森
禁母夢
森
5月の爽やかな風が吹くとある金曜日のこと。
佐上悠は今日何度目かになるため息をもらした。
なんで僕ばかりこんな‥。
思い起こすのは憎いクラスメートのサタケ、ヤマダ、ニシオの顔だった。
4月1日が誕生日の一番の早生まれだった悠は幼い頃から同級生の中でも小柄で大人しかったので、からかいの対象になることがしばしばだった。
その日も三人に各々の持ち場の掃除を押し付けられ、一人で学校を出なくてはいけなかった。五月なのでまだ夕焼けも赤々としていたが、なんとなく心細くなってきた悠はそんな時は公衆電話から母智佐に電話して遅くなると伝えておくようにしていた。
そうすると智佐が心配して迎えに行こうか、と言ってくれるので悠はそれを心の奥底では期待していたのだ。
(あれ?)
その日公衆電話から自宅に電話しても誰も出なかった。
智佐は悠が帰ってくる時間を見越して家で迎えられるよう3時には終われる仕事をしていた。だから電話すれば智佐が出ることが当たり前だったのだ。
(どうしたんだろう?)
そう思いながら何となく、夕陽が落ちる前に家路を急いだ。
「ただいま」
玄関のドアを開いてからそう奥に声をかけても返事は返ってこなかった。
「ただいまー。お母さん?」
台所に入っても脱衣所にいても智佐の姿は見えなかった。
よく探しても智佐が家の中にいない事に気づいた悠はキッチンのテーブルに置いてある書置きに気づいた。
「朝、お父さんを会社に送っていったため、迎えに行ってきます」
それを見て今朝方、父が車のエンジンがかからないと智佐と話していた事を思い出した。
裕也は悠の住んでいる町から少し離れた町で仕事をしていたので車で通勤している。
その書置きをみて自分よりも父親を優先されたような気がした悠はなんとなくつまらない思いで、ランドセルを自分の部屋に置くと風呂の掃除を始めた。
風呂の掃除は別に悠のやることではないが、やっておくと母親が喜んでくれるために始めたことだった。
小柄な悠にとって深い風呂の掃除は少しばかり骨の折れる作業だった。
一通り終えて浴槽の泡を洗い流すと、悠はまくっていたシャツの袖を戻して脱衣所に戻った。その時洗濯機の横の籠に入っているあるものに気づいた。
それは本当なら見慣れているはずの智佐の身に着けていた薄らピンクの下着だった。
(何でお母さんの下着が‥)
沸き起こった違和感に悠は頭をフル回転させたが分からなかった。
いつも智佐は裕也と悠が風呂に入ってから最後に入っている。
下着はその時に脱いで、翌朝に悠が学校に行く頃には洗濯機で回っている。
実際悠が帰宅した時にこの脱衣所の籠に何かが入っている事はまずないのだ。無意識で悠はそれを手に取った。5月で6年生になった悠にとってそれが生まれて初めて触れた女性の下着だった。とはいえ母親である智佐は女性として意識するでもない存在だったためそれは本当に何の気もなしの行動だった。
(暖かい‥?)
それはかすかに人肌の温もりが残されていた。
悠の脳裏に下着を脱ぎ去っている智佐の姿がなぜかふっとフラッシュバックするように浮かぶ。
無意識下の内に悠の幼いモノは固く尖るようにズボンの前を膨らませていた。
悠はそっとその下着を持ちだすと自分の部屋に戻った。
もどかしく短パンと下着を脱ぐと右手をモノに添えて、左手で母の下着を顔に押し当てながら自慰を始めた‥。
自慰は5年生の冬にあの三人組から教わった。
まれに三人組と行動を共にする(させられる)こともあった悠は初心で、三人組からそんな事も知らないのかといって、やり方をおしえられてから自慰を三人の前でさせられたのだ。その悔しさを悠はきっと大人になっても忘れないだろう。
だが、悠は覚えたてのその感覚が強烈に残って時折自慰をするようになった。
(お母さん‥)
悠は何となくその下着を手にしたに過ぎない。
智佐の、というより大人の女性の下着としてそれが欲しかった。
だが実際に悠が自慰を始めると智佐の匂いを感じ取ってしまって嫌でも智佐の顔が思い浮かんでくるのだ。
おかげでそれから20分ほどしてから両親が帰ってきたが、夕飯の時も悠は智佐の顔をよく見れなかった。
その夜布団の中で悠は何となく母智佐のことを思い出した。下着から感じた智佐は母であって、母ではない違う面を見せられたような思いにさせられた。
智佐は大人しい悠と違ってけっこう活発な性格だった。PTAもやっている。友達のお母さんと比べてもちょっとだけ背が高いし、‥美人な方だとも思う。
それから夕方に帰宅すると智佐の下着を持ち去っては自慰することが増えるようになった。
月曜日からまた憂鬱な日々が始まった。
5月の空は晴れ渡っていたが、相変わらず悠の心は重く一足先に梅雨に入ったように沈んでいた。
放課後また悠はいつものように三人組に掃除を押し付けられて、一人で体育館裏の清掃を始めた。
本来体育館と校舎の渡り廊下だけだった悠の清掃範囲は一人でやるにはあまりに広くなる。
しかし、悠の頭の中は母智佐のことで一杯だった。
優しい母、時に怖い母‥。
6年生に上がったこの春に悠は自分の部屋をもらって親と一緒に寝なくなった。
これまでずっと両親と川の字で寝ていた悠にとって一人で寝ることは自分の部屋をもらえる喜びよりも寂しさが勝っていた。学校での辛さもあったのかもしれない。
まるで急に自分を助けてくれる人がいなくなったような気がして悠はどうしても智佐が気になるようになっていった。
6月の終わり際には辛い事があった。
雨が降り続いた一週間の後で、ずっと外で遊べなかったフラストレーションがたまっていたのだろう。
悠は三人組に強引に遊びに連れだされると隣町の線路脇にあった廃車場で、乱暴な自転車レースをした。
モトクロス気取りでタイヤが外されている廃車のシャシーを登ろうと言われて、悠は嫌だったが仕方なく従った。
四台目に連なった悠の自転車の前輪が車のボンネットに乗り上げたと思った瞬間、雨で濡れていた車体の上でタイヤが滑って悠は自転車ごと転落した。
一瞬何が起きたかわからなかった。
テレビの緊急映像のように視界が揺れてドッと地面に落ちた衝撃が強烈に響いて全身が痺れたように動かなくなっていった。
意識を失った悠を見て慌てた三人組はすぐに周りの大人に救急車を呼んでもらったが、地面に激突した時に左腕を骨折してしまったようだった。
智佐は悠があっていたいじめの詳細を病院で知った。
さすがに責任を感じたのだろう三人組がそれぞれ母親を伴って謝りにきた時になってようやく気付いたのだ。あるいはどうやって事故が起きたのか教師に聞かれて白状せざるを得なくなったのかもしれない。
その時になって智佐は自分の無理解に呆れ、悠に辛い思いをさせてしまっていたことを始めて知った。
「僕の不注意でごめんなさい‥」
自分が大けがをさせられたのに、それを隠そうと自分に謝ってくる悠を見て智佐は胸が締め付けられるようだった。
2週間ほどで悠はとりあえず退院する事になったが、息子の潤んだ瞳を見た智佐は勤めていたパートを辞めて、しばらくは息子と一緒に時間を過ごしてやろうと心に決めていた。
退院しても悠には何もすることがなかった。
片手が使えないので、ゲームも出来ない。
やがて7月になり夏休みに入っても悠のケガはまだ治らなかった。
みんなは毎日家族や自転車で遊びに行っている悠を見て智佐はなお可哀想に思った。
「二人でおでかけしようか」
そういって智佐は悠を伴って繁華街まで行って映画を見ることにした。
悠の好きだったアニメ映画だったが、智佐はいつも悠と一緒に見るようにしていた。
それから気晴らしのために智佐の運転する車で少し遠出することになった。
悠はようやく少しだけ塞いでいた心の雲が取り払われるような気がした。
智佐の運転で遠出ということも珍しいことだった。
遠出の時はいつも父がいて、父の運転で、というのが当たり前だったからだ。
7月平日の国道は空いていて智佐の運転は知らず知らずの内に隣県に入っていた。
悠は智佐がどこに行こうとしているのかちっとも分からなかった。
車はいつしか人気のない山の合間の道路を縫うように走っていた。
やがて車は他にほとんど車が止まっていないドライブインに入っていった。
車を駐車場の端っこに停めても降りようとしない智佐を見て悠はどうするんだろうと思った。
「ねぇ、悠‥」
「うん、なぁに?」
無邪気な悠の表情を見て、智佐は固めていた決意が何か邪悪なものでさえあるように思えていた。
それでも。
悠はたしかに早生まれという事もあるだろうけど、同年代の子供と比べて引っ込み思案が過ぎると思っていた。
今回の事は可哀想には思うけれど、貴方のために、貴方にもっと自信を持って強くなって欲しい。
そこまで話されていても悠には何を母親が自分に言いたいのかちっとも分からなかった。
「悠‥最近お母さんの下着に、‥何してるの?」
その時悠は急に怒られるような気がして、びくっと身体を震わせた。
しかし一言も声を発する事も出来ない息子の様子を見て、智佐は全てがわかってしまった。
大人しい悠、可愛い悠。
そんな悠が自分の下着を持ち去っている事に気づいたのは最近のことだった。
やはり子どものすることだから油断もあったのだろう。
ある時悠は持ち去った母親の下着を元の籠に戻し忘れてしまったのだ。
智佐は息子の部屋で見つけた自分の下着を見た時に悠が学校であっていたいじめを知ってからずっと心の中で温めていた思いを打ち明けようと決心したのだ。
車はドライブインを出てから少し走ると小道に入っていった。
轍もない本当の山道だったので車ががたがた揺れた。
やがてかすかに風が木立を揺らす音と鳥の鳴き声しか聞こえないくらいに入り込むと古い材木置き場があったので、そこに車が横付けされた。
「お母さん‥」
泣き出しそうな息子の表情を見て、智佐は自分の判断は間違っていなかったのだと思いこもうとした。
優しい母の声を聞くとまだ自分は子供なのにこんなことをしていいのだろうかという漠然とした不安も和らいでくる。
エンジンを止めると急に静かになった車内に悠は緊張を覚えた。
二人で車を降りると後部座席に乗り込み、運転席と助手席のシートを目いっぱい前に移動
させた。やがて智佐は着ていた薄手のブラウスを脱ぎだした。
豊かとはいえないがまだ整った形の乳房が現れた。
それから腰に手をかけ、スカートのベルトを緩めるとホックを外して下着姿になった。
悠の視線を感じて恥じらいを感じたのだろうがはにかむように微笑むと下着まで脱ぎ去り、やがて生まれたままの姿になった。
「悠も脱いで‥」
そう言うと悠の胸元に手をかけてギプスに負担をかけないように優しくシャツを脱がせていった。
白く華奢な悠の肌が露わになると智佐はそっと抱き締め、儚くも感じられるその抱き心地を噛みしめるとそっと指を自らの秘所に這わせて潤いを与えようと弄りだした…。
バタムッ!
音を立てて車のドアが閉じられる。
悠は智佐に手を引かれるままに材木置き場脇に流れている小川に向かって緩やかな坂を降りて行った。
「ふぅ‥気持ちいいね」
手頃な大きさの岩に腰かけて素足を浸すとたしかに心地よい。
軽く頬が赤く上気していた智佐も額の汗を拭ってまたその手を川に浸した。
悠もそっと川の水をすくって喉を潤してみる。
喉を鳴らしてふと見ると目の前にいる女性は確かに自分の母親智佐だった。
肩まである短めの智佐の少し染めた髪が夏風に揺れている。
二人とも衣服は既に身に着けていた。
悠はぼんやりとさっきまでの母親の裸体を思い起こしていた。
一緒にふろにはいっていた時と同じ見慣れていたはずの母のはずだった。
しかし夏の日差しの入り込む車内で見た母の身体はまったく違う「女」の身体に見えた。
気づくと太陽は傾き始めていた。
それでも今から帰っても父が帰ってくるまでに家に着けるだろう。
二人はタオルで濡れた身体を拭くともう一度坂を登って車に乗り込んだ。
沈み始めた太陽の輪郭が山の稜線にかかると急に帰り道が暗くなり、夏の夜がやってきた。
完
森 禁母夢 @kinbomu
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