9・まねかれざる客
偽の妙子に促されるがまま、錆びたドアノブに手をかけると力を込めて扉を開く。
室内は薄暗く、所々に蜘蛛の巣が張り巡らされていた。
一歩足を踏み入れると床はギシッと音を立てて深く沈む。
「このまま前進すると床を破壊しそうなんだけど……」
今にもすっぽりと穴が開いてしまいそうな床に怯え、前進することを躊躇っていると偽の妙子の表情から笑みが消えた。
「進んでくれなきゃ困るのよ」
真剣な眼差しを向ける偽の妙子は必死なのだろう。
「お願いよ。私が幽霊だと分かると皆逃げていっちゃうんだもん。怖がらずについてきてくれたのは君が初めてだから……」
両手でしっかりと腕を握りしめる。
俺が身を翻しこの場から逃げ出すことが出来ないように先回りをした偽の妙子に腕を引かれることで強制的に建物の奥へ引きずり込まれる。
俺の返事を聞く気は無いらしい。
「兄に学校近くの洋館にいることを伝えたい。連絡をいれるくらいしてもいいだろ?」
ポケットの中にしまっていた携帯電話を取り出しながら、偽の妙子に問いかけた。
「迎えを頼むの? まぁ、用事はすぐに終わるからいいわよ。先に連絡をしときなさいよ」
偽の妙子から許可がおりたため、文字を打ち込んでいく。
送信ボタンを押した所で二階へ続く階段に足を踏み入れると、同時にバキッと音を立てて床に穴が開いた。
「…………」
無言のまま、ぽっかりと穴の空いた床を見つめると、眉尻をさげていた偽の妙子がケタケタと声をあげて笑いだす。
「随分と可愛い反応をするじゃないの! 唖然としちゃって……驚いたのね」
人が驚き唖然とする姿を可愛いと言った偽の妙子に頭を撫でられた。
「何故か私は貴方に触れることが出来るから、もしも貴方の身が危険に晒されたら助けてあげるわよ」
だから、先へ進みましょうと言葉を続けた偽の妙子に背中を押される。
一歩足を踏み出すごとにギシギシと音を立てる階段は所々腐っているように思える。
「もう少し! もう少しで階段をのぼりきるわよ!」
偽の妙子に腕を引かれているため先へ進む以外の選択肢はない。
二階フロアに近づくにつれ偽の妙子が嬉しそうにはしゃぎ出す。
「目的地は階段をのぼってすぐにある鉄格子の向こう側。何が見える?」
残り一段。階段をのぼりきった先にある鉄で出来た……なんだろう。
格子状の構造物がある。
「何が見えるって、何も無い……ん? いや、
暗闇の中、壁に背を預けるようにして眠る、長い金色の髪の毛が印象的な人形が整った呼吸を繰り返している。
「あ? 呼吸をしてる?」
「えぇ。そうなのよ」
偽の妙子の目的地にいたのは鉄格子によって室内に閉じ込められている、年齢は多分俺と同じくらいだろう……女子高生だった。
「いつから閉じ込められているんだ?」
ぐったりとしてはいるけれど意識はあるようで
「ねぇ……君さぁ、一体誰と話してるの?」
閉じていた目蓋をうっすらと開けた女性には偽の妙子の姿は見えていない。
俺が独り言を話していると勘違いしたようで僅かに首を傾げている。
「あ……なぁんだ。君もそいつの仲間ね」
しかし、すぐに結論は出たようで肩を落とした女性がため息を吐き出した。
ひんやりとした腕が首に巻き付けられ、突然首を締め付けられる感覚に襲われ呼吸が止まる。
咄嗟に腕に爪を立て、強引に引き剥がそうとするけれども指先にうまいこと力が入らず、一歩足を引こうと試みるものの後退を背後にいる人物に阻まれる。
偽の妙子は両手を口元に押しあて目を見開いている。
俺の身に危険が迫ったら助けてくれるといっていたけれど、驚き全く身動きがとれていない。
うまく呼吸が出来ずに意識が遠退く。
もしも、このまま意識を失えば監禁中の女子高生を見てしまったため命の危険もある。
「えっと……」
背後を陣取る人物の力に負け、大きく体がのけ反った所で戸惑っているのだろう。小声で声をかけてくる人物がいた。
普段表情に張り付けてる笑みを取り外し、兄の携帯電話を握りしめる青年が困ったように眉尻を下げている。
偽の妙子に驚き逃げ回っている間に携帯電話を落としてしまった兄のかわりに、女子生徒から絶大な人気を誇る理人が古びた洋館へやって来た。
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