夕日が綺麗だったから

羽山涼

第1話<完結>

夕日が綺麗だったから。

だから、私は死んだのだ。


毎日上司に怒られているからじゃない。

毎日残業で朝帰りしているからじゃない。

やりたくもない仕事を延々と続けているからじゃない。

彼氏に別れを告げられたからじゃない。


ろくに睡眠もとれなくて、

食事も喉を通らなくて、

眩暈が酷くて、

吐き気がして、

何もなくても涙が出るけど、

それが理由なんかじゃない。


少し休憩をしようと思って、

缶コーヒーを一本買って、

屋上に出た。


そうしたら、ビルの隙間から見える夕日がとても綺麗だったのだ。

雲の隙間から差し込む光がとても美しかったのだ。


飲み干した缶を屋上の床に置いて、

屋上の柵を上って、

迷わずに手を離したのはついさっき。


今が朝だったなら、朝日の中に飛び込んだだろうか。

否。

今が夜だったなら、夜景の中に飛び込んだだろうか。

否。

答えは、否だ。


だって、夕日が綺麗だったから、

私はただ飛び込みたかっただけなのだから。


私は夕日の中に飛び込んだけれど、

夕日は私を受け止めてはくれなかった。


夕日の中に飛び込んだ私は、

ただ屋上から飛び降りただけの人間となって、

地面に叩きつけられて死んだだけだった。


勘違いしないでほしい。

私は別に死にたかったわけじゃない。

死にたいと思ったことなんて一度も無い。


夕日が綺麗だったから。

だから、私は死んだのだ。

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夕日が綺麗だったから 羽山涼 @hyma3ryo

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