第二章

家を探そう!(1)

 ストーンドラゴンの討伐から、あるいは俺の正体がバレてから二週間ほどが過ぎた。

 幸い(?)フレアがエマたちに内緒にしてくれたため、俺は変わらず『三乙女トライデント』の一員として活動できている。

 代わりに、フレアたちの欲求解消のための愛玩(?)が本格化してしまったが。


 腐っても凄腕冒険者パーティ。

 やるときはやるやつらであり、毎日俺を弄んで終わり、とはさすがにならなかった。

 三人が日ごとに一人ずつ担当になり、いろいろなことを教えてくれる。合間に特殊な趣味について解説されたり軽く手を出されるのはまあ、この際仕方ないものとする。


 俺が誰かから教えを受けている間、他の二人はなにをしているかと言えば、鍛錬だったり他の用事を済ませたり、いろいろだ。

 家を買うという目標のため、良さげな物件を探すという用事もある。

 日々誰かに教えを受けている俺はほぼ物件探しに協力できなかったのだが、フレアたちから探索結果を聞く限り、けっこう難航しているらしい。


「街が広いうえにどれが空き家なのかわかりづらいのよ!」


 建物の所有者が誰か、家の表に書いてあればわかりやすいのだが、家名や代表者名を外に掲示しているのなんて貴族か、一定以上の金持ちくらいだ。

 空き家っぽい家があっても、しばらく見ていると人の気配があったりすることもある。

 運良く空き家を見つけても、近所の人間が「そこが誰の持ち物か」把握していないこともある。把握していても所有者を捕まえて話を聞くのには時間がかかる。


「そのうえ、放っておいたらせっかく出た空き家が人に譲られてしまったりする」


 家は人が住んでいないとどんどん傷んでいく。

 手放すほうとしても引き取り手を見つけてからにしたい、と思うのは自然。そうすると空き家になることなく知人に譲られる家もけっこうあるだろう。


「家自体はたくさんありますから、潜在的な売り手自体はそれなりにいるはずなのですよね……」


 家を買うのがこんなに面倒だったとは。

 このへん、街の住人ならまだもう少し楽なのだろう。根無し草の冒険者というのは住人のネットワークに組み込まれていない。


「エマさんやリーシャさんはこの街の生まれじゃないんですか?」

「違う。私は師匠に連れて来られた」

「わたくしも残念ながら実家は別の街でして……」

「誰か詳しい人をあたったほうがいいかもしれないわね」


 試しに宿の看板娘であるセリーナに尋ねてみると、


「うーん、そうですね……。酒場のお客さんから話を聞くことはたまにありますけど、うちの客層もかなり限られますからね」


 俺たちの定宿はある程度品がいいからまだマシだが、それでも「冒険者とは関わりたくない」という一般人はそれなりにいる。

 そういう人は酒場に来ないので情報源が限られてしまう。


「フレアさんたちなら人柄はわかっていますし、紹介することはできますけど、私もお母さんも顔が広いというほどではないですね」

「そっかぁ。難しいわね」

「わたしたちの知り合いで、顔が広くて、売り物件の情報が集まってきそうな人……」


 首をひねってみると、思いついたのはひとつのつてだった。


「ああ、あそこ。なんか毎回頼りにしてる気もするけど」

「商家ならうってつけではありますね」


 前に依頼をこなした縁でつながりができ、その後もマジックアイテムの売却を手伝ってもらった家に連絡をしてみることに。



    ◇    ◇    ◇



「って、あの。きちんとした場に行くのにこの格好はだめじゃないですか?」

「なによ。あんたがエマとリーシャの選んだ服ばっかり着るからじゃない。あたしの選んだ服のなにが不満だっていうの?」

「露出度ですよ!」


 幸い手紙の返事は二、三日であり、すぐに会ってもらえるとのこと。

 それなら全員で伺おうということになったのだが、その段になってフレアが俺の服を指定してきた。


「今日という今日は譲らないわよ。少しずつあんたを慣らしてこっちの道に引きずり込むんだから」

「言ってることが悪党のそれなんですが」

「いいから脱ぎなさい!」


 最後は半ば実力行使。

 下着に剥かれた俺はしぶしぶ、フレアの選んだ服に着替えた。

 膝上丈のミニスカート。黒のニーハイソックス。七分丈かつ裾の短めなブラウス。スカートとの間が空いているせいで姿勢や角度によってはへそが見えてしまう。

 ……やっぱりこれ露出度高すぎないか?

 なんとか裾を伸ばせないか引っ張ったり、へそだけは隠そうと試みたりしていると、紅の美少女はにんまりと笑って、


「うん、良く似合ってるわ。大人しい子がせいいっぱい背伸びしてるみたいでめちゃくちゃそそられる」


 善良な女子が悪い仲間にそそのかされた図じゃないか、それ?


「チョーカーがあってもいいわね。あとピアスとかつけてみる?」

「これ以上装飾を増やそうとしないでください!」

「なによ、これくらいぜんぜん恥ずかしくないじゃない」


 逆ギレしたように言ってくるも、俺はこいつがさっき「そそられる」って言っていたのを聞いている。


「フレアさん、本音はなんですか?」

「……適度に恥ずかしいくらいのほうが興奮するでしょ?」

「特殊性癖を一般化しないでください」

「ああもう、あんまり文句言うなら『気持ちよく』なれるように気分を変えてあげましょうか!?」


 こいつ俺の中身が俺だって気づいたから余計に強引になったな。

 にらみ合いになった俺たちを止めたのはエマとリーシャで。


「そこまで。フレアもあんまりステラをいじめない」

「ありがとうございます、エマさん。助かりました」

「気にしないで。それよりチョーカーならオススメのがある」

「それ、たぶん鎖がついてるやつですよね?」


 エマが好きなのはチョーカーというか首輪。それも犬が着けるようなしっかりしたやつである。

 黒髪黒目の美女は無表情のまま「残念」と呟き、


「もっと初心者向けの首輪も用意しておく」


 首輪って言っちゃってるし。


「エマも落ち着いて。フレア、せめて上着を追加しましょう?」

「んー……まあ、そうね。それくらいならいいかしら」


 結局、フレアは私物の上着を貸してくれた。


「こうやって……袖のところで縛って腰に巻くといいわ。これでお腹とお尻は隠せるでしょ?」


 また独特のファッションセンスを。

 しかし確かに露出度は下がった。これ以上はさすがに我が儘かと納得し、


「そうだ。剣を持っていってもいいでしょうか? そのほうが格好がつく気がします」

「いいんじゃない? 冒険者相手に持ち歩くなとも言わないだろうし」

「ステラなら問題ない」


 軽装も荒事のためっぽく見せればまだマシだろう。

 そう思って外に出ると、めちゃくちゃ見られた。隣にもっと際どいやつ(※フレア)がいるので視線は分散するが、


「ほらほらステラ。恥ずかしがってると余計に注目されるわよ」

「わっ」


 腕を抱きしめられ、肌を隠すのを封じられて、俺はそのまま目的の商家まで歩いたのだった。

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