死者の溢れた村(3)
でかい。
ストーンドラゴンもでかかったが、蛇型のあいつと違い、今回の竜はずんぐりしたトカゲに翼が生えたようなタイプ。
全体的な威圧感は数倍を誇り、骨だけでも恐ろしい脅威を感じさせる。
白骨には声帯がない。だから咆哮も上げない。
暴れ、生者を穢すという本能、いや機能に突き動かされるように這い出し、俺たちに首を振り向けてくる。
地下墓地が崩れていくのもお構いなし。
竜の骨は、古いものであってもなお、そしてその一部から兵を作り出してもなお、驚くほど頑丈にできているらしい。
その、せっかく作り出した兵が瓦礫と土砂に飲み込まれているのはいいのか悪いのかわからないが。
「《ファイアーボール》」
エマの杖先から放たれた火の球が鼻先に着弾、爆発して僅かな間を稼ぐ。
「ステラ、明かり!」
「《
持続時間が短い代わりに消費の少ない明かりの魔法をいくつか、空間に浮かべて視界を確保。
フレアの空いている方の手が俺の左手を掴んで、
「残りの魔力、あたしに全部寄越しなさい!」
《スネア》。
地面の一部が盛り上がり、腕となってドラゴンスケルトンの後ろ左足を掴む。ぐぐ、と、数秒の間だけ持ちこたえて、ぐしゃ、と崩れた。
その間に、リーシャが両手の銃を可能な限り連射。
実のところ、スケルトン系には銃が効きづらい。
胴体に空洞が多く、細い骨だけで繋がっているため、効果が拡散しづらいのだ。どこかに当たって一部だけ浄化しても、他の部分から負の力が補充されて大きなダメージにならない。
それでも、いくらかのダメージにはなる。
三人の懸命な努力が重なり、牽制として機能し。
「これは、村を壊さないとか言ってる場合じゃない」
「そうね、後退するわよ!」
撃ち続けるリーシャと共に村の中央へ後退。
そうしているうちに、
「な、なんだよこれ!?」
「骨の竜……!? こんなのまでいるの!?」
「助かりました。来てくださったのですね」
下手に参加させると被害が大きくなりそうだが、さんざんアンデッドを相手にした後であのデカブツはさすがにきつい。
「あんたたち、協力しなさい! 精霊使いは
「古代語魔法は効きが悪い。比較的ファイアボールの爆発が有効」
「
「絶対に不用意に近づかないでください! 弓がなければ投石で! 敵の攻撃範囲に入らないように!」
最後にフレアが「生き残ったら報酬山分けよ!」と叫ぶと、彼らにも気合いが入ったのか、それぞれの方法で遠巻きに応戦し始めてくれる。
これでまた、少し形勢がマシになった。
「……さて。決めるのはあたしたちの役目なんだろうけど、さすがに骨が折れるわよ」
「フレアさんもなんだかんだ魔法使っていますしね……」
「そもそも今回はあたしの炎もあんまり役に立たないわ。焼ける肉があいつにはないし」
つくづく厄介な相手である。じゃあ生身のドラゴンのほうが良かったか、と問われれば絶対にノーだが。
「アルフレッドでも通りかかってくれないかしら」
「聖剣があれば確かに楽ができるけれど、さすがに望み薄ね」
「魔剣で我慢するしかない」
「この剣ならダメージは与えられると思いますけど……」
近接武器は近づかないと攻撃できない。
「……しょうがないわね。あたしも前に出るわ。ステラも深追いはしないで、攻撃を受けないことを優先しながら足を削って」
「……わかりました。二人いれば的も少しは散らせますね」
「危険だけど、仕方ない。せめてプロテクションをかける」
「わたくしからも地母神さまの加護を」
防御魔法の二重がけにより致命傷を避けやすくなる。
被弾した場合、フレアは自身の魔法で治療を、俺はリーシャに奇跡を飛ばしてもらうことに。
再びエマのファイアボール、リーシャの銃で牽制して、
「行くわよ!」
俺たちは二人揃って飛び出した。
左右に分かれ、尾の攻撃に注意しながら懐へ飛び込む。
他の冒険者が注意をそらしてくれているうちがチャンスだ。
俺は魔剣に左手を添え、両手持ちにする。
ロングソードではあるが身長高めの者が使っていたのか、俺が持つとバスタードソード並になる。今回はそれを利用し、さらに力を乗せることにした。
「このおおおっ!!」
魔剣の刃が左前足の骨に食い込み、その一部を砕く。
一部。
痛みを感じないドラゴンスケルトンはその程度意に介した様子もなく、すぐさま蹴りを敢行。俺はからくもかわして体勢を立て直す。
──これは、相当ハードだぞ。
小柄な身体で助かった。男のままだったら動きづらくて仕方なかったかもしれない。そもそも、すでにステラの身体は前の俺より強いくらいになりつつあるのだが。
「一度で足りないなら、二度でも三度でも!」
離れては近づき、近づいては重い一撃を叩き込む。
何度か繰り返すとようやく骨が軋み、動きに無理が出始めた。
足が一本使えなくなれば一気に楽になる。俺は弾みをつけようと剣を握り直して、
「きゃあああっ!!」
「フレアさん──!?」
悲鳴。見れば、右前足がフレアを蹴り飛ばしていた。
少女は自ら後ろに跳んだのか、大きなダメージにはなっていないようだが──。
「っ!?」
「馬鹿! なによそ見してんのよ!?」
意識をそらした俺は、自分側の足への反応が遅れてしまった。
フレアと同じように後退して威力を殺す。それでも丸太を叩きつけられたような衝撃。何歩分もの距離を吹き飛ばされながらなんとか受け身を取り──そこへリーシャの癒やしが飛んでくる。
「後でお説教ですからね!?」
「すみません、助かりました!」
よそ見をして勝てる相手じゃない。
俺はもう一度気を引き締め直すと、あらためてドラゴンスケルトンへと挑みかかった。
刃で殴り、攻撃を回避。隙を見つけてまた殴る。
知能が鈍り、得意のブレスも持たない。己の身体しか攻撃手段のないドラゴンは、ランクとしては数段落ちる。
そのうえ多勢に無勢だ。少しずつだが動きが鈍ってくる中、ついに太い足の骨に大きな亀裂が入り、
がくん、と、巨体が揺らいだ。
「離れなさい、ステラ!」
「はいっ! みなさん、敵の体勢が崩れます!」
地響き。
足の一本を折ったドラゴンスケルトンは、残りの三本で動こうともがき出す。
俺たちはいったん後退し、残る飛び道具を一気に叩き込んだ。
「ここで力を使い果たすと少々心許有りませんが──っ!」
リーシャの残る魔力を注ぎ込んだ聖なる光が、竜の無事な右前足を直撃。太い、一番重要な骨をごっそりと消失させる。
「これで、奴は這うしかない」
後一回、大きな一撃を叩き込めばおそらく沈む。
もちろん俺たちにももう余裕はないが、
「ステラ」
エマの漆黒の瞳が俺を見据え、
「残りの魔力であなたを飛ばす。落ちながら全力で一撃を叩き込んで」
どうやら、とどめはあろうことか俺にまわってきたらしい。
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