【てんとも!】 転校生の彼女はネッ友でした!

トマトネコ

     第1話 ヘッドショット!

「敵、向かってるよ」



「分かった。そっちカバーいる?」



「いや、あたしの方はもう壊滅させたから大丈夫だよ。」



「分かった。漁夫だけ気をつけてここで合流しよう。」



「オッケー。」



慣れたやり取り。何度もこんな会話をしてきた。



「最後の部隊見つけたよ!」



「ナイス!合流するまでステイしといて」



「分かった~。見つからないようにね。」



残るは最後の敵部隊。ここで勝てば王者になれる。王者というのはこのネット対戦型シューティングゲーム、いわゆるFPSと呼ばれるゲームで一位を取ることだ。



自分では気づかなかったが、無意識にコントローラーを握る力が強くなっていた。



「お、いたいた。こっちこっち~。」



指定した合流地点で彼女は待っていた。



合流完了



「あれが最後だけどどうする?」



「俺は左をやるから、右は頼んだ。」



「了~解!」



銃を構えスコープを覗く。

照準を敵部隊の一人の頭部に合わせる。



「俺はいつでもいける」



「あたしの方もいつでもいいよ!」



互いに準備ができた。後は引き金を引くだけだ。

タイミングがズレれば失敗する。そうなると相手に自分達の位置を知らせることになってしまう。それだけは避けるためにも失敗は許されない。




深く息を吸い、集中する。




画面を凝視し、体は瞬きすることすら忘れていた。



「せーーのっ!!」



俺の掛け声と共に二発の重い銃声がマップ全体に響き渡った。



* * * *




「ふぅ。お疲れ様~。」



「うん。お疲れ。」



二人の声色は疲労を隠しきれていない。

長かった試合が終わり、目の前の画面にはロビーで待機している映像が映し出されている。



「いや~疲れた疲れた。あたし今日はぐっすり眠れそう。」



「いや、さっき起きたばっかだろ。それにまだ1ゲーム目だし。」



「別にいいでしょう!王者取れたんだし、少しは休むことも大切よ!」



30分も集中して画面に向き合っていたせいか自分が思っているよりも体はずっと疲れているのかもしれない。それでも



「お昼寝したら寝過ごして約束の時間に間に合わなかったのはどなたですかねー」



「うっ、、、そ、それは本当に申し訳ないって思ってる!」



本当はもっと早く始める予定だった。

約束の時間はもともと午後7時からだったが、彼女は昼寝をしてしまい、見事寝過ごしてしまった。結局一緒にゲームが出来たのは10時から。

三時間も寝過ごしたことに正直俺は驚いている。



「で、でも今回の試合の動きよかったと思うよ?と、特に最後のとか?」



「まだ一戦しかしてないのに適当言うんじゃねぇー!」



「ごめんって!もう寝ないから!」



いや、寝過ごさなければ別に良いのだが。まぁ、彼女のことだからしっかり次も寝過ごしてくるだろう。これは仕方のないことだ。こんな調子だと先のことが思いやられる。そんなことを考えているとより体がだるくなったように感じてきた。



確かに今回のムーブは過去1と言っていいほど無駄が無い動きでとても良かった。



しかしどうしても心残りなのは



「やっぱり最後か…」



落胆のため息が口から漏れる。



作戦としては最後の部隊を二人で狙撃して壊滅させるというもの。しかし思った通りにはいかず、絶妙にタイミングが合わなかった。自分の掛け声とそれが彼女に伝わるまでに少しのタイムラグがあったのだ。それが原因で一人を狙撃し損ねてしまった。幸いそのプレイヤーはあまり強い方ではなかったから彼女と協力して2対1で片付けることは出来たが、敵がもし二人で相手しても勝てないような強者プレイヤーならあそこで負けていたに違いない。



確実に勝つためにもあんなミスはしたくなかった。



「まぁでも最後のってさ、お互いに悪い要因があった訳ではないじゃん?つまり私達の腕に問題は無いってことでしょ。なら、次は絶対成功するって!」



「その何も考えていないようなポジティブ精神が羨ましいよ」



「今何て言った!?何も考えない脳筋メスゴリラですって!?上等よ。そしたら次はあんたの頭にヘッドショットぶちこんであげるから!」



「そこまで言ってねぇよ!」



本当にこいつの思考回路はどうなっているんだろうか。試合中であれば頼もしいパートナーなのに試合外だといつもこんな調子だ。

だが、事実彼女が言ってくれた言葉には少し救われている。確かに今回は俺達に非があったわけではない。



本当にしょうがないこともある…か。そう考えると自然と気持ちも落ち着いてきた。



「ありがとう。」



「え?何のこと?急にどうしたの。私より先に頭に変なの打ち込まれた?」



こいつ!



「何でもないよ。ただ、脳筋メスゴリラに感謝しただけ。」



こっちも反撃開始だ。



「あぁーっ!本当に言った!本当に言ってきた!最低!バカ!アホ!」



「お前は幼稚園児か!」



「そんなんだとどうせリアルでも友達いないんでしょう!?あたし分かるもん!いつ見てもロビー待機1人:ヤマキングって書いてあるし、あたしがいなかったら結局そうじゃん!」



「グハッ!」



心にガラスの剣がダイレクトに突き刺さる。思わぬカウンター。これは痛い。

ちなみにヤマキングというのは俺のプレイヤー名でこれは自分の名前から取ってきた。そして彼女の名前はハナ姫だ。最初は自分のことを姫と表現するのはどうかしてると思ったが、何でも口に出すこの頭お花畑お嬢様な彼女にはぴったりだと最近思い始めている。



「確かに俺は回りと比べて友達も少ない方かもしれない。それは認める!正直1人は寂しい!だけどそこまで言うぐらいなら俺以外とやればいいだろ!?」



いつもそうだ。そこまでボコボコに言ってくるならどうして俺以外の人とプレイしないのだろう。今時ゲーム好きな女子なんて普通、男からしたら皆ロックオン対象だ。



まぁ俺はそんなのには全く興味ないけど。俺はただゲームが出来ればそれでいいから。



「そ、そんなのあんたが1人でピコピコと孤独にゲームしてるのがかわいそうだと思ったからに決まってるでしょ!」



急に画面越しに聞こえる彼女の声が荒くなる。

彼女につられるように自然とこっちも熱くなり、お互いにヒートアップしてきた。



「あぁそうかい!余計なお世話だっての!同情するなら、アマギフの一個や二個くれや!ていうかそんなこと言って本当はそっちこそ1人で寂しいんじゃないんですかー?」



「バンッ」



画面の奥から、何やら殴る音が聞こえる。

あぁ、いつもの台パンか。いつも通り、平常運行だ。



「ッッッ!もうあったまきた!練習場に来なさい!タイマンよタイマン!ぼっこぼっこのぎちょんぎちょんにしてあげる!」



「上等だ!後で泣いて謝っても許さないからな!」



そう言うと俺はコントローラーを強く握りしめる。結局その日は日をまたいでまで練習場で一対一で勝負した。



その日の夜自分のスマホに届いた謝罪文を眺め、俺は気持ちよく床に入った。

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