嗚呼! おっさん。

崔 梨遙(再)

1話完結:1000字

 30代の後半、週末の夜、気分転換に繁華街で弾き語りをしていたら、目の前に50代か60代のおっさんが座った。こんなおっさんが、僕等世代の曲に興味があるのだろうか? 1曲歌い終わると、


「兄ちゃん、ちょっと俺の話を聞いてくれや」


と、話し相手にされた。名刺交換をしたら、おっさんはビルを3つ持ってるお金持ちだった。だが、そんなことは関係無い。おっさんの話はものすごく退屈だった。僕は早く帰りたくて仕方が無かった。


「俺、結婚したいねん」

「したらいいじゃないですか? お金持ちやから相手には困らないでしょ」

「結婚するなら処女がええねん」

「今時、処女なんて中学生とか高校生しかいないでしょ」

「あ、あそこに中学生か高校生かわからん女の子達が5、6人おる!」


 おっさんは、女の子達に突撃。


「なあなあ、君達は処女か? 食事ご馳走したるわ、ついてこいや!」

「何? このおっさん」

「キモイんやけど」


 騒ぎになったので、僕はギターをしまって帰った。



 翌週、またあのおっさんが現れた。


「俺、運転手と秘書がほしいねんけど、どうしたらええかな?」

「求人広告でも出したらいいですやん」

「求人広告を出したことが無いからわからへん」


 僕は、求人広告屋の知人に電話してアポイントのセッティングをした。


 数日後、知人から電話があった。


「崔-! あのおっさん、愛人が欲しいって言ってたぞ!」

「え! 運転手と秘書がほしいって言ってましたよ」

「そうや、愛人の運転手と秘書が欲しかったんや」

「そうでしたか、すみませーん」



 それから、僕はおっさんに会いたくないので路上に出なくなった。すると、鬼のように着信があった。そして、ボリュームオーバーになっていた留守電。留守電の内容をよく聞いてみると、


「電話出ろや!」

「なんで電話に出えへんねん!」


と、何故かお怒りモードだった。だが、最後の留守電は、


「崔さーん! 電話に出てよ-! 寂しいよ-!」


泣き声になっていた。勿論、折り返しの電話などしない。留守電も気にしない。だが、仕事中、マナーモードにしているものの、ブー、ブー、とうるさい。アポイント中など、お客さんに、


「出てくださっていいですよ」


と、気を遣われてしまう。


「いえ、これはストーカーからの着信ですので」

「は?」



 嗚呼! おっさん。やってくれるね、嗚呼! おっさん。







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