貞操逆転世界で幼馴染が本気すぎる〜護衛官の癖に俺を束縛する犯罪級ヤンデレなんだが〜

まちかぜ レオン

第1話 幼馴染は護衛官

 ここは貞操逆転世界じゃないか――そう思ったのは、数日前の朝。


 いつも通り高校に登校したとき、俺――重森しげもり颯汰そうたは異変を察知した。


 明らかに男子がすくないのである。登校中、目に入るのは、女子、女子、女子……。


 教室には、俺を含めた数人しか男がいなかった。男子だったはずのやつは、似た名前の女子になっていた。


 おかしい……。


 なのに、誰ひとりとして異変を指摘する様子がない。


 学校で一日を過ごし、悩んだ末に結論を出した。


 俺は、貞操逆転世界へと転移、もしくは転生したのではないか。それも、元の世界に限りなく近い世界に。


 貞操という常識が別物に書き換えられている。現状、間違っているのは世界の方ではなく、俺の方であった。




 * * *




「おはよっ、そーくん♡」

「んっ、なんだよ……」


 聞き慣れた声が、頭上から聞こえる。媚びと甘ったるさを感じる口調だ。


 いや待てよ。


 改変後の世界でも、俺はひとり暮らしのはず。


 万全のセキュリティ対策を施しているから、侵入者など現れるはずもないのだけれど。


 ゆっくりと目を開く。視界がクリアになってくると、俺は愕然とした。


 制服姿の女子が、俺の上に馬乗りしていた。


千夏ちなつ!? どうしてここに?」

「へへっ。来ちゃったっ」

「来ちゃった、じゃないだろ!? なぜに俺んにいる?」

「えへへ」


 我が家に不法侵入しているのは誰か。


 俺の幼馴染、芦沢あしざわ千夏ちなつである。


 ちょっと小柄で、端正な顔立ち。艶のある黒髪と、憂いを感じさせる魔性の瞳を持つ。


 要するに美人。付き合いの長さゆえ、表面上は気軽に接せるが、いまでも内心ドギマギしてしまう。


 小中高と付き合いは長く、高校二年の現在は同じクラス。疎遠になったこともない。


 よーく知ってるさ。


 だが。


「えへへと笑えば不法侵入が許されるとでも!?」

「そーくんと私の仲なんだし、気にしない気にしない」

「いやいやスルーできないよ!? なんで密室だったはずの我が家に? 軽く恐怖だよ?」


 俺が大袈裟にいってみせる。


 千夏は「しょうがないな」といって、馬乗りの体勢から脱して、ベッドの縁に座った。


「私がここにいる理由、教えてあげる」


 悪戯そうに微笑むと、すこし溜めてから、口を開いた。


「そーくんの護衛官に任命されたからです!」

「え、護衛官?」

「うん。その権限で、マスターキーを手に入れたわけ」


 護衛官とはなにか。


 男性を護衛することを職務とする女性のことだ。なれるのは、厳しい審査をくぐり抜けた一握りの女性だけである。


 護衛官は特定の男性とペアとなり、日々脅威から身を挺して守っている。いうならばボディーガードであり、監視役でもある。


 この貞操逆転世界では、女性の恋愛感情が男性に暴発してしまうことが問題となっている。


 女性は男性の四十から五十倍は存在しているという。圧倒的な男性不足により、競争は激化する。


 大半の「得られぬ者」が持て余した欲求をぶつける強硬手段に出るのを防ぐ。そのために護衛官というシステムが誕生した。


 軽率な行動などもってのほかであり、護衛官は厳しい規則のもとに活動している。


 そのはずなんだが……。


「おいおい、鍵の件はともかく、初日の朝から馬乗りするなんて常識外れもいいところだろ?」

「え? フィクションでは、幼馴染が馬乗りになって起こすのは鉄板なのに……」

「違う違う。護衛対象に馬乗りなんぞ懲罰案件じゃないか、って話だ」

「うん、だよね~」

他人事ひとごとすぎでは?」


 すれ違った会話をしている気がするな。


 護衛対象に過度に接近するなんてもってのほか。そして、護衛官を知り合いが務めるのも常識外れだ。ネットでは見かけなかったぞ。


 やはり、なにかがおかしい。


「大丈夫、私は飛ばされないから」

「心配しかないなぁ」

「信じられないの? 私だって無策でこんな真似をしたわけじゃないんだよ」

「わかったわかった、信じるよ」

「まぁいっか。いずれ確信できる日が来るから」


 思わせぶりな言葉は、心の奥底に引っかかった。いまはこの世界の千夏について詳しく知らない。まずは知ることから始めよう。


「いちおうだけど、朝食も制服も全部準備しておいたから」

「マジ?」

「だって私、護衛官だもん。護衛対象の世話を焼くのだって仕事の一環だもの」

「そ、そうか」


 千夏のいっていた通りだった。


 食卓の上には豪勢な食事が並んでいた。制服はしわひとつない綺麗な状態だ。


「すごい。本当に、千夏が」

「うん。いいでしょ? そーくんの専属メイドになれたみたいで楽しいよ」

「専属メイド……すごい響きだ」











【あとがき】


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