けものの祈り【外伝】
みみのり6年生
序章 月に飛ぶ
葡萄美酒夜光杯
欲飲琵琶馬上催
酔臥沙場君莫笑
古来征戦幾人回
「彼女」はこの歌が好きだった。今思い出すと毎日といっていいほど月に読んで聞かせていた気がする。
その時はこの詩のどこが魅力だったのか、よくわからなかったけど。彼女に聞いたら、
「私がまだフレンズになる前にね、飼い主だった男の子がね、毎晩朗読してくれててさ。」
それでおぼえちゃったんだよね。と彼女は屈託のない笑顔で笑った。
そんな彼女は・・・もういない。いや、
私は今宵の月を見上げた。まあるくて、欠けたところなんてまるでない月。
わたしは胸に抱えた一羽のヨウムを空に投げた。「彼女」は足を怪我していて、自力で地面から飛び立てないのだ。
ヨウムは一度折れたことがある翼を痛ましく扇いで月に向かっていった。わたしにはヨウムのシルエットが月に被さって、まるで影絵のようでもあった。
「ブドウノビシュ ヤコウノハイ
ノマントホッスレバ ビワバジョウニモヨオス ・・・」
その声は、かつての彼女の声とは全く異なるものだった。でも月夜に羽ばたきながら詩を読む姿は、どこか彼女を感じさせた。
・・・なぜだろう。私は泣いていた。
「酔ゑうて沙場さじょうに臥ふす君笑ふこと莫なかれ
古来征戦せいせん幾人か回かへる」
—酔って砂漠に倒れこんだりしても笑ってくれるな
古来いくさから生きて戻った者などほとんどいないのだから—
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます