あの日の誓い 三題噺/朝/影/視線

雨宮 徹

あの日の誓い

 競技かるた決勝戦。私の目の前には二十五枚の取り札が並んでいる。同じく相手陣にも。



「十五分後に競技開始とします」



 読み手が告げる。



 数ヶ月前までは考えられなかった。再びこの世界に戻ってくることは。




 あれは去年の冬だった。もともと病気がちだった母が亡くなった。「あなたが優勝するのを見れないのが残念だわ」「うん。でも次の大会は必ず優勝するから」。それが母と交わした最後の会話だった。


 母の死は私の心に影を落とした。しかし、いつまでも引きずっていては、母との誓いを果たすことは出来ない。私は猛特訓をした。すべては大会で優勝するために。





「十五分が経過しました。では、始めます」



 すべては一枚目で決まる。それが持論だった。



「朝ぼらけ――」



 「朝ぼらけ」から始まるのは二枚ある。私は次の言葉を待った。


「う」



 私は勢いよく取り札を弾く。



 一枚目を取れた。それにより心に余裕ができた。いける。今日こそ優勝してみせる。





 それからは私のペースで進むと、あっという間に決着がついた。私の勝ちで。



 優勝したからだろう、多くの視線を浴びているのを感じた。



 これで母との誓いを果たすことが出来た。もし、天国があるなら、母はこう思っているに違いない。「あなたは私の誇りだわ」と。

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あの日の誓い 三題噺/朝/影/視線 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993

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