第13話 謀略
午後の授業を受けて、HRが終わると部活に行く前の柚木さんと緑川さんを捕まえた。
「ちょっと力を貸してほしい」
少し場所を移動して一通り話した後、裕美ちゃんに任せろと言った勢いのまま彼女たちに伝えた。
「どうしたらいいと思う…?」
「それで、秋野さんにはなんて言ってきたの?」
「さ、最後まで面倒は見るからって、任せろって、う、上手くやるからって」
こちらを見透かしたような柚木さんの質問に、しどろもどろで返す。
「へー。ちゃんと面倒見てあげるんだー。任されちゃったんだー。上手くできるんだー。すごいねー」
この女は美人だが性格はドクズだと思う。人の急所を瞬時に見抜く力は凄いが優しさが欠けている。
「のぞみちゃん…あはっ…そんな言い方…んふっ…明智くんに悪いよ。一緒に考えてあげよ…あはは」
緑川さんも面白がっている。しかし今回ばかりは彼ではどうしようもないので頭を下げる。
「考えてあげてもいいけどさー。高くつくよ」
本気で面白がっている柚木さんの笑顔は悪魔のようだ。しかしコミュ力に関してはこちらの数倍の力を持っている。ここは頼るしかない。
「もー。のぞみちゃんも意地悪しない!明智くんが頼ってくれてるんだからさー」
「そうね。いつも女の子を手玉に取ってると噂の明智くんが困ってるなら協力してあげようか。部活終わったら行くからいつもの所でまこちゃんと待っててよ」
そう言い残して柚木さんは部活へと向かう。部活が終わるのは18時頃なので、待つために緑川さんと駅前のカフェに向かうことになった。
駅までの道を2人で歩きながら緑川さんが話しかけてくる。
「秋野さんと三森さんはどうしたの?」
「しずくが一緒に連れて帰ったよ。あっちはあっちで今頃は悩み相談でもしてるんじゃないかな」
「三森さん話しやすいって評判だからね。一部では恋の裁判官って呼ばれてるみたい」
それは恐らく間違いで、自分から意見を言わないから話しやすく、最後に全肯定するだけだから何か勇気づけられて行動しようと相談者が勘違いするのだ。あいつが他人の話を親身に聞くわけないし、何か考えてアドバイスするわけがない。それが優しさで相談しやすいと言えばそうかもしれないが。
「女の子って母親と学校の話とかするもんなの?」
とりあえず話題を変えてみる。
「そうね。帰ったら1時間ぐらいはいつも話してるかなー。私よりのぞみちゃんの方がお母さんとは仲良しみたいだけど」
「そういうもんなんだ。ちょっと想像できない」
「男の子はねー。お母さんは一番頼りになる同性の友達みたいなもんだよ。いつも味方になってくれるしね」
そうこうしてるうちに駅に着いた。カフェに入り2人ともコーヒーを頼んで話を続ける。
「正直どうしていいかまったくわからん。ただ彼氏のふりして裕美ちゃんのお母さんに嘘は付きたくない」
「どうせバレるしね」
「そうなの。バレるもんなの?」
「当り前でしょー。秋野さんのこと世界で一番知ってるのはお母さんなんだよ。娘の考えてることなんてとっくにお見通しだよ」
そういうもんなんだろうか?男の場合は、息子の考えてることがまるでわからないという母親の話はよく聞くが同性だと違うものなんだ。
「どうすっかなー。いい案浮かんだ?」
「まあまあ、のぞみちゃんが考えてくれるよ。ほんとうに頼りになるから」
「確かに。何が起こっても解決しそうなタイプではあるね」
「私もお母さんに彼氏ができたって言ってみようかなー。その時は助けてくれる?」
「勘弁してくれ。出来るだけ力になるけど勘弁してくれ」
「男の子ってお母さん苦手だよね」
苦手なんじゃないと思う。年頃の男のほとんどは女性慣れしてないのだ。お母さんを含めて。姉がいたりしたら少しは違うんだろうけどとは思う。
高校生の男が恋愛相談できるのは年の近い姉ぐらいだろう。母親にはしゃべりたくないし、妹は軽く見るので相談しない。やはり持つべきは姉だ。
「そう言えばお姉さんいるんだよな?」
「いるよー。言ったっけ?」
「水族館行ったとき、服をお姉ちゃんに見てもらったって言ってた」
「あー。そうそう。あのジャケットはお姉ちゃんに借りたやつ。大学生で服はいっぱい持ってるからね。最近は妹の恋愛に興味津々だよ」
「姉妹も仲いいんだな。楽しそうで何より」
「完全にシスコンなんだよ。何かとかまってくるから最近めんどくさくて」
「明智くんは兄弟いるの?」
「妹がいるよ。あんまり話さないけど。仲が悪いわけじゃないから普通かな」
「へー。今度会ってみたいな?」
「そうだね。機会があれば会ってあげてよ。しずくとは仲がいいから年上のお姉さん好きだと思うよ」
「そっか。家が隣だから当然知り合いだよね。幼馴染って憧れるよねー」
属性はあんまり関係ないと思う。問題は相手が自分を理解してくれるか、味方になってくれるか、見てくれるかが全てではないだろうか。家族でも友人でも幼馴染でも、それは変わらないと思える。相手を大切にすれば自身も大切にしてもらえる。そんなもんだと考えている。
結局、ただ雑談しているうちに18時を15分ぐらい過ぎたころに柚木さんが合流した。何だかんだ雑談を続けつつ、どうしたらいいんだろうと本日3回目ぐらいの質問を投げかけると柚木さんが答えてくれた。
「そんなの簡単でしょ。全員で秋野さんの家に行って事実を話せばいいのよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます