ステラ(4)
「動きやすいほうが絶対いいじゃない」
「可愛い子に可愛い格好させなくてどうするの」
「わたくしとしては清純さも重要だと思うの」
こいつら暇なのか?
俺の服を買うのに全員で来なくても。しかも本人よりヒートアップしてるし。
それぞれの意見、というか趣味をぶつけ合う『三乙女』を尻目に俺は困惑。
女性向けの服屋。当然のごとく店員も女であり、俺には今まで縁のなかった場所だ。スカートなど、男の服ではありえない形状のものも多い。
「あの、そもそも冒険者には不向きなお店なのでは……?」
「なに言ってんのよ。冒険用の服なんて後でいいじゃない」
いや待て冒険者。
「直接戦闘は私たちがやればいい。戦いに参加しないなら服も汚れない」
「どうしても移動で汚れますよね?」
「わたくしの浄化の魔法で綺麗にできますよ?」
神の奇跡を無駄遣いできるのも一流の証拠か。
それならまあ、どこかにスカート引っ掛けたりしなければ大きな問題はないか? 多少のほつれは繕えばいいわけだし……って、騙されないぞ俺は。
「装備の調達までお世話になるのに普段着までいただけません」
「気にしなくていいってば。あたしたちも楽しんでるし」
必要以上ににこにこしてるからそれはわかる。
「それよりステラはどれがいいわけ? あんたの好みが一番重要でしょ?」
「確かに。本人に決めてもらうのが一番いい」
「それなら公平ね」
にらみ合う女たち。これ「自分のが選ばれるに決まってる」と思ってるな。
俺は「えーと」と迷いを表明してから、
「できるだけ地味なやつを」
「却下」
こんなに可愛いのに可愛い服を着ないとか冒涜! ということらしい。俺もまあ、それはそう思わないこともない。
「ではリーシャさんの選んでくださった服で──」
「ほら、やっぱりわたくしのが一番でしょう?」
「いや、リーシャばっかりずるくない?」
「同意。面倒だから全員一着ずつ買えばいい」
「え」
どうせ着替えも必要だし、と、いきなり決定。
さっきまでああだこうだ言っていた意味は!?
っていうか思ったより一着の値段が高いんだが!?
◇ ◇ ◇
買ったら買ったで「最初にどれを着るのか論争」が勃発したものの、ここは一番無難なリーシャのチョイス、清楚な白ワンピースを選んで争いを収めた。
服屋の大きな姿見に映すと、やや幼げな金髪美少女が困ったような表情でこっちを見ている。
くそ、可愛いな。
照れくさい気分で目を逸らそうとすると、後ろに立った三人が揃ってにやにやして、
「ね、悪くないでしょ?」
俺はノーコメントを貫いた。
で。
「それにしても、なんだか下が開いていると落ち着きませんね……?」
ワンピースなので下部は当然スカート状になっている。
俺が女冒険者からもらった服は実用重視のズボンタイプだったので気にならなかったが、下がすーすーすると違和感がすごい。
女はこんなものを穿いていて恥ずかしくないのかと振り返ると、
「そう? ズボンだとトイレの時面倒じゃない?」
「フレア。ステラさんはいま下着を……。だからこのままだと寒いんだと思う」
「……そういえばステラはノーパンだった」
なんで俺がさらなる辱めを受けるのか。
「ね、この子の身体のサイズ測ってあげてくれる?」
「かしこまりました」
フレアの呼びかけに店員が答えて巻き尺を手にする。嫌な予感。
「あの、サイズと言いますと?」
「もちろん、バストとウエストとヒップですよ?」
「バストはトップとアンダーが必要」
やっぱりか!
「だ、だいたいのサイズでいいと思うのですが」
「だーめ。身体に合ったサイズが一番なんだから。ほら、脱いで」
カーテンで仕切られた空間で着替えたばかりの服を脱がされ、全裸のまま身体を測られる。
服を選ぶってこういうのじゃないよな?
カウンターに座ったおっさんから「冷やかしは御免だ」とばかりに睨まれながらサイズと丈夫さを確かめて、穿き心地と値段に納得できれば買う。
下着なんて安さ第一、股間のアレがずれないデザインなら御の字くらいだったのに。
店員から伝えられた四つの数字を俺は脳裏にしっかりと記憶(忘れたら都度測られるに違いない)して、
「まあ、ステラのサイズだとブラは必要ないかもだけど」
「恥ずかしがるステラも可愛かった」
おい。
◇ ◇ ◇
下着も結局三着買った。
こっちは消耗品だし冒険でも使うから、という主張が通ってある程度シンプルな品に。
ちなみに上の下着はキャミソール型の締め付けないデザインだ。
とはいえ、女子の下着というのはなんというか、それだけで魅力的な気がする。これが女子の身体を覆う、という空想がメインなのだろうが。
購入した三着のうちの一着、白いショーツに足を通すと、今の身体に密着し、綺麗にフィットするのがわかる。
……なるほど、これはなかなか。
股間のモノとさよならしたのは俺的にかなりの損失だったのだが、こうして無くしてみると「あれって相当に邪魔だったのでは?」という気もしてきた。
そもそもなんで急所が露出しているのか。……そういえば、前にフレアに蹴り上げられて悶絶したこともあった。
男の辛さにあらためて思いを馳せていると、エマに袖を引っ張られて、
「さ、次の店に行きましょう」
「あ、はい。装備ですよね。とりあえずバックパックと水袋、小型ナイフと火打ち石だけでも──」
「なに言ってるんですか、ステラさん」
買ってもらう手前贅沢は言えないものの、最低限必要な物を挙げていると、リーシャが不思議そうな顔で首を傾げて、フレアがその後を引き継ぐ。
「甘いものを食べに行くのよ!」
遊びに来たんじゃなくてパーティメンバーの装備を整えに来たんだよな?
◇ ◇ ◇
「……美味しい! わたし、パフェなんて初めて食べました」
喫茶店、という店は概して金がかかる。
ゆったり茶と菓子を楽しむという性質上、高級にしないと雰囲気を維持できないのだ。
その割に腹には溜まりづらい。
当然、俺はろくに利用したことがない。仕方なく来ても安いメニューを頼むのが常だったが。
到着するまでしぶしぶ、内心文句たらたらだったくせに、いざパフェとやらを口にしたら思わず笑顔が浮かんでしまった。
新鮮な果物とクリーム、焼き菓子のコラボレーション。
甘味をこれだけで一通り楽しめるとは心憎い。これは値が張るのもわかる。
なるほど、女子はこういうのの虜になるわけか。
甘いものには女子を引き付ける魔法でもかかっているのだろう。でないと単に俺が食わず嫌いしていたことになってしまう。
朝食も食べたというのについぱくぱくと食べ進めてしまう俺。
そんな俺を他の三人はにこにこと見つめて、
「口の中が冷えてきたら紅茶を飲むといいわよ」
「あ、なるほど」
砂糖を加えていない紅茶が口内を温め、一度さっぱりさせて再びパフェを楽しめるようにしてくれる。
これは、正直たまらない。
「甘いものを食べないなんて人生を損してる」
「忘れてしまっているだけなのかもしれませんが、こうしていろいろなことを経験していけば記憶も戻ってくるかもしれませんね」
もちろんフレアたちもそれぞれに甘いものを注文している。冒険者パーティの休暇とは思えないくらい華やかで和やかな空間。
……昨日ウォッカを一気飲みしていた奴も混じっているが。
「みなさんは本当に一流の冒険者なんですね」
「まあね」
俺の呟きに謙遜もせず胸を張るフレアも、冒険中は恐ろしく頼りになる。
俺はそんなこいつらに憧れていたんだ。
懐かしい気持ち。
「ステラもこれからはそんな私たちの仲間」
「一緒に頑張りましょうね、ステラさん」
笑いかけられた俺は、口の中の物を飲み込むと「はいっ」と返事をした。
もう一度、この『三乙女』と一緒に。
今度こそ彼女たちに「役に立っている」と言ってもらえるように──。
「さて。仲間も増えたことだしお仕事も教えていこっか。なにがいいかしらね?」
「ゴブリンはどうかしら? 最近また草原でよく見かけるそうよ」
「賛成。たまには初心に戻るのもいい」
「『
いくら魔物とはいえ弱いモノいじめすぎて可哀想な気がするぞ。
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