待つ

天川裕司

第1話 待つ

タイトル:待つ



イントロ〜


あなたは、誰かを、待ち続けたことがありますか?

その「誰か」が「何か」に変わる時、あなたは真実(ほんとう)を見るかも知れません。



メインシナリオ〜


ト書き〈戦後〉


時は戦後。私は愛する夫を待ち続けた。

戦地に行ったきり、帰ってこない。


不思議なことに、他の人の家には安否を知らせる電報が届くのに、私のところにだけは何故か来ない。


マツミ「…どうして」


そして私は、もし夫が本当に帰ってくるなら必ずこの駅に帰るだろう最寄りの駅に、ずっと通い続けた。


省線の駅。それは小さな駅。人がごった返す時もあれば、京の底寂しさを思わすほど閑散とする時もある。


マツミ「今日も帰らないか。仕方ない、帰ろうか…」


私は朝から出かけ、夕方になれば帰る。

夜になると悪い人たちが増えるから。


そして次の日も来る。また帰る。次の日も来る。また帰る。次の日も来る。また帰る。


ト書き〈自宅〉


マツミ「…あなた、これ、また使ってくれるよね。笑って、食べたりできるよね…」


主人が使ってた茶碗を手に取り、そう言う。

家じゅうから、見た事もない孤独が押し寄せて来る。

寝間から孤独が産まれる。玄関前の往来にすら孤独が佇む。


そして1ヵ月…1年… 2年が過ぎた。


私は朝になれば又あの駅に出かけ、夕方になれば帰る。

夜になるとやっぱり悪い人たちが増えるから。


近所の人たちは私を慰めながら嗜めて来る。


「大丈夫、きっと帰ってくるよ」

「私の所へは、亡くなった電報が届いたわ…」

「…もうこの月日。そろそろ現実を見た方が良い」

「もっとシャンとしなくちゃ。あなたは今を生きてるんだから」

「今を生かされる上で、感謝しなきゃ…」

「別の誰かを探してみたら…?」


私の居場所は、あの人がいる所に在る。

私は待つ事にした。誰が何と言おうと。


ト書き〈ある日〉


でも、そうして月日が流れて来ると、

私にも多少、外の景色を見る余裕ができてくる。


マツミ「ふぅ。暑い。今日はちょっと、どこかに寄ってお茶でも飲もうかな」


暑い夏の日。私は帰り道の途中にあるカフェに寄ることにした。

その日は偶々人が居なかった。店内の客は疎ら。


マツミ「コーヒーください」


そして奥の席に座って飲んでると、あとから入ってきた1人の女の人が居た。

その人は他に席が空いているのに関わらず、

まっすぐ、私が今座っている席の前に来て…


ノゾミ「ここ、良いかしら?」


と相席を強請った。ちょっと不思議な気もしたが

相手は女性だし、別に良いかと思ってうなずいた。


ノゾミ「どうも」


少し無愛想な人かと思ったら、

席について喋り始めると結構、

気さくな人だと分かった。


でも不思議。その人は昔どこかでいちど会ったことのある人?

のような気がして、私は自分の悩みをその人に打ち明けたくなってきた。

そしてその通りに思いを喋った。


ノゾミ「そうでしたか。いや実は私も弟を戦争に取られまして、まだ帰って来てません」


聞けば、その人も私と同じ境遇。

でもその人の場合は肉親が取られ、

私よりもっと辛いのかも知れない。


でも、私にとっては今あの人しか居ない。

あの人は私にとって他人であるのに関わらず、

私はその気持ち1つになった。


彼女はノゾミさんと言って、ここから少し行ったところの

精神科で働いてると言う。私が悩みを打ち明けたのも

そのせいかと思った。そんな気にさせられて。


でも彼女は親身になって私を慰めた。


ノゾミ「大丈夫、きっと帰って来ますよ。お話を聴かせて頂いたところ、あなたはどうやら本気でその人を愛してらっしゃる」


ノゾミ「あなたはその人を待つべきです。今あなたが思ってるのとは別の形になるかもしれないですが、きっとその心は報われます」


と言ってくれた。


彼女の肩押しもあり、私は改めて又待つ事に。

主人が居る場所が私の居る場所。その気持ちが改めて

心に芽生えたような、そんな暖かさを知る。


ト書き〈再会〉


そしてまた月日が流れてゆく。

時間は、無敵に見える。


人に何があっても、関係なく流れてゆくのだから。


そして1年が過ぎた時。その日はまた夏になっていた。

主人が帰って来なくなってから3年目の夏。


あの時ノゾミさんが言った…

「今あなたが思ってるのとは別の形になるかもしれないですが」

の意味が良く解らなかったが、でもそれが何となく心の支えになってくれていた。


マツミ「私、あなたがもし帰って来てくれなくても大丈夫。こうしてあなたを待つ時間を与えられた事が、なんだか感謝すべき事に思えてきて…。この時間をくれて、ありがとうね。あなた」


そして省線の駅の外にあるベンチに座っていた時…


ノボル「やあっと帰って来れたよ!マツミ、ずいぶん待たせて悪かったな!」


マツミ「え…?…あ、あなた…?あなたなのね!?あなたぁ!!」


服はボロボロになっていたけど彼に間違いない。

私の主人、ノボルさんがやっと帰って来てくれた。


私は大泣きに泣き、ノボルさんの胸に甘え抱き着いた。


ノボル「おぉ、これこれ、みっともないぞ。もう大丈夫だから、一緒に帰ろう」


マツミ「うん!」(泣きながら)


そしてノボルさんは私の手を引き歩いて行く。でも…


マツミ「グス…。ん、あれ?…あなた、道は向こうよ?」


ノボル「ん?ああ、良いんだよ。おいで」


家から逆の方向へ向いて歩いて行く。

少し不思議な気がしたが、

「主人が居る場所が私の居る場所」

この気持ちに変わりなく、

「うん!」と彼に従ってついて行く。


ト書き〈省線の駅前〉


私は省線の駅の前にあるベンチの上に横たわって居た。


(その横たわるマツミを見ながら)


ノゾミ「良かったわね。あなたの信仰があなたを救ったのよ。信じる心は何より強い」


ノゾミ「ずっと待ちながら、途中でマツミは1度、何を待って居るのか良く分からなくなった。そしてその待つ対象が救いに変わった。そして感謝した」


(空を見上げて)


ノゾミ「私はあなたの信じる心から生まれた生霊。良かったわね。あなたの愛するその救いと、再会できたのよ」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=7qHjYteQI_g&t=83s

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待つ 天川裕司 @tenkawayuji

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