第6話「最強新米冒険者誕生の予感?」

「身分証の無い者の通行料は一人5銅貨だ」


うん、テンプレ。やっぱりいるんだね、街へ入るためのお金。観光地とかの入場料みたいなもんかな。


5銅貨の価値はわからないが、ただはっきりしているのは……俺は無一文。どうしようかと悠也の顔を見ると悠也も困ったようにポケットを弄った。


「今は金貨しかない」


そう言って金色のメダルを門番に手渡した。


「金貨か……釣りは銅貨混じりでいいか?」


面倒そうに頭を掻きながら門番は釣りを用意してくれる。ジャラジャラと大量の銅のメダルが悠也の手に渡されて、悠也のポケットが膨らんだ。


「ありがとう、お前は金を持ってたんだな。城の奴らからの手切金的なのか?」


「やっぱり城の宝物庫だと銅貨とか銀貨なんてなかったや。金貨は日常では使いづらいね」


門から離れながらお礼を伝えたのだが……あ、こいつ食糧庫だけじゃなく宝物庫の中身まで盗んできたな。


召喚に関わることは全て俺が寝ている間に終わっていたので見ず知らずの国の食料や財産の事について、実感も罪悪感も湧かず……その国はもう終わってしまうんだろうなと他人事の様にぼんやり感じただけだった。


「家宝的な剣とか宝飾類は置いてきたよ。あくまで金貨だけ」


デザイン性の高いものは足がつくからか、強かなやつめ。


「おおっ!!すごいな!!本当にゲームの世界に入り込んだみたいな感覚になるもんだな」


門から少し離れると、商業区なのか住宅区なのかわからないけどファンタジー感満載の建物が立ち並んでいる。

キョロキョロしている俺の手を……悠也が握ってきた。


「とりあえず冒険者登録しに行こうよ。あれだよね、冒険者ギルドとかに行けば良いんだよね?」


「お……おう」


今まで一緒に帰ったり行動を共にしてきたが、こんなお手手繋いで、なんていつぶりだ?


羞恥心と戦いながら目的の場所もわからず歩いてみると、噴水のある広場に幾つかの屋台が出ていて、それぞれから良い匂いをさせている。


パンしか口にしておらず、肉の焼ける匂いにお腹が鳴ると、共鳴するかのように悠也のお腹も鳴る。


「ギルドに行く前に何か食べていこう。あの匂いは凶器……」


鑑定で『鳥(ケーケー)の串焼き』と出た肉の串焼きはかなり大ぶりで一本2銅貨だった。脂が乗っているのか、滴る脂が薪に落ちてジュージューと心地よい音と共にいい匂いを充満させる。


「串焼き2本お願いします」


こう言う時、注文するのはいつも俺の役割だったので自然な流れで注文をする、払うのは悠也だけどな。


「あいよ!!今焼けるから待っててくれよな」


屋台の親父さんは気さくな笑顔を向けて、焼き鳥としてはかなりデカめな肉の刺さった串をくるくる回していく。


「冒険者を夢見てやってきたんですが……冒険者になるにはどうしたら良いですか?」


待ってる間にこのおじさんなら軽い情報取集もできそうだと話しかけると、丁寧に冒険者ギルドへの道を教えてくれた。


「冒険者になっていっぱい稼いで、たくさん買いに来てくれよな」


エールと共に串焼きを受け取って悠也と一緒に頬張る。

香ばしい焼きたての肉というのはそれだけで美味いもんだ、もう少し塩胡椒が効いてくれてても良いんだけど、それでも十分に美味い。


パリッと焼けた皮と弾力のある肉、噛み締めるごとに皮と肉の間から脂が溢れ出ししっとりした食感の肉と混ざり合った。


「ゆうちゃんと食べるのがやっぱり楽しい」


この世界の食事はあまりと言っていた悠也も美味しそうに食べている……まぁ気心の知れた相手との食事の方が美味いよな、うん。


「悠也も聞いてたと思うけど、冒険者になるのに必要な登録料は一人5銀貨だってよ。んでステータスの確認とかはないみたいだな。とりあえず登録できるFランクの冒険者証では通行料の免除にはならないみたいだ」


親父さんから聞き出した情報を再度悠也に確認して……恥ずかしい話、登録料出してねって確認だ。


教えてもらった冒険者ギルドの建物へと向かうも、なかなか冒険者っぽい人とはすれ違わない。時間帯のせいだろうか?

本当に道が合ってるのか不安に思いながら進んでいくと、情報通り赤い屋根の増築に増築を重ねたような不思議な建物が見えてきた。


冒険者という職業が世に認められてないうちからある老舗らしいので、冒険屋という存在が成長してきた軌跡でもあるらしい。


恐る恐る扉を開けて中を覗く……建物内にもそんなに人はおらず、ギルド職員と思われる人の方が多い。先輩冒険者からの洗礼とかは気にしなくても良さそうだ。


それを確認してから中へ入って、空いてる受付の窓口へと向かった。受付待ちの番号札とかないよな、余計なトラブルはごめんだ。一応軽く確認してから受付のお姉さんに声をかけた。


「あの、冒険者登録をお願いしたいんです」


「登録登録ですね。それでは規約をよく読み、この用紙に記入して提出してください」


顔もろくに合わせないまま書類を渡される……なんだこのお役所感。

文句を言う勇気などないので、記入台へ向かい二人で記入していく……といっても名前と出身地と生年月日だけ。


「出身地とかなんて書けば……」


先に書き終えていた悠也の用紙を覗くと名前の欄は『ハルヤ』出身と生年月日の欄には『不明』とだけ……え?いいの?そんなもんでいいの?

悠也に倣って、名前だけ記入をしたんだが……。


「はい、ハルヤ様にユウセイ様ですね。登録料はお一人5銀貨……どうぞ、こちらが冒険者証になります」


なんてあっさり!!驚くほど簡単に冒険者に慣れてしまった。


「冒険者は入り口は広いですが、上へのぼり詰めようと思うと、とても過酷な道ですよ。気を抜かずに励んでください」


誰でもなれるなら大したことないのではと思ったのが顔に出ていたのか、急に受付嬢から忠告を受けた。


規約によると、冒険者としての優遇を受けられるのはDランクからとのこと。

冒険者が受けられる優遇は、身分証として使え各都市への通行料が要らなくなる事と素材の解体料が無料になる事だ。他にも提携する宿屋や飯屋での割引などもあるみたいだけどこの二つが大きいだろう。


懲罰も細々書かれているが、まともに生きていいれば禁止時効に触れることのないようなものばかりだった。


「まずはDランクを目指さなきゃな」


冒険者証として渡された板にはFランクと大きく書かれていた。

Eランクへは依頼数や継続年数で上がれるらしいが、Dランクに上がるためには決まった依頼を達成させなければいけない。


その内容はその時々で変わるらしく、その時の被害状況や諸々を加味して決められる。


今提示されている課題は『モウブレーパス』という魔物の討伐だ。こいつを討伐できたら、Fランクだろうが登録したばかりだろうが関係なくDランクへ上がることができるらしい。


「早くDランクにはしたいよね。いちいち門番に止められるの面倒だし解体とか面倒なのはお願いしちゃいたいよ。野営用の道具揃えてさ、モウブレーパス狙おう?」


悠也がやる気になってるならまぁ簡単に終わらせられそうだな。なんたって大賢者だもんな。


「とりあえず今日は宿屋探して休んで……明日から本格的な計画を立てようぜ」


今日は結構歩いてきたと思う。

宿屋でぐっすり休みたいものだ。


街行く人に冒険者ギルドで聞いておいたおすすめの宿屋は食事付きだったんだが……まぁ、イカツイ顔の人達がガヤガヤワイワイ賑やかで味もよく分からないままそそくさと部屋へ戻った。


今日は安眠したいからな、無理言って別々の部屋にしてもらったので、ぐっすり眠れるはずなのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る