自由を求めて③ (ディニー)


「そんなっ!? キオード! キオード!!」


 ディニーは必死の形相で瓦礫の元へと駆けつける。

 もし、万が一にでもキオードが死んでしまったら、ディニーは大げさではなく全てを失ってしまう。


 ディニーがビャノス辺境伯の目に留まったのも、騎士団に所属するチャンスを得られたのも、全てはキオードとの召魔契約があったからだ。

 そうでなければ、女だてらに剣を多少上手く使えたところで、体力も腕力も上回る男性の志願者たちを差し置いて騎士団に入れるわけがない。


「お前がいなくては、私は、私はっ!!」


 ディニーとキオードは、彼女が生まれたときから契約が為されていた。理由は彼女自身にもわからない。

 契約は召魔一体につき一度限り。

 もしキオードを失ったら、ディニーは新たな召魔と契約をしなくては召魔士を続けることができなくなってしまう。だが、大召連たいしょうれんから上級の召魔士を呼べるほどのお金は持っていないし、よしんば召魔契約の儀式をできたとしてもキオードのような優秀な召魔と巡り合えるとは限らない。


「ウソだ! キオード、返事をしてくれ。キオード!」


 先ほどまで対峙していた、リベルタ王女とその召魔は、きっともうこの屋敷から出ていってしまっただろう。だが、もうどうしようもない。

 ただの人間であるディニーが、キオードすら倒してしまう召魔に勝てる道理などない。キオードが倒された時点でディニーの負けは決まったのだ。


「くっ! んんんんっ」


 積み重なっている瓦礫をどかそうと、全力で力を籠める。だが、瓦礫はぴくりとも動かない。我が身の非力さを呪いながら、ディニーは叫ぶ。


「誰か! 誰か手伝ってくれ!!」


 今、屋敷の詰所にはほとんど騎士がいない。

 優秀な騎士は全員、ビャノス辺境伯が護衛として連れていってしまった。


 使用人たちは期待できない。荒事は騎士や兵士の領分であって、彼らがこのようなときに率先して表に出てくることはない。


「キオード……。まだ繋がってる……だけど」


 今はまだ、ディニーの中にあるキオードとの繋がり、契約が残っているのを感じる。しかし、いつものように強い反応ではない。このままでは瓦礫によって圧死してしまうかもしれない。


「今! 今、助けてやるからなっ!!」


 瓦礫を引き上げようと、もう一度力を入れる。

 すると、さっきとはまるで違う手ごたえがした。

 ディニーの意思とは関係なく、瓦礫はふわりと上がっていくと、やさしく地面に置かれた。


「なっ!? バカな……」


 いつの間にか、隣に外套を着こんだ青い召魔が立っていた。

 そいつはまるで紙でも扱っているかのように軽々と瓦礫を持ち上げ、ひょいひょい横にどかしていくではないか。


 まさかキオードにトドメを刺しにきたのでは。

 反射的に、剣の柄に手を掛けたディニーの背に、よく知っている声が届いた。


「変な真似はしないで。キオードは絶対に助けるから」


 このセリフを言ったのがリベルタ殿下でなければ、ディニーも信じたりはしなかっただろう。だが、ディニーはリベルタ殿下がどういう性格か、よく知っている。


(相変わらず甘いお方だ)


 剣の柄に掛けていた右手を、ゆっくりと下におろす。

 いずれにしても、ディニーに勝ち目などない。


 ここで剣を抜いたところで、横にいる召魔を殺せるわけもなく。

 当然ながら、リベルタ殿下に傷をつけるわけにもいかない。 


 先ほどの戦いにしても、さっさと召魔を倒してしまうことで、リベルタ殿下には脱走を思い留まって頂く――か、もしくはビャノス辺境伯が戻るまで彼女を屋敷に留めておく――ことがディニーの狙いだった。


 リベルタ殿下はオルゴー王国に残された唯一の王族であり、これからクイスタ皇国の皇子との結婚を控える身。ディニーごときが、彼女に傷の一つでもつけようものなら、首を斬られたっておかしくないのだから。


 それから三つほど大きな瓦礫をどかしたところで、下にキオードが横たわっているのが見えた。


「キオード!」


 ディニーは近寄って手を伸ばし、キオードの身体に触れる。

 まだ温かい。キオードはぐるぐると喉を鳴らすと、ディニーの影の中へと帰っていった。


 召魔は、自身と契約している召魔士の影の中で休息し、戦いで負った傷を癒す。

 多少のケガであれば、二、三日で回復するのがが、今回の傷が癒えるまでには数週間、いや数ヵ月かかるかもしれない。だが何より、生きていてくれたことが本当に嬉しい。


 ディニーは召魔を挟んで立っている、リベルタ殿下に問う。


「なぜ、ですか? どうして、キオードを助けたのです。さっさと逃げてしまえば良かったではないですか」

「私だって、キオードを殺したいわけじゃない。もちろん、ディニーのことも」


 深いマラカイトグリーンの瞳が、まっすぐにディニーを見ていた。


「相変わらずですね、殿下は。王家の方にとって、私のような貧民出の騎士なんか、何人殺したところでいちいち気に留めるようなことではないでしょうに」

「そんなものが王家だというなら、やはり私には向いていないよ」


 ディニーは、苦笑を浮かべるリベルタ殿下の後方に目をやり、小さく息を吐いた。


「ふぅ……。ですが、やはり殿下は甘すぎます。そんなことを言っているから、折角のチャンスを失うんです」




§  §  §  §  §  §  §


 ストーリーも最終盤。

 このあたりになるとプロットはあってないようなものですね。

 どう見せたら胸アツになるか、うんうん唸りながら書き進めてます。


 それでは、またあとで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る