第5話「冒険者登録をしよう」
何故か?俺に合わせたのか、高校の制服にわざわざ着替えた悠也と平坦な道、どこまで行っても変わり映えしない道をポテポテと歩いている。
冒険というよりも下校のようだ。
「この世界の食べ物って日本とそんなに変わらないのか?不味かったりする?」
「不味いって事は無いけど、どれも同じような味だった」
小麦やじゃが芋って名前だから料理もそんなに違和感ないのかと思ったのだが、バリエーションは少ないみたいだ。不味くはないってのは助かるけど……三日間同じものを食べ続けても平気な悠也が不満そうなので、あまり期待はしない方が良さそうだな。
これが下校なら、ちょっと寄っていこうと気になる店に入ったりもあったのだが、店はおろか人が一人もいない。用心していた魔物もだ。
まるで俺と悠也だけの世界へ飛ばされたんじゃないかと錯覚しそうなほど……。
「あ、魔物だ。狩ってく?」
「アイス買ってく?のノリで言うなよ……」
『魔物』の言葉にドキリとしたが、悠也の視線の先にいたのはスライムっぽい物だった。うん……『物』だな。
側まで行ってじっくり観察してみるが、カタツムリほどの速度ですら動いていな……
「うわっ!!」
完全に気を抜いていた。
スライムは最弱と見せかけて実は有能という片鱗を見せつけるかのように、驚く速さで体を触手のように伸ばすと、俺の腕へと巻き付けてきた。
……が、その触手はすぐに切り落とされ、悠也の魔法?なのかな?
ビュンビュンと音がして本体も細切れになり、俺の腕に触手の残骸だけが残る。
「ありがと、悠也。魔法か?」
「風魔法だよ。かまいたちみたいな感じ?」
可哀想とかそういう気持ちも起こらないぐらいに『物』だったわけだが、スライムの肉片?というのか、死体?残骸の中にビー玉みたいな物が落ちていた。
「何か落ちてる」
鑑定して見ると【水色の魔石】と書かれている。
水を出してくれたり、水属性の魔法を増強させる効果があるようだ。
「魔石持ってると便利だよ。【収納】を試してみたら?」
言われた通り、魔石を見ながら『収納』と念じると魔石がスッと消える。
収納された物は『持ち物』確認したいと考えただけで一覧がゲームのウインドウの様に現れる。
「持ち物はゆうちゃんにしか見えないからね。ステータスは【鑑定】を持ってると見えちゃうから……はやく鑑定拒否ができるまで【鑑定】のレベルを上げたいよね」
「確かに勝手に見られちゃうのは嫌だわ」
俺も極力、他人を勝手に鑑定するのはやめておこう。レベルが上がれば、悠也がやってたみたいに虚偽のステータスで騙すこともできるようだし、完全に信じるのも危なっかしいな。
「……日が暮れそうだし急ぐ?やっぱりベッドで寝たいよね。もう少しマシな物も食べたい」
朝はパン、昼もパン、この分だと夜もパンだ。
「だな。街まであとどれぐらい?」
「〇〇駅から□□駅ぐらい」
地元の駅名でわかりやすいのかわかりにくいのかわからない例えだが、普段歩こうと思う気にならない距離だということはわかった。
「その距離だと日が暮れるまでに街に着くのは無理じゃないか?また野宿覚悟だな」
「ゆうちゃん……俺、ゆうちゃんにすごいって褒められたい」
「なにを?」
甘える様に肩にかぶさってきた悠也を見上げようとして、視界が回り体が浮かぶ。
「…………」
「ゆうちゃん、拗ねてる顔も可愛い」
「別に拗ねてない……」
面白くないだけだ。
抱っこだ……抱っこされている。
「ちゃんと掴まっててね……」
そう言うや否や、悠也は地面を思い切り蹴った。
「ひっ!!高い……落ちる……落ちるぅぅぅっ!!」
悠也は跳び上がり、着地し、跳び上がるを繰り返す。
だがその跳躍力や、人間の能力を完全に超えている。
ジェットコースターの恐怖感なんて比ではないレベルの高さに、スピードに、危険度だ。必死に悠也の首に腕を回してしがみつくが、振り落とされない為の命綱がお互いの腕だけとはなんと極細の命綱だろうか。
「あ……ほら、見えてきたよ?そろそろ目立つし、ここからは歩いて行こ」
ちなみに普通に会話できるのは、悠也が結界的なものを張ってくれているからだそうです。
やっと地上に下ろされた俺は、愛しいと感じた地面に引き寄せられるかのようにヘナヘナと座り込んだ。足に力が入らない。
「目立つし服も変えとこうね」
両肩に軽く手を置かれると一瞬体が光って……制服は簡素なシャツとズボンにマントという、ありがちな服へと変わる。
この姿なら誰も俺たちを異世界人だとか、聖女だとかは思わないだろう。この世界の人たちの見た目がどんなのかまだ知らないけれど……まぁ、大丈夫だろう。
悠也のこの機動力なら、襲われて追われても逃げ切れるだろう。
魂が抜けかけている俺に悠也は何かを言いたげに見てくる……うん、褒められたいって言ってたもんな。
「す……すごかったな。おかげで一瞬で街まで着いた……服まで、お前の魔法は万能だな」
かろうじて発することの出来た言葉に満足そうな笑顔が返ってくる。何をどうやったのか知らないが、さすが「大賢者」だ。
俺も出来る事ならそっちが良かった。
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