黒い召魔士④ (オヅマ)


 山林の奥から、黒いプレートメイルに身を包んだ騎士がゆっくりと姿を現した。

 飾り気のない無骨な大剣を抜き身で持ち、一歩、一歩、地面を踏みしめて歩く。


 男なのか、女なのか。

 若者なのか、壮年なのか。

 一切の情報を隠すように、全身を余すところなく金属で覆った黒い騎士。


 黒い騎士が動く度に、ガシャリと重たい金属の音が空気を震わせる。


「貴様、何者だ!? 皇国の騎士か? 騎士ならば名くらい名乗れ!」

「………………」


 ディニーが剣を抜いて問うも、黒い騎士が口を開く様子はない。

 再びガシャリと音を立て、黒い騎士はさらに足を進める。


「それ以上、こちらに近づいたら斬るっ!」

「………………」


 返事の代わりに、ガシャリ、ガシャリと金属の触れ合う音だけが戻ってくる。

 まるでディニーの声など聞こえていないかのように、黒い騎士は一向に歩みを止めない。


 ガシャリと再び金属の音が聞こえたその瞬間、ディニーの足が地面を蹴り、身体は凄まじいスピードで前方へ跳んだ。


 ディニーが剣を上段に掲げ、勢いよく振り下ろす。

 対する黒い騎士は片手で大剣を振るい、これを斬り払った。


 その様子をヴェリタ王子が目を丸くして見ている。


「なんというパワーだ。あんなに大きな剣を……片手で軽々と」


 確かに黒い騎士の膂力りょりょくには目を見張るものがある。

 だが、それだけだ。モンスターと共に戦う召魔士を相手にするには物足りない。


 それくらいは、敵もわかっているハズだ。ならば――。


 ヒョウと風を切る音。

 オヅマは胸元からダガーを抜き、飛んできた矢を斬り払う。


「だよなぁ。ダヴァンティ!」


 オヅマは相棒を影から呼び出した。


 強力な駒で護衛を引き離し、ヴェリタ王子を直接狙う作戦らしい。

 オヅマがいなければ成功していたかもしれないが、そうは問屋が卸さない。


 再び、風を切る音。

 ヴェリタ王子を狙った矢を、再びダガーで斬り払う。


 矢が飛んできたのは、先ほどとは別の方角だ。

 さらに二発、三発と続けて矢が飛んでくる。


 今度はダヴァンティが戦斧せんぷで矢を払った。


「おいおいおい。いつの間にか、囲まれちゃってんじゃねえか」


 とはいえ、それほど数が多いわけではなさそうだ。

 黒い騎士に加えて、数人の弓兵といったところか。

 少なくとも、矢衾やぶすまを作れるほどの人数は揃っていないらしい。


 矢が飛んでくる方へダヴァンティを向かわせ、弓兵を直接始末することも考えたが、どれくらい離れているかわからない。

 召魔と召魔士は、一定以上の距離を離れることができない制約があるため、あまり無茶な行動を取るのははばかられた。


 向こうが矢を放ってくるだけなら、それを斬り払って王子を守っていればいい。

 オヅマはダヴァンティに周囲を警戒させつつ、間断なく飛んでくる矢を防ぎながら、ディニーの戦いを見守ることにした。


 キオードをび出したディニーは、オヅマが予想した通り相手を圧倒していた。

 大剣を振り回す黒い騎士と、軽やかな動きでそれを避けるディニー。

 敵の大振りの隙を狙って、爪を繰り出し、体当たりを喰らわせるキオード。

 白い虎の巨体が、黒い騎士を身体ごと吹っ飛ばす。


 だが、戦いの経過は予想と違う展開を見せた。


 度重なる衝撃で、黒い騎士のプレートメイルの表面は至るところが凹んでいる。

 それなのに、どれだけ吹っ飛ばされても、地面に転がされても、黒い騎士は平然と起き上がってくるのだ。


 痛みを堪える様子はなく、疲れも一切見せない。

 ただ淡々と、ディニーとキオードに向かって、からくり人形のように大剣を振り続けている。


 生身の人間ではありえないスタミナ、耐久力。

 鎧の中身はおそらく……。


 オヅマの考えたとおりなら、ディニーとキオードでは相性が悪い。

 このまま続けてもダラダラと戦いが続くだけだ。


 だが、相手はディニーだ。

 オヅマが「代われ」と言って、素直に代わってくれるとは到底思えない。


 一考したオヅマは隣を見て、ニヤリと笑みを浮かべた。


 良いアイデアが思い浮かんだ。あとはタイミングだ。

 ディニーが黒い騎士から距離を取った瞬間、ダヴァンティが隣に立っていた人物の後襟ぐりを掴んだ。


「おい! 受け取れ!」

「ハァ、ハァ、ハァ。なにを……っ!?」


 まるでボールを投げるかのように軽々と高く、それでいて羽根のようにやさしくフワリと――ヴェリタ王子の身体が月夜を舞う。


「え? え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 自分の身に何が起こったのか、脳が処理するまでに時間を要したのだろう。

 一拍遅れて、ヴェリタ王子の悲鳴が上がった。


「貴様! 殿下になんて真似をっ!?」


 首尾よくヴェリタ王子をキャッチしたらしいディニーが、後ろでいつものように文句を言っている。オヅマはその声を無視して、相棒に指示を出す。


し斬れ。ダヴァンティ」


 一陣の風が、山林を疾走はしった。

 瞬く間に黒い騎士の前へと躍り出たダヴァンティは、戦斧を下から上へ旋回させつつ跳びあがる。


 遠心力を得たダヴァンティがぐるりと前に回転し、戦斧は黒い騎士のプレートメイルに直撃した。そのままプレートメイルの板金を力任せにしこんでいく。


 戦斧は、黒い騎士の胸元までめり込んで止まった。

 それでも腕を動かそうとする黒い騎士だったが、当然ながら人体はそこまで万能にはできていない。


 どうにかして動こうと、身体を震わせる黒い騎士。

 胸元から引き上げられたダヴァンティの戦斧が、その首を一閃のもとに刈り取った。さらに右腕、左腕と斬り落としたところで、ようやく黒い騎士は動きを止めた。


 地面に転がった頭部からはヘルムが外れ、中身が露出している。

 それは人の頭には違いないが、すっかり血の気が失せており、肌は黒土のような色をしていた。


「死体遊びかよ。はっ、いい趣味してるねえ」


 オヅマが山林の奥の闇へと声をかける。

 返事はない。その代わりと言わんばかりに、クイスタ皇国の鎧を着た軽装兵が木々の間から飛び出してきた。


 先ほどの騎士とは違って顔が白い。

 死んでそれほど時間が経っていない新鮮な身体を使っているのだろう。

 恐らくは、さっきまでヴェリタ王子を追っていた兵士たちの亡骸。

 


「いち、に、さん、し、ご。質より量が悪いとは言わないけどよ、もうちょっと質にもこだわった方が良いと思うぜ。なあ、ダヴァンティ」


 そう言って相棒の方に目をやると、すでにダヴァンティは疾風かぜとなって飛び出していた。




§  §  §  §  §  §  §


 月曜日なのに「おむすび」やってませんでした。

 次回放送は年明け1月6日だそうです。

 なんで私はあとがきでテレビ番組の告知をしているんでしょう。

 それでは、また明日。

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