第3話 スイーツ女子の正体は・・・

 良太のバカバカバカバカ!


 追い越しざまに、ちょっとあの子の顔が見えた。


 超~~~~~かわいいじゃない!!

 即デビューしてもおかしくないぐらいのアイドルオーラ。


 デレデレしちゃって、良太のバカ! 


 ドシドシと足を踏み鳴らしながら教室に入った。


「美惑ーーー!! おはよう」

「美惑!」

「黒羽ちゃん」

「おはよー」


 わさわさとクラスメイトが集まってきて、あっという間に取り囲まれた。


「うわ、なになに?」


「動画見たよー」

「ダンスやば」

「かわいかったー」

「ねぇねぇ踊って、歌って」

「生で見たい」

「この学校来てよかったー」


 矢継ぎ早に賞賛の声が降りかかる。


「あ、あはははー、ありがとありがと。もうチャイム鳴っちゃうよ。席に戻ろう、ね、ね」


 リーーーーンゴーーーン。


「ほら、ホームルーム始まるよ」


 ガラガラっと扉が開いて、担任が入って来た。

 その時。

 RRRRRR……

 スマホが着信を知らせる。

 スクリーンには『社長』の文字。


「げ! 社長」


「ん? なんだ? ケータイは電源を切るか、マナーモードに……、ん? あ、黒羽か」


「す、すいません」


「うん。いい、いい。出ていいぞー」

 学年主任であり、生徒指導の豪田先生は鬼のような赤い顔をくしゃりと崩した。


「すいませーん」


 スマホを取り、腰をかがめて廊下に出た。

「はい、もしもし?」


『美惑!! あんたまた忘れてるでしょ! 今日からポプチャよ! 今日からなんだから。10時までに各SNS更新するように! わかったわね!』


「あ、そうだった。朝バタバタで忘れてた」


『本当に忘れっぽいんだから。困った子ねぇ。デビュー曲『フェイクラブ』のリリースに向けた大事な戦いなんだから、しっかりしてちょうだい。もうみんな更新終わってるんだから、あんただけよ』


「すいません、今すぐ更新します」


 ポプチャというのは、ポッピングチャレンジの略だ。

 年内に、シングルCD売り上げ3000枚!

 ダウンロード数2000!

 ハローチューブ及び各動画サイト公式チャンネル、登録者数50万人。

 公式個人SNS、メンバーそれぞれフォロワー10万人。


 これが私達に課された目標、つまりポッピングチャレンジである。


 関係者からすればやや無謀な数字に思えるかもしれないが、サンタプロからデビューするアイドルは、これが普通。

 今後、お仕事がもらえるかどうかを分けるボーダーと言っていい。


 マネージャーよりも社長が張り切って、きりきり舞いしてるのもサンタプロでは珍しい光景なんだそう。


 それだけ目をかけてもらってるって事で!


「ふー」

 電話を切って、その場に座り込んだ。


 えっと、先ずは、Nex。

 写真は昨日、いろいろ準備しといたんだ。

 オーバーサイズの黒いTシャツ一枚で、顔を隠すようにスマホを構えた写真。


 デビューまで顔は極力出さない。

 あたしは、小悪魔担当、言い換えればセクシー担当なので、プライベートショットはできるだけセクシーに、ギリギリを攻める。

 アイドルと並行してグラビアのお仕事も貰えるように、と。


「ふ~んと、これにしよう」


 ギリギリ、下着が見えるか見えないかの後ろ姿。


 ん? あ!! もしかして、これがラッキースケベ?

 なんか違う気もするけど、まぁ、いっか。


「ハッシュタグをつけて……」


 #サンタプロ #ポッピングラブ #黒羽美惑 #アイドル

 本文は『おはよ~ん♥ ラッキースケベ』


 他のSNSには、同じ服で違うポーズの写真を乗せて、本文とハッシュタグをコピペ。


 これでよし!

 スマホをマナーモードにして――。


 教室に戻った時には、もうホームルームは終わっていた。


「おはよう」


 後ろからのテンション引くめな声に振り向くと、雨音だった。


「いたんだ? そう言えば後ろの席だったね」


「おいおい。思っててもそういう事はあんまり言わないんだぞ」


「ん?」


「ホームルームで先生がお前の話してた」


「へ? どんな?」


「黒羽美惑と同じ学校だとか、知ってるとか、友達だとか。そういうのをSNSに書いたり、軽はずみに他行の生徒に話したりするなって」


「へぇ、どして?」


「そりゃあ、学校にいろんな人が押し掛けてきたりしたら大変だからだろ」


「そっか。そんなに人気出るかな?」


「それは俺は知らんけど。お前も、目立たないように気を付けろよ」


「はーい」


「スマホ、鳴ってる」


 雨音は私の手に視線を向けた。

 スマホが無音で明るく点滅している。


「あ、ありがとう」


 いのりからのメッセージだ。


『りょう君に聞いてみたよ。

 今朝の子、1年生の村崎ことりって子らしい。

 今朝、廊下でぶつかっただけだって。

 体育祭の時に、りょう君を見かけて向こうはりょう君の事知ってたらしい。

 それに、割と近所に住んでるみたい。

 中学も同じ中学だったって。

 その時はお互いに知らない同士だったらしいけど。

 今朝、偶然、ばったり出会い、ぶつかったって事ね。


 調査の結果は以上よ。

 また後でね』


 ふふ~~~ん。

 偶然ばったりだなんて。


 恋に恋する女子が『運命!』だなんて勘違いしちゃうパターンじゃないかしら?


 これは、由々しき事態だわ。


 その時、再びスマホが点灯して、SNSの通知を知らせた。


『サンタプロ推し活部長さんがあなたをフォローしました』

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