部屋割りを決めよう!
「部屋割りを決めたい」
夕食時、珍しくエマが「酒を頼む前に聞いて」と真面目な顔で俺たちに告げた。
いったいなんだと身構えたところ、そんな話で。
なんだそんなことかと俺は脱力。
「部屋はたくさんありますし、わたしは余ったところで大丈夫です」
と、それを聞いた女魔術師は黒い瞳を心なしか輝かせて、
「それは好都合」
「なによエマ。ステラに選ぶ権利はないってこと?」
「違う。考えてみてほしい。私たちの部屋とステラの部屋は離れていたほうが好都合」
「どういうこと?」
不思議そうに首を傾げたのはリーシャ。
一方、フレアは「あ」と口を開いて、
「あー、その、なんていうか、騒音的な問題?」
「その通り」
ここまで言われれば俺も気づく。
「なんでそんなこと真面目に話し合おうとしてるんですか……?」
「だって、ステラの部屋には絶対誰か夜這いをかける」
女の方から行くのってかなりレアだろうに。いや、まあ俺も女だが。
「ステラだってオナニーする時、私たちと部屋が離れていたほうがいいはず」
「エマさん自身も気にしたほうがいいんじゃないですか?」
「確かに一理ある」
というかこの話、食事しながらしないほうが良くないか?
この宿の酒場は品がいい分、声が通らないほどの大騒ぎは起こらない。エマのさっきの発言も他の客に聞かれた可能性がある。
少なくともセリーナは頬を染めてこっちを睨んでいた。
最後に話を理解したリーシャが「なるほど」と頷いて、
「実際、部屋はたくさんあるわ。四人だけだし、あまり固まってしまうと逆に寂しいかもね。分散するのはいいんじゃないかしら」
貴族の屋敷というのはえてして「男性の部屋」と「女性の部屋」が離れているものらしい。
俺たちが買った家の場合は男性棟と女性棟、さらに執務用の棟が分かれていた。もちろん執務棟は「休むための部屋」という感じではないが。
「それじゃあ、男性棟と女性棟に二人ずつにしますか?」
「それは駄目。なぜなら」
「じゃああたしがステラの近くね!」
「こうなるから」
なぜ、理想的な家を買えたのに喧嘩するのか。
「あの、わたしは逃げませんから……」
「言質取ったわよ? 夜這いしたら受け入れてくれるのね?」
そこに食いつくのか!?
「そ、それはまあ。わたしだって加減さえしてもらえれば嫌なわけでは……」
ぶっちゃけ変態プレイでぐいぐい来るから拒絶反応が出ているだけだ。
「わかった。それならやっぱり平等にするべき」
「ならわたしが男性棟、みなさんが女性棟ですね」
「別に逆でもいいわよ。前に使ってた連中がそう決めたってだけなんだし」
「内装はそのままだから、男性棟のほうがシックな雰囲気ではあるわよ?」
「正直、私はそのくらいのほうが落ち着く」
学院内も学びのための場だけあって華やかさはあまりない。紙とインクのにおいに満ち、男性の多い空間が普通なら感性も普通の女とは違って当然だ。
「じゃあエマは執務棟使えば? 図書室もそこにあるんだし」
「その手があった」
というわけでエマは執務棟に部屋を置くことに決定。ちょうど当主用の執務室が続き部屋になっていて仮眠や休憩ができるようになっているので、そこを使えばいい。
元が執務室なら本もたくさん置けるしうってつけだろう。
本の他にエロい道具もたくさん置かれそうなのがアレだが。
「……あれ? そういえば棟ってもう一つあったわよね?」
フレアが首を傾げ、リーシャが「使用人棟ね」と答える。
「一室一室は狭いけれど、部屋数という意味では一番多いわ。他の棟からも離れていて、家人を煩わせない造りになっているみたい」
「ならあたしはそっちにするわ。そんなに広い部屋って落ち着かなさそうだし」
「いいんですか、フレアさん?」
「いいわよ。それなら庭で剣振りたくなって夜中にこっそり抜け出してもみんなに迷惑かからないじゃない?」
そういうメリットもあったか。
「じゃあ、リーシャが女性棟、ステラが男性棟に部屋を持てばいい。なんなら全部自分の部屋にしてもいい」
「一部屋へ十分よ。でも、こんな贅沢していいのかしら?」
「いいじゃないですか。リーシャさんたちが頑張ったから買えた家なんですから」
笑って言うと、フレアから「あんたもね」と小突かれた。
「遠慮しないでいい部屋取りなさいよ。あんた、地味に持ち物多くなってきてるでしょ?」
「そうですね。剣に弓に聖印に聖典、古代語魔法の本に服と下着と……」
「今さらだけど、よくあんたそんなに兼業できてるわね?」
「私でも頭がこんがらがりそう」
長い下積みと、フレアたちと過ごした一年の経験のおかげだろう。後はもしかすると、この身体は前の俺とは頭の出来が違うのか。
「で、エマ?
「ちょうどいい鎧も見繕った。宿に届いたら一晩で完成させられる」
「それは良かったわ。引き渡してもらったらすぐ使いたいもんね」
宿で完成させてしまうと運ぶのが大変じゃないかと思ったが、そこは「自分で歩いてもらえばいい」とのこと。
材料となる核と身体になるプレートメイル。そいつに持たせる剣と盾。安くない出費だが、意外と便利だな、動く鎧。
「エマさん、他の罠はどうするんですか? なにかお手伝いできることはありますか?」
「むしろそっちはステラに頑張ってもらうつもり」
「へ?」
「鳴子とか、設置できない?」
「できると思いますけど……」
罠ってそういう罠か!? そりゃまあ、魔法の罠は高いから仕方ないが。いきなりグレードが下がったので若干拍子抜けした。
「ステラ。あんた部屋を選ぶとき気をつけなさいよ。特にベッド。おっさんのにおいが染み付いてるかもしれないし」
「嫌なこと言わないでくださいよ!?」
「大丈夫ですよ、ステラさん。わたくしが浄化の奇跡を使いますから、においや汚れは綺麗になります」
「それなら安心ですね。わたしが自分で使えればなおいいんですけど……」
「焦らなくていいんですよ。治癒の奇跡が使えるようになっただけで大きな進歩です」
孤児院での経験が生きたのか、治癒の奇跡に関してはあの時の感覚を思い出してほぼ百発百中で発動できるようになった。
「そうね。癒やし手が二人いると便利だもの」
「あら。フレアだって癒やし手になれるでしょう? 三人よ」
そう言われればそうか。使っているのを見たことはないが、
それを言ったらエマだって薬を使った治療ができるので、このパーティは継戦能力が異様に高い。
「それにしても、そろそろ
「わたしはぜんぜん大丈夫ですよ?」
「やらせたい仕事が他にあるってことよ。ステラったら、剣も弓もある程度使えるし、シーフもレンジャーもできるじゃない」
雑魚相手なら俺も掃討に加われるし、ダンジョンなら罠の確認もある。
中が異空間になっていてたくさんの物を収納、重量まで軽減できる魔法の鞄があれば冒険がぐっと楽になる。
「それにしても、一つ欲しいものを手に入れるとすぐに欲しいものがでてきますね」
「そういうもんよ。冒険なんて便利な道具があればあるだけ楽になるんだから」
「先立つものもまだまだ必要」
家を買ったりいろいろしたので所持金もだいぶ目減りした。
新しいマジックアイテムを買うならまた稼がないといけない。
「そろそろ迷宮のあの扉を調査するべきかしらね」
リーシャの呟きがそういう状況を招いた──というわけではないのだろうが。
翌日、俺たちの元を訪れて、迷宮の調査を依頼してきた人物がいた。
冒険者ギルドでも学院でも神殿でもない、別のところから来たその人物は、上等な仕立てのメイド服を纏っていた。
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