一度襲われたら、正気を保てそうにない。


「さて、まず何から手を付けるかな」


 俺がこれまで遊んできた町や村を作るゲーム――

 コロニー経営シミュレーションゲーム(SLG)ではどうだったか。


 まず、コロニー経営SLGってのは、未開の惑星や荒野に人間(変わり種でビーバーやネズミなんかもいるが)の居住地を作って管理するゲームだ。


 プレイヤーであるオレは、リーダーとしてコロニーを発展させていく。

 限られた資源を集め、食料や住居を住民に提供するために農場や家を建てる。

 さらに住民が健康で幸せに暮らせるように、医療施設や娯楽施設も建てる。


 時にはコロニーを自然災害や敵の襲撃が襲う。

 なので、ゆくゆくは壁や監視塔なんかの防衛施設もつくることになるだろう。


 こうやって考えると、やることが山積みだな。


 だけど、どのゲームでも最初にやることは決まってるものだ。

 大抵は倉庫と寝床を作るのが最優先だったな。


「倉庫は……宝箱でいいや。今作るべきは寝床だな」


 宝箱をそのまま一時的な倉庫として使おう。

 とくに今ある食料が全てなので、これは安全に保管しなければ。


 地べたに食べ物を置くわけにはいかない。虫とか野生動物の食害を受けるのはもちろん、動物に寄って来られたら追い払うすべがない。


 もっともカロリーメイトを好む動物がいるかわからないが。

 いや異世界だし、いてもおかしくないか?


「宝箱は~っと。おし、しばらくはお前に預かってもらうぜ」


 野原で佇んでいた宝箱君に荷物を預ける。

 無駄に頑丈そうだし、ひとまず彼に任せておけば安心だろう。


「さて、お次は寝床だよなぁ……」


 最低限の寝具として寝袋はある。

 だけど、屋根もない場所で野宿は危険すぎる。


 肉食の野生動物に襲われたら?

 間違いなく死ぬ。


 雨でも降って風邪でもひいたら?

 ここには薬も何も無い。

 最悪の場合、風邪をこじらせて肺炎……そのまま死ぬかも。


 野宿は死亡フラグが立ちまくる。

 どうにかして生存フラグに変えなければ。


「家かぁ……家、やっぱいるよなぁ」


 しかし、掘っ立て小屋でも家を建てるには建材が必要だ。

 土台に石を切り出し、壁と屋根のために木を切って、草を刈らないと。


 オレにそんな事ができるとは思えない。

 現代人のオレにできることは、草むしりが関の山だ。


「なぁ、お前さ……誰か手伝ってくれるヤツ知らない?」


「…………。」


 八方塞がりになったオレは、なんとなくモノリスに話しかけた。

 だが、石のピラミッドが答えるはずもない。

 モノリスはじっと草原の上に佇み、重苦しく沈黙するだけだった。


<ぐぅ>


 そうこうしてると、腹が減ってきた。

 解決すべきことは何も解決してないが腹だけは減る。無慈悲だ。


「飯……食うか」


 オレは宝箱の中にしまったカロリー◯イトを食べることにした。

 まったく関係ないけど、これ食べるの何年ぶりだろ。

 お菓子ってわけでもないから、食べる機会がほとんどないんだよね。


 パッケージをむしりとり、袋を開けて中身を取り出す。

 普段ならゴミになるが、文明の無いこの場所ではゴミも貴重な資源だ。

 できるだけ袋として活用出来るように注意深く開けて頂いた。

 

「パッサパサだよパッサパサ~!」


 数年ぶりに食べたカロリー◯イトは、案の定パサパサだった。

 きわめて食べ物によく似たフルーツ味の固形物を水筒の水で流し込んだ。


「はぁ、まいったなぁ……」


 石の上に腰掛けたオレは、嘆きとも諦めともつかない息を吐く。

 丘陵をなでる風を浴び、耳が風を切るぼうぼうという音を聞いた。


 こうして自然の中に身を任せるのは子供のとき以来かもしれない。


 大人になってから、オレはいつも人工物の中にいた。

 電車という鉄の板に囲まれた空間。

 あるいはセメントとコンクリートで四方を囲まれた建物の中。

 それが「世界」だった。


 まったく、どちらが「異世界」なのか。

 そんなことを考えながらオレは風の音を聞いていた。


「…………?」


 ふと、空気の中に虫が鳴くような奇妙な声が聞こえてきた。


<テケリ・リ……テケリ・リ……>


「コオロギ? それにしちゃ妙だな」


 虫の鳴き声というよりは、声のようにも思えた。

 それはどこか名状しがたい音程で、宇宙的なリズムを刻んでいる。


 オレは周囲を見回すために立ち上がった。

 ……草むらの中に何かいる。


「なんだあれ?」


 草の中で何かがぷるぷると震えている。

 その存在をなんと形容したらいいのだろう。

 大きさは大型犬くらい。

 色は黒、いや――体の中に泡みたいなのがあって色んな色で光っている。


 一言で説明すると、うーん……。

 カラフルなラムネが浮いてるコーヒーゼリーって感じか?


「もしかして……スライム?」


 俺の声に答えるように、スライムはぷるんと身震いした。




※作者コメント※

あかん(あかん)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る