~有美(ありみ)~

天川裕司

第1話 ~有美(ありみ)~

~有美(ありみ)~

 暗い元職場へ行くと、キッチン辺りで暗雲に巻かれながら、A、H、I、の三匹の雌豚が又鬱陶しく出て来て、無視したり、自分達が気に入った奴とだけ自分達の世界を作るといった小さなパラダイス(空間)の持ち方を見せたりして、あの頃を思い出すキッチンを通して本来は楽しい筈の職場が不要なあの三匹により、途端に詰まらなく思わされ、彼女等は我が物顔で居る。私はいつものようにこじんまりした介護を小さく広がる暗いフロアでして居たが、どうしてもあの三匹の存在を思う事と成り、あの三匹がそこから消えてくれないのを不思議に思うと同時に呪った。どうして俺は、女に嫌われるのか、女に調子をずっと合せる事が出来ないのか、キレるのか、いずれ上手く行かないのか、臆病なのか、等あれやこれや考え考えしながら、結局又彼女等を嫌って居る。どうやら時間は待ってはくれぬらしい、それならいっそ〝どうして?〟等面倒臭い事は考えずに精一杯嫌ってれば良いか、等と思いながらずっと仕事をして居る。

 夢を見てから時間が経ち、一日の苦労と感情の動きが在った為か私の頭に(心の内では)余計な雑念と「これはこうだ」と言う雑念が入り、貴重で純朴な「私自身」が又身を潜めて狂うのを感じながら、それでも何とか〝元〟まで辿り辿りして、面白可笑しく書く事に努めた。無論、結局は自分の為に、である。〝自分の為に〟と言って書いて見ても、余り自然は報いてくれぬらしく、唯今の私に書く物と時間と健康とその日の糧だけを与えてくれる様だ。

 私は有美と彼女の妹がバンパイアに成って仕舞って居る夢を見た。鶴崎有美とは、私の幼馴染の様にして育った小学校の頃からの旧友で在る。

 天気は晴れて居るのに私が見る範囲は途中から薄暗く成り、始め私は二階の自分の部屋に居て何をするでもなく呑気に過ごして居たのだが、階下で母親が母親の生協仲間や近所仲間(主婦)達と駄弁って居る声が聞こえ始めて、そっと耳を傾ける様に成る。俺は、子供の頃に戻って居る自分と纏わる出来事をビデオの中に見て居り、腕を組んで座って居る。空は一瞬光が輝き昼間の様に明るく成ったが又すぐに曇り始めたかの様に暗く成り、私は落ち着く。母に呼ばれた訳ではないが私は知らず内に階下に下りて、その仲間達に紛れ込んで何となく居た。その内、母とその仲間は〝外へ行こう〟と言い出したかの様に皆ざわつき始め、一人、又一人、と我が家の玄関からぽつぽつと漏れる様に出て行った。私が幼少の頃に飼って居たチビ(犬)は居なかった。唯、建物がざっくばらんと在り、しかし竹藪は在って、余計な家々は立ち並んで居ない様子だった。

 外へ出た途端に、丁度空手道場が在る正面から橙色、金色、の強い夕日が差して、私達はその夕日に真っ向から向かって歩いて行き、母と主婦仲間等は何か日頃の事をガヤガヤと静かに喋りながら坂を下って行き、私は始め大人しくピョンピョンと彼等の周りを跳ねながらお供をして行った。私の他に私と同年代位の子供が居たかどうかはわからない。段々家が遠ざかって行く中、唯、母やそういった主婦仲間達の後に付いて行く子供時代の懐かしい安心の様なものを覚えて居た事だけはやや鮮明に覚えて居る。

 家から暫く離れた後、緩やかな坂からそれよりも急な坂に掛った所で私はズボンを徐(おもむろ)に脱ぎフルチンに成って、周りの家々に小便を引っ掛けながら歩いて居た。まるで屋根から小便を掛ける様だった。俺は小便を振り撒きながら段々大人に成って行った。そして有美の家の近くに来た際、道から外れたのである。

 有美の体を抱きたく、Hをしたかった俺は、本懐を遂げる思いで有美の家に入り、もうお嫁に行って居ないのでは?等と瞬間思ったが、そこが夢の中だからかどんな形を以てしても必ず、居る、と確信して入った。昭和造りの家屋に見え、細い木製の廊下を一寸奥迄お忍びで歩いて行きながら、段々本懐を遂げさせてくれる有美が近くで寝て居るのを感じると俺は興奮した。歩いて行く途中で襖の扉を取っ払って内が見えて居る部屋を一時右横に在ったのを確認し、内を覗いて見ると有美があどけなく、端正に、静かに、可愛らしく寝て居るのを見、「これだ!」と仰け反る位にして喜ぶ俺は一旦その部屋を後にする様にして後退り、引き下がって又、廊下突き当り迄奥迄へとススス、と歩いて行く。旧い襖の様な絵柄の入った開き戸が在り、それを開けて入ると二部屋続きの一部に成って居り、妹が向かう方向の一つ奥の部屋、有美が右手前の部屋で一面に敷かれた布団の上で寝転がされて居る。妹はまるでおまけの様に居たが、固く真実の詰まったおまけで在る。

 映画「ハンニバル」(アンソニー・ホプキンス主演物)の様に手足を縛られて二人共寝かされて居り、有美は妹と違って、その手足に加え顔までピンクの布で巻かれ、覆われて居た。〝ヴ~ヴ~〟と小さく呻く様な声が有美から聞こえた様な気がしたが、〝どうせ寝息だろう〟と殆ど問題にはせず、私はその寝息も含めその有美から、狂わされる程の艶めかしく愛らしい女神の様な姿を見て、これから来る興奮を抑え付ける事が出来ない程に又興奮し始め(私は今又横に成りながらこれを書き始める)、有美の身体を含め有美の全てを自分の物にしたいと、躍起に成って居た。有美はずっと起きずに藻掻いて居る様で在り、俺の欲望を唯引き出すかの様に誘って居るだけだった。有美から畳一枚半分程離れた奥に寝て居た妹はまるで子供の頃のままの様に頬が赤く、子供が罹り易い病気か何かに罹って居る様にゴホゴホと咳き込んで居り、有美は昔に見た姿、日本人形の様に綺麗で可愛らしいままだった。その妹の顔を見た時俺は〝ああ、確か昔、こんな顔してたなぁ〟みたいに思い出し、二人を若いままで食べられる事を有り難く嬉しく思った。

 私があの主婦仲間の群れから離れて有美の家に行こうとしたのはほんの子供が思う程の出来心からであり、歩いて居る道と道の周りに立ち並ぶ環境とが私に、〝近くに有美の家が在るぞ、今行けば有美に会えるぞ、会ってお前の本懐を遂げられるぞ!〟と密かに教えてくれて、私は次の行動を決める事が出来た訳である。私がいつも現実に於いて何度もその前を車で通り過ぎて居る有美の家にその夢の内で行くと、外観(造り)は現実の物と殆ど一緒で在り、違うのは、本来なら無いその家の車庫に小さな岩囲いの露天風呂が在って、黄昏の中で有美の父である爺さんが皺くちゃの顔を更に皺くちゃにして熱い湯に堪能し、急に立ち上がって股間パンパンをして居た事位であった。その有美の父親である爺さんには私の姿が映って居ないのか、又私の侵入を許して居る姿勢が在るのか知らないが、私が間近でじっと爺さんを見て居ても、その爺さんは全く私に気付かなかった。私が〝夢の力〟でそうさせて居る事に私は後から気付き、成程として得意気に成って居た。私は、ゲーム「悪魔城ドラキュラ」で出て来るアイテムの時計を使う様にして、時を止めて有美の家の中へ入った。辺りが薄暗かった事を覚えて居る。

 俺は、寝ながらに〝コンコン、ゴホゴホ〟と頬を赤らめて苦しそうに眼を閉じて居る妹の顔と体を一瞥してから有美の傍へ行って腰を落ち着け、膝を突き、ゆっくりと有美の布で覆われて居る顔と同じくピンクの布で覆われた手足・体を眺め回して、少々、有美が同年代(同期)で在る事への同情も相俟って痛々しく可哀相に思えたが、やはり有美を自分の物にしたい、あわよくば心も奪ってお嫁さんにしたい、という思いで興奮が勝ち、じっくりと料理に取り掛かろうとして居た。有美の美しい顔に巻かれた布をゆっくり巻かれて居た逆の手順にぐるぐる解いて行く途中、始め悩ましく眉間に寄せられた眉、従順ながらに色っぽい目、そして白くピンと切り立ち何やら思いを寄せて来る鼻、薄暗い中でも判る有美持ち前の赤ら顔を作って居る愛らしい赤い頬、が出て来て、最後に、何か言いた気だが、薄く、どうにでもしてくれと投げ出して居る様な唇が現れ、私にとって一寸の無駄の無い有美のどうにかしてやりたい美顔が全て現れた。未だ有美は眠って居り、私に身の全てを委ねる様にして抵抗せず横たわって居る。私は堪らなく成って、その美しく可愛らしい有美の顔にキスをするのは後回しにし、先ずは手足等に巻かれて居る包帯の様な布を全て取り除いてやろうと素早く次の動作に移った。まるで有美は、私に全ての包帯を解かれるのを待って居る様に一瞬(私には)思えたが、私はもう半分理性を失くした様な状態で気が気でなく、裸にひん剥いてやろうと包帯解きに専念して居た。

 両手足に巻かれた包帯を全て解き終えた瞬間に有美は薄ら目を開け始め、生気の灯った瞳を以て私の方をじっと見詰めた後、ゆっくりだががばっと身を起こし、裸のままで私の肩から首辺りに手を回してギュッと抱き締めた。

 暫くそうして居る内に有美は次の行動に出た様子で、背中辺り迄回して居た両手を俺に気付かれない様にかモゾモゾし始め、急と言う訳ではなく当然(自然)の様にゆっくりと俺の首辺りの肉を喰おうとし始めた。夢の中故、俺はそこで万能の力を手に入れた様な帝王のステータスを持って居り、有美如きに食べられても別段痛くも痒くもなく肉は既に再生出来て困りはせぬが、一瞬でも痛みが伴うかも知れない事を恐れて躊躇する様に、一旦許可を出されて従おうとする有美を引き離して止め、愛らしい真面目な表情で俺を見詰める有美に俺は人差し指を立てて、「いいか、ここは俺の夢の世界だ。俺の思い一つでどうとでも変わるんだ。無駄な事はやめろよ。それに噛み付きたいなら、世界中の人間の肉を喰わせてやる。だから俺は喰うな。いいな。」、と一つ一つ丁寧に、諭すようにして言った。有美は「どうして?」と本当に不思議そうに俺に問うた。


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~有美(ありみ)~ 天川裕司 @tenkawayuji

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